ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽3:合唱、ハープ、コンピレーションなどのCDガイド――



[合唱団]
■V.A. / favourite welsh choirs (2000) (EMI Records / 7243 5 27045 2)
 所謂『丘陵地帯』(Valleys)出身の男声合唱団の熱唱を中心に編まれた、コンピレーションCD。コンピレーションとは言うものの、侮ることなかれ。「ハルレッフの男たち」「マヴァヌイー」「わが父祖の国」「クム・ロンザ(ロンザ丘陵)」「歓迎しよう」「小さなシチュー鍋」「神に感謝」などウェールズを代表する曲から、ピエトロ・マスカーニの「復活祭の讃歌」(オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』より)や「アメイジング・グレイス」、そして「リパブリック賛歌」「主の祈り」などの諸外国の合唱定番曲も収録している。そして何よりも、ここに収録された合唱はどれも清楚であり、同時に力強い。値段も安いので、ウェールズの男声合唱団をまだ体験していないかたは、これからどうぞ。


■Cor Gopre Glas / Mynd a'n Can i'r Byd (2002) (Sain / SCD 2338)
 男女混声合唱団によるCD。「最善を尽くす合唱団」を名乗る彼らは、97年に中部ウェールズのモントゴメリー州で結成された。合唱団の結成5周年を祝って制作されたこのCDでは、ウェールズの伝承歌のみに留まらず、ディラン・トマスの詩に曲をつけた「日没の詩」や、オペラ『ミカド』で有名なギルバート&サリバン、シューベルトやモーツワルトの曲までも取り上げている。結成5年という若さのおかげか、他の合唱団にない瑞々しさが全体から滲み出ている。


■Cor Godre'r Aran / Evviva! (96) (Sain / SCD 2120)
 バラ湖の湖畔の村で1950年に結成され、これまでに4回アイステズヴォッドの合唱コンクールで優勝を勝ち得ている合唱団のCDだ。この合唱団は、ウェールズ国内のみならず、アメリカ、カナダ、ブラジル、香港やシンガポールまで遠征公演を行っているほどの実力派。伝承歌のほか、ヴェルディの「エルナーニ」と「エルサレム」(どちらもウェールズ語に訳されている)やサリバンの曲も採用されているが、何と言っても注目したいのは、アルバム最後に収められた「ハーレフの男たち」だ。ウェールズ男声合唱団の力強さを堪能できる。歌詞カードがついて全15曲収録。


Goreuon Coôr Meibion Dyffryn Tywi (The Best of Vale of Tywi Male Choir (2000) (Sain / SCD 2259)
 1975年に結成されたタウイ丘陵男声合唱団が、1981年と84年にサイン・レーベルに残した音源から選ばれた選曲集である。全17曲収録。伴奏のピアノやオルガンが多少前に出ている曲もあるが、基本的にウェールズ男声合唱団特有の力強さが溢れたアルバムだ。どこを切っても、その哀愁を帯びた力強さが浮かび上がる。アルバムの裏ジャケットにある教会内の写真を見ながら聴いていると、臨場感抜群で、これぞ男声合唱団の真髄とでも呼びたくなる。中でも哀愁を称えた力強い「ヘッズ・ウアンの形見の短詩」("Englynion Coffa Hedd Wyn")、"Hen Ddarbi"や「我、神を常に必要とす」("Mae D'eisiau Di Bob Awr")は、白眉の出来である。定番の曲よりも聴き慣れない曲が多く、他のCDなどで定番に食指気味の向きにも十分おススメできるアルバムだ。


20 Uchaf Emynau Cymru (93) (Sain / SCD 2020)
 非常に興味深いCDだ。1993年初頭に数百人のウェールズ人の投票によって決められた、「最も好きな賛美歌20曲」を集めたのが、このCDである。炭鉱の閉鎖や近代化による宗教心の薄れから、教会での会衆による賛美歌の合唱は珍しいものとなったが、賛美歌の合唱は伝統としてウェールズに根づいていることが、ここに寄せたウェールズ人の関心の高さから判明した。「清らかな心」や「ロンダ谷」などの定番曲から、S.J.グリフィススの唯一の賛美歌“In Memorial”やアイステズヴォッドで4回優勝したエヴァン・リースの“Price”、そしてパンティーケランの“Lausanne”と“Ty Ddewi”などが選ばれている。音源は、サイン・レーベルが所有している音源を中心に、77年から93年までの録音から集められている。


A Nation Sings (Black Mountain Records / CDBM2000)
 ロンドンはロイヤル・アルバート・ホールで、5000人を超えるウェールズ人による合唱を収録したのが本作である。5000人を超える合唱隊のメンバー以外は、指揮者のジョン・ペレグ・ウィリアムス(John Peleg Williams)にオルガン奏者のカリス・ヒューズ(Carys Hughes)のふたりのみ。おかげで壮大なる混声合唱の真髄を味わうことができる。名曲「カロ・ラン」に始まる全19曲は、どれも雄大かつ壮大なスケールで歌われる。特に素晴らしいのは「叫び」("Llef")のような短調の曲における、後半からの盛り返しである。深い哀しみを冒頭で現しつつ、後半から力強い合唱が湧き上がる様は、まさにウェールズ人の粘り強さや反骨精神を感じさせる。
 余談ながら、「クム・ロンザ」や国家「わが父祖の大地」などこれら壮大な合唱を聴いていると、南ウェールズの丘の連なりやブレコン・ビーコンズ山脈の様子が目に浮かんでくるから不思議だ。






[ハープ・ミュージック&ケルズ・ダント]
goreuon CREDD DANT CYFROL1 (2001) (Sain / SCD 2329)
 歌とハープの音楽である、ケルズ・ダントを集めたコンピレーション・アルバム。ケルズ・ダントに関しては様々な説明がなされているが、百「読」は一「聞」にしかず。このアルバムを「聴」いて、ケルズ・ダントを体験してほしい。このアルバムを聴けば、ケルズ・ダントがどのような音楽かわかるだろう。即ち、ここには現代音楽に見られるような、ハーモニーの乖離や和音破壊(クラスター)や内在律によるリズムの分化はなく、従って、どの曲も、歌のメロディとハープのメロディの両方を大事にしている。ハープが古典的なウェールズ民謡のメロディを奏で、歌(独唱と合唱の両方がある)がそれに対旋律をつけるわけだが、ハープのメロディのためか、中世風の雰囲気がアルバムを通して漂っている。合唱とハープの演奏は、近代ウェールズ(合唱)と中世ウェールズ(ハープ)の両方の世界が同時に描かれており、時間を隔てたふたつの――王国と占領下の両方の――ウェールズの世界が、私には感じられる。


goreuon CREDD DANT CYFROL2 (2004) (Sain / SCD 2448)
 先のコンピレーションの第2弾。更にバラエティに富んでおり、これが第1弾より遥かに良い。ケルズ・ダントがどういうものか第1弾でわからなかった人にこそ聴いてほしい作品だ。11曲目ではウェールズ民謡の名曲中の名曲“Cwm Rhondda”をハープが奏で、そこに別のメロディで男声合唱が合わさる。これを聴けばケルズ・ダントがどういうものか、理解できるはずだ。“Cadair Idris”のハープに男性の歌があわせる2曲目、女性の合唱が美しくも悲しい12曲目、14曲目、ジャズ・ピアノとサックスも加わった変り種の16曲目など聞き物も多い。中でもハープの悲しい曲と、同じく悲しみをたたえたような女性による歌が、時に寄り添い、時に反発する3曲目は白眉の出来だ。


■Llio Rhydderch / enlli (2002) (Ffach:tradd / CD250S)
 ハープ奏者スリオ・リーゼルッハ作曲/演奏による、ハープ・アルバム。1CDと1DVDからなる、ダブル・アルバムである。彼女がここで描くのは、エンスリ(Enlli)、即ち、英語で言うバードセイ島である。繊細でありながら、憂いのある音で、彼女はこの島の美しさのみならず、同時に一日中吹き荒れる冷たい強風をも表現する。なおDVDでは、画像はやや粗めのものの、美しいエンスリの情景を彼女の演奏と共に観ることができる。






[クラシック・ミュージック]
Welsh Classical Favourites (2000) (Marco Polo / 8.225048)
 20世紀にオーケストラのために作曲されたクラシックの楽曲を集めたのが、このアルバムである。グレイス・ウィリアムスの“Fantasia on Welsh Nursery Tunes”を筆頭に、全9人の作曲家(グレイスを含む)の作品が収められている。そのため、効率よく、ウェールズのクラシック・ミュージックの作曲家を知ることが出来る。どの曲も美しいメロディをもっており、やはりウェールズは、歌がなくても歌の国だと納得してしまう。その一方で現代音楽(コンテンポラリー・ミュージック)の曲が1曲もないのは残念だが、ポピュラー・ミュージックでも、フォーク・ミュージックでもない現代ウェールズの音楽を聴くには、最適の編集盤CDかもしれない。





[フォーク・ミュージック]
Gorau Gwerin - The Best of Welsh Folk Music (92) (Sain / SCD 2006)
 伝承歌を現代に甦らせたアルバムだ。全22曲のうち20曲で、アル・ログを始め、様々なミュージシャンが伝承歌に取り組んでいる。残りの2曲は新しく書かれた、いわゆるフォーク・ミュージックで、そのうち1曲はメイック・スティーヴンスによるもの。もう1曲は、ドン、ダヴィズ・イワンによってアル・ログとのツアー中に書かれた“Yma O Hyd”である。これはダヴィズとアル・ログ名義のアルバムにも収録されている。なお、全曲ウェールズ語と英語による注釈と歌詞つき。


Goreuon Canu Gwerin Newydd - The Best of New Welsh Fok Music (97) (Sain / SCD 2146)
 全18曲、新しいフォーク・ミュージックを集めたのがこのCDだ。無名のミュージシャンから、シアン・ジェームス、アル・ログ、カレッグ・ラヴァール、ダヴィズ・イワンらも曲を提供している。英語による簡単なアーティストと曲の解説が、ブックレットにある。






[コンピレーションその他]
Can O Gymru - Sourvenior of Wales in Song (89) (Sain / SCD 9026)
 ウェールズで録音されたベスト20のアルバムから、更に選ばれた20曲が収められたのが、このCDである。合唱団、アイステズヴォッドでの実況録音、ウェルッシュ・ハープのデュオから、ダヴィズ・イワン&アル・ログやメアリー・ホプキンの歌(プレスリーの“Can't Help Falling in Love”のウェールズ語カヴァー)までとその内容は多義に渡る。収録曲もヴァラエティに富んでいて、イントロおよびアウトロが通常のアレンジと異なる「ハーレフの男たち」やディラン・トマスの詩「日没の詩」、賛美歌、伝承歌などの定番曲から、サイモン・アンド・ガーファンクルの「明日にかける橋」のカヴァーや「アメイジング・グレース」のウェールズ語版まである。だが最も素晴らしいのは、ウェールズ人の合唱好きを捕らえた国歌「わが父祖の国」の5000人による合唱である。ステレオ・スピーカーでは、録音された会場の至るところから湧き上がる声を完全に再現できないが、その素晴らしさの一端に触れることができる。


TWIN TOWN original soundtrack (1997) (A & M Records / 540 718-2)
 映画『ツイン・タウン』のサウンドトラックは、90年代後半の若くも熱いウェールズ・ロックのシーンを垣間見る上で、非常に面白い。カタトニア、マニック・ストリート・プリーチャーズ、スーパー・フューリー・アニマルズなどの90年代後半、ウェールズ・ロック・シーンを牽引していった名が並ぶ。だがこのアルバムが編纂された時、彼らの置かれた状況は異なる。マニックスは過渡期だった。カタトニアは現役で、スーパー・フューリー・アニマルズは未だ2枚のアルバムしか出していない、新人バンドだった。だが1枚のアルバムで彼らの音楽を一緒に聴くと、「底抜けの明るさ」という90年代後半のウェールズ・ロック・シーンの共通点が浮び上がってくる。それはもちろん、ウェールズの民族性に帰するものだ。従って映画の最後のシーンに出てきた男声合唱団の歌も収録すれば、ウェールズ人の音楽性を探る上で興味深いアルバムとなったはずだ。なお1曲目にはダイアローグとして、残念ながら映画の予告編にしか使用されなかった、有名な“Thousands of Years of Welsh Culture”が収録されている。


placid casual Depressed Celts Vol 1 (2003) (Placid Casual / TFCK-87378)
 スーパー・フューリー・アニマルズ(以下SFA)が立ち上げたレーベル、プらシード・カジュアルの初のコンピレーション・アルバムである。小さなレーベルのコンピレーションは、そのレーベルの性格が出ていて興味深いものが多いが、これもそのひとつだ。全10曲(シークレット・トラック1曲を除く)6アーティストの作品を収録。SFAの曲も3曲収録されているが、そのうち1曲は変名で演奏しており(The Lower East SideParting)、それがシークレット・トラックとして収録されている。ややっこしいが、SFAらしい悪戯だ。スコットランド出身のQualidadaとカリフォルニア出身のArm of Rogerも作品を提供しているが、全体的に土の香りのするオーガニックな音楽で統一されている。そうは言っても先ほどのような悪戯をするSFAのレーベルである。安心して聴いていると、ゆっくりと忍び寄る捻れた音に、いつの間にやら絡めとられて動けなくなった自分を発見する。
 なお本作は現地ウェールズでは2003年に発売されたが、日本では2004年の暮れになってようやく発売された。


Dan Y Cownter (2005)
 BBCラジオ1のDJ ヒュー・スティーヴンス(Huw Stephens)が編纂した、無料配布CD。プレス・リリースによると、2005年6月より半年かけて、ウェールズ中の若者10000人に様々なウェールズ語のタレントやイヴェントを知らしめる目的で配布されたという(入手方法など詳細はWelsh Music Foundationへ)。全35分強に10の若いアーティストによる10のウェールズ語の楽曲を収録。フォーク、ロック、ラップ、オルタナと何でもありの盛りだくさんの内容である。ここに名を連ねているのは、いずれもステレオフォニックスら炭鉱閉鎖を思春期に経験した世代より、ひとつ後の世代がほとんどだ。このCDに詰め込まれた実に多彩な才能を聴いていると、現在のウェールズは、新しいポピュラー・ミュージックという鉱脈をその国の中に眠らせているように思えてくる。確かに鉄鋼資源をウェールズの炭鉱から採掘する時代は、終わった。その代わりにこれからは、「歌の国」ウェールズの中に眠っているポピュラー・ミュージックという鉱脈を採掘する必要があるように感じてくる。






ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2004-2013: Yoshifum! Nagata








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