ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽2:クラシックおよび現代音楽――



■ブリン・ターフェル(Bryn Terfel) バス・バリトン/英語 & ウェールズ語
 ブリン・ターフェル(本名:ブリン・ターフェル・ジョーンズ)は、現在、バス・バリトンとして、また、ウェールズ出身のオペラ歌手として最も有名な人物である。
 1965年北ウェールズはスノードニアのパントグラス(Pant-Glas)の農家に、ブリン・ターフェルは生まれる。幼い頃からウェールズの歌に親しむことのできる恵まれた環境で育ち、歌手としての道を選ぶようになる。
 ロンドンのギルフォード音楽学校で専門的に音楽について学んだ。89年の卒業時には、学校で最優秀歌手に選ばれ、金メダルを獲得する。90年にウェルッシュ・ナショナル・オペラの公演でデビュー。91年には、はまり役となるフィガロ(オペラ『フィガロの結婚』)を既に演じている。92年のザルツブルグ・フェスティヴァルで歌ったサロメが好評を得、世界中のコンサートやオペラで活躍するようになる。現在まで、数多くの賞を得、また、この他にも『ドンジョヴァンニ』を歌い、好評を得ている。2000年からはファイノル・フェスティヴァル(Faenol Festival)を主催し、自らその美声を屋外ステージで披露するなど、ウェールズ音楽界への貢献度も高い。
 2004年11月には同郷のカール・ジェンキンスが、初めてウェールズの詩人を扱った作品“In These Stones Horizons Sing”に参加。翌年3月に発売されたアルバムRequiemでは、この作品で悠然たる素晴らしい歌声を披露している。




[アルバム(選)]
same (1988) (Sain / SCD 9032)
 全16曲収録。オペラ公式デビューより遡ること2年前の88年に録音されたのが、本作である。当時まだブリン・ターフェルは学生だったわけだが、その実力が抜きん出ていたことは、ここでわかる。彼の歌声は、若々しくも、雄雄しい。祖父ら合唱を好んだ伝統を受け継いだ、力強さもある。反面、叙情さにおいて深みが欠けている面もないわけではないが、それも若さゆえのこと、仕方のないことだろう。それよりも若さから来る瑞々しさが素晴らしい。その叙情的な面から瑞々しさが滲み出る13曲目「白い岩場のダヴィズ」は、アルバム中でも名演のひとつに数えられるだろう。全曲伴奏はピアノのみ。地元ウェールズの詩人の詩や伝承歌に交じり、シューベルトやモーツワルト、ヘンデルらの曲も取り上げられている。

We'll Keep A Welcome (2000) (Deutsche Grammophon / UCCG-1002)
 邦題『ターフェル/歓迎しよう ――ウェールズに伝わる歌――』。これは、私が最も好きなウェールズのアルバムだ。ここ数年間、週に3回は聴いている。オーケストラと合唱団を従え歌う、ターフェルの時に力強く、また、時にたっぷりと泪を含んだ太い歌声は、他のどのウェールズの歌手にも勝る。「ハーレフの男たち」「ロンダの谷」「清らかな心」らの定番曲やディラン・トマスの「日没の詩」も含んだ選曲の素晴らしさもさることながら、ここに収録されたウェールズ国歌の「わが父祖の国」の短縮版に始まり、同曲の全奏版で幕を閉じる全21曲は、ウェールズの民の精神的な力強さと深い悲しみに満ち、それを直接的に聴き手に伝えるターフェルの力量は素晴らしいの一言。裏国歌とまで呼ばれる「ハーレフの男たち」の勇壮さと、ウェールズ性が託されたと思われる賛美歌「喜びて」など、ターフェルが、まるでウェールズの父祖たちとともに歌っているようだ。そして何よりもこのアルバムの素晴らしいのは、どの曲からも「ウェールズらしさ」が溢れていることだろう。




[リンク]
 Bryn Terfel ... 公式英語サイト。
 Bryn Terfel Page ... ファンによる英語サイト。バイオグラフィー、ディスコグラフィー、レヴュー、ターフェルのスケジュールなどがある。
 Terfel.com ... ファンによる英語サイト。写真やディスコグラフィーのほか、ターフェルに関するレヴューへのリンクも張られたページがある。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2005: Yoshifum! Nagata








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