ウェールズを食べる
――ウェールズの料理あれこれ――

パブ・ランチ、サンドイッチ&軽食
大抵のパブには、ランチ・メニューがある。また持ち帰り(take away)専門店も、少し大きめの町ならば必ず見かける。ここに上げたメニューは、何も昼食用に限定されたものではなく、夕食として立派に通用するものも多い。またここにあげた以外にも、イングランドで出されるランチ・メニューなら、大抵の場合、ウェールズでも食べられる。

*フィッシュ・アンド・チップス(持ち帰り) (Fish and Chips for take away)
・・・ 訪英経験がある人なら、一度は食べたことのあるメニューだろう。それほどイギリスでは定番のファースト・フードである。ウェールズもその例に漏れない。
 ファースト・フードには違いないが、これがあなどれない。レストラン、パブ、または持ち帰り用の専門店など、このメニューを扱う店は多い。むしろイギリス・ウェールズ料理の店で、このメニューがない店を探すほうが難しいくらいだ。

かつての持ち帰り用スタイル
(撮影:2000年ロンドン
 前振りはこのくらいにしておこう。フィッシュ・アンド・チップスは簡単に言うと、白身魚の揚げ物とフライド・ポテトを組み合わせた料理だ。魚はマダラ(Cod)かタラ(Haddock)が一般的。レストランでは魚の大きさは決まっている場合が多いが、持ち帰り専門店では魚の大きさを、小(small)、中(medium)、大(large)の3種類から選ぶ。店によっては、注文してから客の目の前で揚げてくれる店もある。
 チップスは、日本で言うフライド・ポテトだ。太さは日本の倍近くの場合もある。なお日本で言うポテト・チップはアメリカ英語なので、このあたり慣れていないと勘違いしやすい。
フィッシュ・アンド・チップス(小)
現在の持ち帰り用スタイル
(撮影:2003年ホーリーヘッド)
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 持ち帰りの場合、かつては容器に新聞紙や藁半紙を使った。これをジョウゴ状に丸め、まずはそこに大量のチップスを詰める。その上に魚をのせれば、完成である。代金と引き換えに受け取った客は、店のカウンターに用意されている塩とヴィネガーを、アツアツのフィッシュ・アンド・チップスにかけ、手づかみで食べたものだった。
 しかしここ数年、プラスチックの容器にフォークをつけて出す店が多くなった(註:フォークは有料の店もある)。食べやすくはなったが、なぜかこの容器を見るとワクワク感が薄れる。それというのも、この容器が日本の弁当屋(いわゆるホカ弁)で使っているものとそっくりなのだ。出来れば、以前のスタイルで食べたい。




テイク・アウェイならば清流のそばでも食事が出来る。
(2005年スランベリスにて撮影)

*サンドイッチ(Sandwich)
・・・ イギリスのパンは不味い、と良く言われる。だが、それは偏見と言うものだ。実際に一口かじってみればわかる。日本のパンよりは小麦が濃く、遥かに美味い。ただ、イギリスのパンが他のヨーロッパ諸国のパンに較べて、味が落ちるのは事実のようだが。
出来合いのサンドイッチとコーヒー
(撮影:2002年バンゴールにて)
 そのようなパンを使ったサンドイッチは、ウェールズでも定番だ。パンは食パンとバケットの2種類に、大別できる。中身はトマト、レタス、タマネギ、卵、チーズ、ハム、チキン、ベーコン、ビーフなどが定番だが、ツナや小エビなど川のものや海のものもある。特にサウザンドアイランド・ドレッシングで和えられた、小エビ(shrimp)のサンドイッチは海産物好きにはたまらない一品。
 スーパーマーケットの食料品売り場に行けば、必ずといっていいほど、出来合いのサンドイッチ(下写真;撮影2005年カーディフ)が売られている。これはかなり安い。量も然程多くないので、連日の油料理で胃がもたれ気味の時など、重宝する。
 パブやサンドイッチ専門店では、パンに挟む中身を注文するとその場で作ってくれる。注文された中身は、生野菜と一緒に挟んでくれるのが一般的。この際、食べたくない野菜があれば抜いてくれる。店によっては、パンを白かブラウンの2種類から選ぶことも出来る。パブや専門店で注文するサンドイッチは、非常に量が多い場合があるので注意も必要。





[上]出来あいのサンドイッチ(売店で購入)。
[下]サンドイッチといってもバーガータイプのものもある。
中身はマリン・ローズ・ソース(Marine Rose Sauce)をあえた小海老(shrimp)。
この冷製のソースは海老のうまみを十分に引き立てる。(クリックで拡大)


*肉パイ(Pasty)
 ・・・ パイ生地の中に、肉料理を詰めて焼いたもの。パイは中世に、イングランドの庶民の間から生まれた料理だ。中世では皿は高価で、庶民の手の届くものではなかった。その代用品として、庶民はパイを生み出した。実に皿を料理として作ってしまったのだ。今では密閉されたパイが主流だが、当時は蓋のない、いわば器だけのパイもあった。

 当初は皿の代用品だったパイだが、蓋をつけ、中身を密閉することで別の役割も生まれるようになる。中身を密閉し、オーヴンの中で高温で焼かれたパイは、中身が空気に触れることがないため、日持ちがした。そのため旅などの携帯食として好まれるようになった。この名残か、今でも町中のみならず、駅周辺でパイを売る店をよく見かける。

 現在、パイの具は鶏肉や牛の肉をミンチにしたものに、野菜を混ぜたものや、ベーコンと絡めたものなど、千差万別。日本のパン屋で「ミート・パイ」などとして売られているものと一緒と考えれば、ほぼ間違いないが、パイ生地は厚く、堅い。

様々な肉パイ


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(上段:2005年ウェルッシュプールで撮影
下段:2005年カーディフ中央屋内市場で撮影)


*ウェルッシュ・オギー(Welsh Oggie)
 ・・・ ウェールズの羊の牛、玉葱、リーク、ポテトを混ぜ合わせ、グレービー・ソースで味付けをしたものを、パイ生地でくるみ焼いたもの。つまり肉パイだが、他のパイなどに比べ大きいのが特徴。イングランドの伝統食でもあるコーニッシュ・パイが平均して250グラムであるのに対し、ウェルッシュ・オギーは500グラムを超える。左の写真は2006年にスランゴスレンで撮影。奥にあるのがウェルッシュ・オギーだが、手前のコーニッシュ・パイと較べてみてほしい。


*ウェディング・ナイト・パイ(Wedding Night Pasty)
 ガウワー州に伝わる伝統料理。昔はサイコロ切りにされたマトンで作られたとか。現在残るレシピでは、羊、玉ねぎ、ハーブなどを混ぜた具をパイ生地で包み、オーヴンできつね色になるまで焼いたパイ料理である。

 実にこの料理、夜(ナイト)と謳っておきながら、結婚式の朝食時に出されたそうだ。また作るのは式の招待客である。ではなぜ招待する側が作るのではなく、招待客が作るのか?

 すなわち式の当日の朝、招待客がこのパイと祝儀を持ち寄る。それが農夫であれ、漁民であれ、田舎で若者が何もないところから新しい生活を始めるのは大変である。招待客は彼らを門出を多くの食事で祝い、また、祝儀で新郎新婦の新しい生活のスタートを経済的に助けたのだ。田舎の地域共同体が育んだ風習から生まれた料理なのだろう。いかにもウェールズらしい、暖かい料理である。

*西洋ねぎのパイ(Leek Pie)
 西洋ねぎはウェールズの国章でもある。そのため古くはこの料理は、聖デヴィッドの日のようなウェールズを祝う日に食べられた。

 西洋ねぎが料理の中心だが、ベーコンも中に入っている。ヴェジタリアン向けの料理ではないので注意。


ウェールズの食卓を飾る野菜たち(クリックで拡大)
[手前左→右]西洋ねぎ(リーク)、かぶ(スウェード)、にんじん、白にんじん(パースニップ)
(撮影:2011年アイステズヴォッド)

*ウェルッシュ・ラビット(Welsh Rarebit)
 フライパンを弱火で温めつつ、そこでチーズをエールで溶かす。そこに塩、胡椒、マスタードを加え、焼いてバターを塗ったパンにかける。それをオーヴンで焼けば完成。
 これをなぜ“ウェルッシュ・ラビット”と呼ぶかは諸説あるが、実際のところ不明。しかしこの料理が、ウェールズの伝統料理であることだけは間違いない。





ウェールズ?! カムリ!
写真(*は除く)と文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Anglesey The Food Island, (Menter Mon, 2002)
Davies, Evelyn, Cegin Aberdaron Kitchen, (St. Hywyn's [Trading] Ltd, 2002)
Smith-Twiddy, Helen, Celtic Cookbook, (Y Llolfa, 1970)
Favorite Welsh Recipes, (J. Salmon LTD)
Freeman, Bobby, Traditional Food From Wales, (Hippocrene Books Inc., 1997)
Williams, Margaret, The Smallest House Cook Book, (Gwasg Carreg Gwalch, 1992)
Williams, Rhian, Welsh Dishes, (Y Lolfa, 2000)
Yates, Annete, Welsh Heritage Food & Cooking, (Lorenz Books, 2006-2007)




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