ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ダトブラギ(Datblygu) 歌/ウェールズ語
 ウェールズには、ウェールズ語のレコードをリリースするレーベルが、既に1969年にあった。ダヴィズ・イワンらがはじめたサイン(sain)である。当時、イワンらはウェールズの新しい音楽をリリースする目的で、この新興レーベルを開設。その音楽とは、フォークソングであった。そして歴史の中から掘り起こされた民謡であった。

 時は移り80年代。サインがリリースするのは、依然、イワンとその周辺の音楽だった。すなわちそれはフォークソングであり、民謡であり、合唱だった。

 だが変化の激しいポピュラー・ミュージックの世界では、既にそれは昔の音楽だった。時代はすでにパンク以降であり、MTVが世界中を席巻していた。そこにウェールズ語のニューウェーブで風穴を開けたのは、まさしくウェールズ語で「発展する/させる」を意味する、このダトブラギである。

 ダトブラギは、1982年にデヴィッド・R・エドワーズ(David R. Edwards)(Vo)(ケレディゴン州アベルタイヴィ生まれ)と、T・ウィーン・デイヴィース(Instruments)によって結成された。ふたりは4本のカセットテープ(『体の疑惑』(Amheuon Corfforol)、『真実を転送しながら』(Trosglwyddo'r Gwirionedd )、『ミー・ブラック』(Fi Du)、『恋人たちのためのラヴ・ソング』(Caneuon Serch I Bobl Serchog))をリリース。そしてそこに、 1985年、パット(もしくはパトリシア)・モーガン(Pat (or Patricia) Morgan)が加わる。

 彼らはアンレーヴンのレーベルより、7インチEP“Hwgr Grawth-Og”(1986年)でデビュー。翌1987年5月にダトブラギは、イギリスでもっとも有名な名物DJジョン・ピールの番組に招かれ、「ガレスの鞄」(“Bagiau Gareth”)以下5曲を録音。これがもとでジョン・ピールに気に入られ、以後、ウェールズ語のニューウェーブという市場性においては不利な面をものともせず、ピールの番組に出演している。


デヴィッド・R・エドワーズ

 ダトブラギは1988年『卵』(Wyau)でアルバム・デビュー。1990年には彼らのマスターピースとなる2作目『ポスト』(Pyst)をリリース。1991年に、ダトブラギはアンクスト・レコードに身を移し、クリスマス・アルバムとなる『四季気質ボックス』(Blwch Tymer Tymor)(1991年)をリリースする。

 1992年にはシングル“Maes E”と、ジョン・ピールの番組出演時(3回)の演奏を集めたアルバムがリリースされる。この時までに、T・ウィーン・デイヴィースは脱退。またフロントマンのデヴィッド・R・エドワーズは酒に溺れていたが、何と学校でウェールズ語を教えながら糊口をしのいでいた。そして3枚目となる『Libertino』(Libertino)(1993年)は、エドワーズとモルガンのふたりにアル・エドワーズ(Al Edwards)(Dr)とレイナルスト・アプ・グイニッズ(Rheinallt ap Gwybedd)(B)らにゲスト・ミュージシャンを加え制作された。そしてシングル「アルコール/アムネジア」(Alcohol / Amnesia)(1995年)をリリースし、バンドは活動に一旦終止符を打つ。

 このまま歴史を終えるかと思いきや、ダトブラギは2008年8月にシングル「現代僧侶の歌」(“Can y Mynach Modern”)をリリース。復活を果たした。





[アルバム(選)]
Wyau / Pyst / Libertino (1987-2004) (Ankst / ANKST 111)
 ダトブラギの『卵』(Wyau)『ポスト』(Pyst)『Libertino』(Libertino)の3枚を2枚のCDに収めたお得盤。アルバムの年代順に編纂させれているので、ダトブラギの音楽の変遷を知ることもできる。1枚目の『卵』を聴くと、彼らの音楽がいかに素晴らしいものだったかわかる。いや、“ヤバい”といったほうが良いかもしれない。非常に“危ないモノ”を聴いてしまった、という感覚にアルバム冒頭から包まれる。これの虜になれば、二度とそこから離れることはできない。そう思わせる。アルバムを追うごとにその“ヤバい”感覚は後退していくが、それも彼らが“落ち着いた”大人になったのではなく、真にものを見据えているからだと思わせられる。CDには豪華ブックレットが封入されており、そこには全曲ウェールズ語の歌詞と、英語の訳詩付き。これはうれしい。

The Peel Sessions 1987-1993 (2008) (Ankst / ANKST 119)
 ダトブラギのピール・セッションを集めたCD。87年5月13日の番組初登場も含め、計5回のセッション20曲を収録。アルバム以上に躍動感のある“ヤバい”音を伝えてくれる。88年の音源が特に良い。また91年の出演では、音が落ち着きつつありながら、3曲目(CDの総トラック数でいうと11曲目)で彼らの音楽の“極み”を聴かせてくれる。破壊音とシンセサイザーのピコピコ音に、深いエコー(ディレイ)のかかったデヴィッド・R・エドワーズの早口のヴォーカル。これだけでも“ヤバい”のに、それが最後に迎えるカタルシスの衝撃は唯一無二。92年以降の楽曲では、『Libertino』レコーディング参加者に更にゲストを迎え録音されている。全曲、エドワーズ本人による簡単な解説つき。





[リンク]
 Recordiauankstmusikrecords ... ダトブラギのバイオグラフィー。英語。
 Datblygu ... デウィ・グイーン(Dewi Gwyn)のサイト内にあるページ。何とダトブラギの初期4本のカセットがmp3で聴かれる!

 このアーティストに関するウェブ・サイトの情報をお待ちしております。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2010: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Sarah Hill, 'Blerwytirhwng?' The Place of Welsh Pop Music, (Ashgate, 2007)




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