ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■シブリディオン(Sibrydion) 歌/ウェールズ語、英語
 2004年のアイステズヴォッドは、ニューポートで行われた。そのウェールズの祭典の舞台に、一人の青年が立った。彼の名は、メイリル・グウニッズ(Meilir Gwynedd)。彼はかつてウェールズ・バンド期待の新星ビッグ・リーヴスのメンバーだった。誰もが1年前に活動を停止したビッグ・リーヴスの再出発だと、思ったことだろう。しかしこれは、全く新たな出発だった。

 このメイリルに兄弟のオシアン(Osian Gwynedd)が加わり、バンドとして新たな活動を始めるまでは、そう長い時間はかからなかった。このプロジェクトが、シブリディオンとなる。

 シブリディオンは、メイリルとオシアンの兄弟を中心に、ギターのダン・ローレンス(Dan Lawrence)とベースのリース・ロバーツ(Rhys Roberts)の4人組として活動をしている。彼らはラジオ・カムリC2の2005年最優秀C2セッション賞を勝ち取り、ついで彼らの曲“Dafad Ddu”がウェールズ音楽の専門番組バンディット(Bandit)のテーマ曲に選ばれた。

 一躍人気を得たシブリディオンは、カーディフのスタジオに入る。そして2005年7月にJig Calでアルバム・デビューを飾る。このオリジナルティ溢れるアルバムは、2006年BBCラジオ・カムリ・ラップ賞に輝いた。

 その後もシブリディオンは順調に活動を続けていた。2007年にはSimsalabimをリリース。更にその年の暮れには、ポップ・ファクトリー・ミュージック賞で何と最優秀ウェールズ・アクト賞を勝ち得たのである。

 そして2009年には、スーパー・ファーリー・アニマルズのキアン・キアランのプロデュースにより、初の英語アルバムとなるCampfire Classics (2009年)をリリース。各音楽誌から絶賛をほしいままにした。





[アルバム(選)]
Jig Cal (2005) (Rascal / CD009)
 おどけた表情のアルバム・ジャケットとは対照的な、へヴィなサウンドで幕を開ける。このへヴィなベースに、独特の土臭いウェールズ・サウンドが被さる。それだけでご機嫌だ。この全編に通じて流れるへヴィなベースと、それとは対照的なキャッチーなメロディの間にとられた微妙なバランス感覚が、このアルバムを何とも魅力的にしている。またフィーダーやスーパー・フューリー・アニマルズの音楽にも通じる、擬音を使用した遊び心も満点で、聴き手を飽きさせることがない。収録曲は、テレビの音楽番組のテーマ曲に選ばれた“Dafad Ddu”をはじめ、非常にバラエティに富んでおり、スーパー・フューリー・アニマルズらの北の音の流れを汲む“V V V”、“Blithdraphlith”や“Arthur”、グランジ調の“Hel Clex”、メロウな“Chiwawas”など聴き所も多い。

Campfire Classics (2009) (Dell'orso Records / EDDA17CD)
 シブリディオンにとって、初の英語アルバム。ファースト・アルバムJig Cal とは対照的に、暗いジャケットに明るい音を持つ。だがその歌詞は、暗い。たとえば“Desparados”は人生を踏み外した男の物語であるし、“Rosalynn”では自らの命を絶ったサルサのダンサー(実際にメイリルがブエノス・アイリス滞在中に読んだ小さな記事に発想を得たらしい)のことを歌う。これらを包みこむ音が非常に明るいのは、辛いことを笑い飛ばすという虐げられた民族ならではの感覚によるものか。ゲストにAcid Casualsのケヴィン・テイム、元カタトニアのマーク・ロバーツ、男声合唱団ら総総たる面々を迎え、プロデュースの席にはスーパー・ファーリー・アニマルズのキアン・キアラン(彼らの友人でもある)が座っている。そのためか所々でスーパー・ファーリー・アニマルズらしき音も聴こえるが、そこは個性の強いシブリディオン。その音を消化/昇華し、彼ら独自の音で聴かせる。そのため歌詞は全て英語ながらも、“どこを切ってもウェルッシュ・ポップ”になっている。これが素晴らしい。





[リンク]
 Rasal ... シブリディオンがアルバムを出しているレーベル。簡易ながらバイオグラフィーもある。Rasalはレコード・レーベルであると同時にプロモーターなども行う会社だ。ウェールズ語の音楽雑誌Y Selarも出版している。


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ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2006-2010: Yoshifum! Nagata








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