ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■アル・ログ(ar log) 歌/ウェールズ語
 ウェールズの伝統音楽を演奏するバンドの中では、最も愛されるバンドのひとつとして必ず名前があがるのが、彼らアル・ログである。メンバーの演奏技術が高いのが、その理由の一つだが、伝統音楽への造詣も深く、また、ウェールズの伝統楽器であるトリプル・ハープの復活に貢献した事実が、彼らの人気に拍車をかけているようにも思える。

 結成は1976年8月。フランスはブルターニュのLorientでのケルティック・フェスティヴァルで、ウェールズの伝統音楽を演奏する目的で結成された。当初はこのフェスティヴァル出演のみの予定だったようだが、アイルランド伝統音楽の雄ザ・ダブリナーズのメンバーに活動を続けるように勧められる。その結果、メンバーはこのバンドの存続を決定。以後、メンバーは演奏活動と巡業(演奏ツアー)により、生計を立てることになる。

 メンバーは流動的だが、現在、その中心となるのは5人だ。在籍歴が一番古く、かつバンドの音楽的な方向性を決定するのが、ダヴィズとグインダヴのロバーツ兄弟(Dafydd & Gwyndaf Roberts)だ。ともに北西ウェールズのスイングウリル(Llwyngwril)で育った、ハープ奏者である。ダヴィズがトリプル・ハープを担当し、グインダヴはニー・ハープを弾く。


1984年ごろ。左から順番に、ダヴィズ・ロバーツ、ゲライント・グリンネ・デイヴィース、
イオロ・ジョーンズ、グインダヴ・ロバーツ、スティーヴン・リース

 そこにゲライント・グリンネ・デイヴィース(Geraint Glynne Davies)(Vo & G)、グラハム・プリチャード(Graham Pritchard)(fiddle)、イオロ・ジョーンズ(Iolo Jones)(fiddle)が加わり、5人の中心人物となる。ダヴィズ・イワンとの交流も深く、共演アルバムも残している。しかしながら彼らは自分たち自身を「雇われバンド」(band for hire)と呼び、また、そこからウェールズ語で文字どうり「賃貸し」や「雇われ」を意味する言葉から、バンドの名前がつけられた。

 現在では、ツアーはあまり行わなわず(2004年にはブリン・ターフェルが主催するタン・ア・ズライグ音楽祭<Tan y Ddraig;龍の炎の意味>に出演した)、レコーディングにその活動の場を移している。また彼らのレコードはsainとDinglesというレーベルから出ていた上に、かつては初期のものなどほとんどがテープでしか入手できず、その音楽を知るには、編集盤に頼らざる終えない状況だった。しかしながら現在ではCD化も進み、その多くはカップリングだが、アル・ログの音をアルバム単位でCDという媒体を通じて楽しめる。





[アルバム(選)]
O W I XI (91) (sain / SCD 9068)
 1曲目から軽やかなダンス・チューン「カナーヴォン城」を聴かせるこのCDは、アル・ログの4枚目と5枚目のアナログ・スタジオ・アルバムを収録したものである。収録曲のほとんどが伝承歌だが、一般的に「ウェールズらしい」と言われる暗い曲ではなく、風通しの良い、明るい曲が多く選ばれている。そのため全体を通じて、軽やかなトラッド・アルバムという印象を受ける。ウェールズの伝承歌=暗い、というイメージを払拭してくれるアルバムだ。また、ここにはリールやジグのような曲がなく、ウェールズには、アイルランドのようなテンポの極端に早い踊りの曲が残されていないという歴史的事実も、再認識させてくれる。演奏として面白いのは、Xにあたる10曲目からだ。特にこの10曲目にはシンセ・ベースが使われており、伝承歌は演奏者や時代によって変化するものだという事実を、改めて思い起こさせてくれる。伝承歌を演奏するバンドのほとんどが発掘作業に没頭しているのに対して、この前向きな姿勢が、アル・ログを本物のトラッド・バンドにしていることがうかがえる1曲である。なお、ブックレットには曲の出自などの記述があり、歌詞とともに英語に訳されている。

VI (96) (sain / SCD 2119)
 ウェールズの伝統音楽が、アル・ログの現代的な編曲によって甦ったアルバムだ。この編曲が何とも巧。ベース・ギターや、ドラムス、パーカッションを適度に使うことで、ウェールズ伝統音楽の土着性を際立たせることに成功している。通常、このような楽器を伝統音楽に導入することによって、新しさは出てくるが、その反面、伝統音楽の良さを消してしまう場合が多い。しかしそうならないのは、アル・ログの伝統音楽への理解のみならず、愛情が深いためだろう。また数曲、イオロ・ジョーンズが自作曲を提供している。これがその伝承歌の間に、自然に溶け込んでいる。これがまた、素晴らしい。実にこのおかげで、アルバムの完成度が高まっている。なお、バンド結成20周年を記念して、かつてのメンバーが録音に参加している。ウェールズ語と英語による注釈あり。

Goreuon Ar Log / The Best of Ar Log (2007) (sain / SCD2547)
 2枚のディスクに、アル・ログの6枚のスタジオ・アルバム(Ar LogAr Log IIAr Log 3Ar Log IVAr Log VAr Log VI)から選ばれた40トラック(※メドレーが多いため、トラック数で表記する)を収録。収録トラックは全て2007年4月にデジタル・リマスターされている。選曲はアル・ログのメンバー自身。明るい曲中心の選曲となっている。収録曲の中には、「トラ・ボ・ダウ」「カナーヴォンの船」など人気の高い曲はもちろんのこと、中には“Castell Caernarfon”(カナーヴォン城)18世紀に収集されたジグなども収録。またトリプル・ハープ用に編曲された「アベルダヴィの羊飼い」や、ジョセフ・パリーの名曲「マヴァヌイー」のアル・ログ版の演奏も聴かれる。ウェールズ伝統音楽のみならず、アル・ログの魅力に存分に浸れること、間違いなし。ボーナス・トラックとして、ドイツでのライヴ演奏も収録。その上ブックレットには、ウェールズ語/英語による全曲の出典・解説付きという大満足の内容だ。






[リンク]
 sain ... レコード・レーベル。アル・ログのアルバムの一部を扱っています。

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ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata








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