ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■カタトニア(Catatonia) 歌/英語(数曲のみウェールズ語)
 カタトニアは、90年代初頭にウェールズのバンドが、ロンドン、そして、世界へと羽ばたく突破口となったバンドのひとつだ。その意味で、マニック・ストリート・プリーチャーズやスーパー・フューリー・アニマルズらと一緒に語られることもある。

 結成は、1992年。一般には、北ウェールズはスランウスト(Llanrwst)出身のマーク・ロバーツ(Mark Roberts)(G)(1969年11月3日生まれ)と、カーディフの路上で歌っていたケリース・マシューズ(Cerys Matthews)(Vo&G)(1969年4月11日カーディフ生まれ)との出会いが、カタトニアの結成をもたらしたと言われている。だが実際には、この話は誇張されたものらしい。もともとウェールズ語で歌っていたロバーツが在籍していたバンド、Y Cyrffが91年に解散した翌年に更なる飛躍を求め、当時恋人だったマシューズらとカルテットで結成したのが、カタトニアなのだ。

 結成直後のカタトニアに、時が味方をした。90年代初頭、TV曲S4Cは地元ウェールズの若手バンドを特集する番組を放送した。そこに、カタトニアはゴーキーズ・ザイゴティック・マンキやスーパー・フューリー・アニマルズらと並んで出演。そこで得た出演料でスタジオに入り、テープやビデオを制作することが可能になったのである。

 彼らの作成したデモ・テープがインディーズ・レーベルのCrai Recordsに注目され、93年9月にシングル“For Tinkerbell”でデビュー。リズム隊が結成当初のメンバーから、ロバーツの旧友ポール・ジョーンズ(Paul Jones)(B)(1960年2月5日スランウエスト生まれ)と、元ファ・コーフィー・パウブのダヴィズ・エヴァン(Dafydd Ieuan)(Dr)に交代し、更に、クランシー・ペッグ(Clancy Pegg)(Key)が加わり、クインテットとなる。エヴァンは、当時、スーパー・フューリー・アニマルズとカタトニアのふたつのバンドを、かけもちしていた。その後、3枚のシングルを別レーベルからリリースする中、ペッグが頸を言い渡される。代りに、南ウェールズでウェールズ人の両親のもと育ったオーエン・パウエル(G)(1967年7月9日イングランドはケンブリッジ生まれ)が加入。更にエヴァンが脱退。西ウェールズはスランネリ(Llanelli)出身のアレッド・リチャーズ(Aled Richards)(Dr)(1969年7月5日生まれ)がその穴を埋め、最終的なライン・アップが決定した。

 『ウェイ・ビヨンド・ブルー』(Way Beyond Blue)(96年)でアルバム・デビュー。ここからのシングル“You Got a Lot to Answer”が、UKチャート最高35位まで登りつめた。続く98年の『インターナショナル・ヴェルヴェット』(International Velvet)は、初登場11位だったが、シングル“Road Rage”のヒットが手助けとなり、ついにUKチャートで1位を獲得。彼らの最高傑作と名高い3枚目『カースト・アンド・ブレスト』(Equally Cursed And Blessed)(99年)は、初登場1位となった。このアルバムをリリースした99年11月には、単独での来日公演を行っている。続く『ペイパー・シザーズ・ストーン』(Paper Scissors Stone)(2001年)リリース直後、マシューズが体調不良により入院と伝えられる。9月からのツアーで復活することを期待されたが、その2001年9月21日に、バンドは解散を表明した。

 バンド解散後、マシューズはソロに転向。マーク・ロバーツとポール・ジョーンズはシャーベット・アントラーズ(Sherbet Antlers)を経て、ア・ファルクを結成する。





[アルバム(選)]
Equally Cursed And Blessed (99) (Blanco Y Negro / 3984270942)
 決して破裂もせず、かと言って、内にこもることのないケリース・マシューズの歌声がもつバランス感覚は、彼女の天性のものであり、また、ウェールズらしさなのだろう。タイトル『等しく呪われそして祝福される』にも現れる、明暗その両方を均等に扱う彼女のバランス感覚は、アルバム全編を貫き、暗い歌詞を深刻なメッセージに取らせない。暗い歌詞を暗く歌うのは、簡単である。しかし虐げられた民は自らも嗤い、そして、暗い歌詞も笑い飛ばす。それだけタフな精神を持たねば、民族を生き長らえらせることは出来ない。彼女も、やはり、虐げられたウェールズの民の子孫なのだ。「戦争ではなく干草を作ろう」と連呼する1曲目、ロンドンという都会が自分を吸い尽くしてしまう、と歌う2曲目、現実からの逃避願望の8曲目全てが、明るく響くのは、ウェールズの民が伝えてきたバランス感覚の賜物だ。その中で、現代南ウェールズのカラオケ好きを描いた「カラオケ・クイーン」の軽やかさと、これとは対照的にウェールズ民謡の暗さを歌いあげたような「ブルミック・ビーツ」が、異色ながら、目立つ。




[リンク]
 Catatonia.net ... 根強いファン・サイト。その内容は膨大で、素晴らしい。リンクも充実している。イギリス/ウェールズでの公式サイトがない今、最も重要なサイトだろう。。 ※残念ながらリンク切れとなっています。
 The Welsh Band Page ... ウェールズのバンドに関する英語サイト。残念ながら、サイトの更新がかなり以前から停まっている。Catatoniaの紹介あり。。 ※残念ながらリンク切れとなっています。


 Catatonia ... ワーナー・ミュージックによる、日本の公式サイト。もちろん、日本語である。
 Island Girl ... 日本語のサイト。旅行記など盛り沢山のサイトで、音楽欄にカタトニアのCDを採り上げたページあり。かなり貴重なジャケ写もみられる。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata








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