ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■アディエマス(Adiemus) 
 70年代に一風代ったロック/ジャズ演奏家として活躍し、80年代にCMなどの作曲に勤しんだカール・ジェンキンスのプロジェクトが、アディエマスである。もともとはカールがデルタ航空のCMのために書かれた曲が、評判を呼び、アディエマスというプロジェクトの誕生と、『ソング・オブ・サンクチュアリ』(Songs of Sanctuary)(95年)のリリースへと結びついた。

 南アフリカ出身のミリアム・ストックリーの美しい歌声と、どこか異国情緒漂うオーケストラ、そして、デジタル・パーカッションという組み合わせが、以外にもマッチし、『ソング・オブ・サンクチュアリ』はヨーロッパと日本でヒットした。カール本人が意図したのは、スピリチュアル・ミュージックだったが、アディエマスは新しい音楽ジャンルとして注目され始めていたヒーリング・ミュージック(アディエマスは数年前ならばイージー・リスニングのコーナーに入れられたことは、確実である)の動きと連動し、一躍、その筆頭に踊り出る。その後も高い水準のアルバムでファンを確実に増やし、人気を不動のものとしている。特に日本での人気は高く、NHKの番組『世紀を超えて』で使用された委託作品「ビヨンド・ザ・センチュリー」や、2004年2月の来日公演は、記憶に新しいところだ。




[アルバム(選)]
Songs of Sanctuary (95) (Virgin / CDVE 925 7243 8 40428 2 0)
 架空の言葉による歌とオーケストラ、そして、プログラムされた(つまり機械演奏の)パーカッションという、一見すると結びつかない要素がカールの作/編曲によって結実したのが本作である。優しいながら、どこか翳りのあるヨーロッパ的なメロディを、どこか異国情緒漂う豊かなハーモニーが優しく包み込んでいる。リリース直後は、ジャズ/ロックを演奏していたカールのイメージがまだ日本では強く、一部の人たちから「ソフト・マシーン最後のアルバムの延長線」との評価を受けた。しかし、ヒーリング・ミュージックのイメージであるイルカをジャケットに使用した日本盤が出ると同時に、世間一般的な評価が高まり、アディエマスは一転してヒーリング・ミュージックの代表格という地位に登りつめた。なお、ここのジャケ写真はオリジナルのもの。

Dences of Time (98) (Virgin / CDVE 940 7243 8 46674 2 9)
 3枚目。世界中の民族音楽の基盤となる踊り(ダンス)のリズムを、アディエマスという音楽フィルターを通したのが、このアルバムだ。ピアノと歌による小曲を書くのと同時に、アディエマスの売りでもある架空の言葉を組み上げ、そして出来上がったものをオーケストラ用に編曲するという過程を経て、このアルバムは生まれた。踊りのリズムという躍動感と力強さを得たアディエマスの新しい姿が、ここにはある。

The Eternal Knot (2000) (Virgin / CDVE 952 7243 8 49965 2 9 )
 邦題『アディエマスW〜遥かなる絆』。ウェールズのテレビ局SC4が企画した、ケルトを扱った番組の音楽を依頼されたことが、このアルバムを産むことになる。アディエマスの演奏するケルト音楽となると、私としては気が騒ぐが、残念ながら中心人物のカール本人には、ケルトそのものに関心がないらしい。そのため、曲のインスピレーションを故郷ウェールズではなく、主にアイルランドに伝わる、有名な英雄伝アルスター神話に求めている。ウェールズに直接関するのは、全14曲中3曲のみだ。そのうち、「ウェールズの魔女」とアルバムの最後を締めくくる「魔法使いの夢」は、ウェールズ最古の伝承文学『マギノビオン』に基づいている。なお、本作にはギタリストやケルト的な楽器であるパイプ奏者がゲストとして迎えられ、アディエマスの音楽の幅を広げるのに貢献している。





[リンク]
 Karl Jenkins ... アディエマス・プロジェクトの中心人物である、カール・ジェンキンスの公式英語ホーム・ページ。バイオグラフィーのほか、短いながらもストリーミングによる視聴サーヴィスあり。
 Adiemus Unofficial Home Pageファンによる美しいつくりの英語サイト。
 アディエマス◇カール・ジェンキンス ... NTVによる日本語公式サイト。
 Adiemus World ... ファンによる日本語サイト。青を基調とした、美しいサイトだ。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata








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