ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽2:クラシックおよび現代音楽――



■グレース・ウィリアムス(Grace Williams) 作曲家
 グレース・ウィリアムスは、クラシック音楽の作曲家である。また、ウェールズの外で一番最初に、そして、最も成功した女性作曲家と言われている。
 グレースはグラモーガンシャーのバリー(Barry)で、1906年2月19日に教師の両親の下、生まれた。音楽の教師でもあり、少年合唱団の指揮をしていた父親の影響か、グレースは幼い頃から作曲をするようになる。そして20年に地元バリーで行われたアイステズヴォッドに感銘を受け、作曲を生涯の仕事と決めた。
 カーディフ大学を卒業した後、ロンドンの王立音楽大学で学び、その後、ウィーンに留学する。31年にロンドンに戻ったグレースは、教鞭をとるようになる。30年代には作曲家であり、ピアノ奏者でもあったベンジャミン・ブリテンと出会い、ブリテンはグレースに映画音楽の仕事を紹介した。しかしながら、異国で暮らすうちに、グレースには故郷ウェールズに対するヒラエス(憧憬)が芽ばえ、そして、大きくなっていった。45年に過労とストレスから体を壊し、47年にグレースは故郷のバリーに戻る。その後、作曲家として、そして、教師として残りの人生をバリーで過ごした。77年2月11日、ウェールズにて没。
 グレースの作曲には、ロンドン王立音楽大学時代について学んだ師、ヴォーン・ウィリアムズ(Vaughan Williams)(1872年10月12 日-1958年8月26日)の影響が強く、師と同じように、民謡を題材に使った作品が8曲残されている。そのうちの1曲、30年に書かれた「ヘン・ヴァリア」(Hen Walia)は、ウェールズ民謡を使用しているが、これは、彼女のヒラエスが強くなったため書かれた作品だと言われている。また彼女の最も有名なオーケストラ作品は、『ウェールズの子守唄に基づく幻想曲』Fantasia on Welsh Nursery Tunesであり、タイトルにあるようにウェールズの伝承歌8曲をその作品の基盤に置いている。『4つの中世ウェールズ詩』(Four Midieval Welsh Poems)や、ウェールズの最古の伝説『マビノギオン』に基づいた『ライアンノンの伝説のための4つの挿絵』(Four Illustrations for the Legend of Rhiannon)などの作品もある。また、海のそばで生まれ育ったグレースは、自身の音楽のリズムやメロディに、潮騒の影響があるとも語っている。
 このようにグレースは、クラシックという音楽形式と、オーケストラを媒体として使い、ウェールズを描こうとした。それは、彼女の中にある「ウェールズらしさ」を描くことであり、また、彼女が生まれ育った美しいウェールズの海、そして丘と谷を、音楽を通じてウェールズ人と、ウェールズの外に住む人々に伝えることであったように思える。



[アルバム(選)]
Welsh Classical Favourites (2000) (Marco Polo / 8.225048)
 ウェールズ生まれのクラシック音楽の作曲家の作品を集めた本アルバムの冒頭を飾るのが、グレースの『ウェールズの子守唄に基づく幻想曲』Fantasia on Welsh Nursery Tunesだ。10分強の演奏時間の中で、8曲の伝承歌が奏でられるこの曲は、決して目まぐるしい印象は与えない。むしろ、力強いファンファーレで幕を開け、次第にどこか翳りがある優しくも緩やかな旋律で、ウェールズ人のヒラエス(憧憬)を掻き立てる。そして最後は、高音部の長い旋律で聴衆を包みながらも、低音部の強靭なリズムで民族魂を鼓舞させるのだ。この1曲の中だけで、ウェールズ人のヒラエスと勇敢な姿を描かれている。
 アルバム全体の解説は、
こちら

Williams: The Dancers etc. (84)(98) (Chandos / Chan 9617)
 『ウェールズの子守唄に基づく幻想曲』では、「ウェールズらしさ」を心地良い音ばかりを聴かせたグレースだったが、彼女の独唱と合唱による4作品を収録したこのアルバムは、グレースの「ウェールズらしさ」のみならず、現代的な音までも響かせる。51年から75年までの作品が収めらており、一番古い作品「踊り子たち」(The Dancers)で既に現代的な不協和音が、顔をのぞかせている。しかしながら、グレースはその不協和音を掘り下げることはすれど、クラスターなど和音破壊の手法に至らなかったのは、一番新しい『ふたつの合唱』(Two Choruses)で知れる。むしろ私は、適度に不協和なハーモニーと、力強いメロディがギリギリのバランスで組み合わされた音に、現代ウェールズの「暗さ」や「歪み」を感じる。なお、カソリックの神父であり詩人のG. M. ホプキンスの詩に作曲した『6つのガーラード・マンリー・ホプキンスの詩』のうち、‘Pied Beauty’、‘Hurrahing the Harvest’、‘The Windhover’は、ホプキンズが北ウェールズで残した詩である。





[リンク]
 GRACE WILLIAM Welsh Composer by Pamela Blevins ... 記事。このページを書くのに参考にさせていただいています。
 GRACE WILLIAMS by David C. F. Wright ... 記事。このページを書くのに参考にさせていただいています。

ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003: Yoshifum! Nagata








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