ウェールズを食べる
――ウェールズの料理あれこれ――

ディナー
前菜、サイド・ディッシュ、サパー
前菜もメイン同様、量が多い。メインがその後に控えていることを考慮した上で、注文しよう。2、3人で卓を囲むならば、前菜は1〜2品が適当かもしれない。ここでは一般的な前菜、サイドディッシュから、ウェールズに伝わるサパー(軽めの夕食)までをとりあげてみた。

*チップス(Chips)
・・・ 定番中の定番。イギリス人の主食である。そのためか大抵、メインを頼むと一緒についてくる。

 チップスはイギリス英語で、ポテトの揚げ物。日本やアメリカで言うなら、フライド・ポテトである。その太さは、日本のそれの倍かそれ以上。なお、日本やアメリカで言うポテト・チップは、クリスプ(“crisp”もしくは“potato crisp”)と言う。
 左の写真は、山盛りのチップス。2003年にカーナヴォンにて撮影。


*ジャケットポテト(Jacket Potato)
・・・ これも定番中の定番。皮付きのジャガイモを丸のまま焼いた料理。チップスの代わりに出される場合は、バターのみがついてくる場合が多い。これは日本の、いわゆる“じゃがバター”に近い。

 一方、単品料理で出される場合は、トッピングがついてくる。このトッピングは多種多様がある。サンドイッチの具を選ぶ感覚で選ぶといい。ツナのフレークや、小エビのマリーン・ローズ・ソース和え(左写真)などは定番だ。詳しくは店のメニューで確かめよう。


*ガーリック・ブレッド(Garlic Bread)
・・・ ウェールズのみならず、イギリス全般で出される料理だ。ガーリック・トースト(Garlic Toast)とも言う。が、イギリスでは全般的にブレッドと呼ばれているようだ。英語で“ブレッド”(bread)が、日本で言う“パン”の総称だからだろう。
 薄く切ったバゲットの片面に、バター、ニンニクのみじん切り、パセリを混ぜたものを塗り、こんがりと焼いたもの。ニンニクの芳ばしい香りが、なんとも食欲をそそる一品。簡単な料理だけあってレシピを見ていると、かなりのヴァリエーションがあることがわかる。バターの中にレモン汁などを加えても、いいらしい。チーズを一緒にのせて焼いたものも一般的。(撮影:2004年ニューポート)


*パテ(パイ)(Pate)
・・・ パテとは、フランス語で小型のパイのこと。その中身そのものの料理である。肉を具にしたものが代表的だが、カモの内臓とアプリコットを混ぜたものや、ウェールズらしくマスを具に使ったものもある。レストランによっては、日替わりパテをメニューに持つところもある。それほど一般的な前菜なのだ。パンと一緒に出される。(撮影:2004年ポースマドック)


*ウェルッシュ・チーズ(Welsh Cheese)
・・・ チーズを単品で出すレストランは珍しいが、場所によっては、チーズの盛り合わせをメニューに持っているところもある。

 ウェールズではチーズは、かなり古くから食べられてきた。ハウエル善王の法典(10世紀)にも出てくるほどだ。

 ウェールズで最も有名なウェールズのチーズといえば、カーフィリィ(Caerphilly)だろう。もともとは南ウェールズで作られていたが、産業の発達に伴う人口の増加とともに、ウェールズ中で知られるようになり、ついにはヨーロッパ大陸にも渡った。現在では、残念ながら、ヨーロッパ産のカーフィリィが圧倒的に多いようである。

 この他、羊のミルクから作られたアコーン(Acorn)チーズ、ヴェジタリアン向けでオレンジ色をしたケルティック・プロミス(Celtic Promise)、レッドポウル牛(中型の赤牛)のミルクから作られた堅いスランボイディ・チーズ(Llanboidy)などがある。

*カーフィリィ・チーズ(Caerphily Cheese)
 ウェールズで最も有名なチーズ。イングランドのランカシャー・チーズに似ているが、それよりもしっとりとしていて、クリーミーかつバター風味が強い。

 古くはヤギや羊のミルクから作られ、塩水(ブライン)に浸された。それが17世紀から18世紀ごろになると、牛のミルクから作られるようになった。現在では、牛のミルクから作るのが一般的である。

 色が白いのが特徴だ。若いときはしなやかで、しっとりとしている。一方、年月を経るとクリーミーで円熟した味になる。ウェールズを訪れたら一度は味わってみたいチーズだ。

 もともとは南ウェールズの小さな製造所で作られていた。需要が高まるにつれ、製造工場はイングランドに移り、更にヨーロッパに広く知られるようになる。一方、もともとあったウェールズの数々の小さな製造所は、第二次世界大戦時にイングランドのそれに押され、廃業を余儀なくされた。しかしながら昨今、若い世代がカーフィリーチーズに注目。そして再びウェールズでも、このチーズが作られるようになったのである。

*マザーズ・サパー(Mother's Supper)
・・・ 細かく切ったタマネギとチーズ混ぜ合わせた中身を、上と下からベーコンではさむ。それを容器にいれて、上のベーコンがカリカリになるまで焼いたものだ。本来はその名の通り軽め夕食だったらしい。だがこれをお茶請けにもしてしまうウェールズ人もいるという。すごいものだ。

*石切り工のサパー(Quarryman's Supper)
・・・ 薄切りのジャガイモと玉ねぎ、ベーコンの薄切りを、小麦粉でとろみを加えた牛肉から出汁で煮た料理。

 かつて北ウェールズでは石切り工は、アングルシー島やスリン半島の自宅から歩いて石切り場までやってきた。日曜日の夕方に訪れ、土曜日の午後、自宅に向かったという。彼らはバラックで自炊をせざる負えなかったが、その彼らがフライパン一枚で作ったと言われているのがこの料理だ。5分ほどで料理できたと言われ、仕事から戻ったばかりで、空腹を抱える石切り工らの腹をすぐに満たすのに便利な料理だったのだろう。
 北ウェールズは当時、ドイツと親交があった。一説によれば、この料理はドイツの炭鉱からもたらされたという。

*焼き玉ねぎ(Baked Onions)
 皮を剥いた玉ねぎを塩水で15分茹でる。そして冷ましてから、中心をくりぬく。そのくりぬいたところに、あらかじめ塩、胡椒で下味をつけバターで炒めたひき肉に、パン粉を混ぜたものを入れる。その上にバターを少量載せ、オーブンで30分焼けばこの料理は完成する。
 レシピ本には「寒い冬の日向けの温かい料理」とある。なるほど、体が温まりそうだ。残念ながらパブなどでは見かけないメニューのため(恐らく北部に伝わる家庭料理)食したことはないが、もし機会があったら一度試してみたい料理だ。


*キノコの揚げ物(Breaded Mushrooms)
 このサイドメニューは、しばしパブで見かける。何しろウェールズはキノコの種類が豊富なのだ。詩人のR.S.トマスによれば、季節ごとにことなったキノコが楽しめるという。
 キノコに、パン粉、小麦粉、塩胡椒、卵、ガーリック・パウダーから作られた衣をつけ、たっぷりの油で揚げたもの。これだけの料理だが、いや、実にこれが美味い。


コロコロっとしているが、中身は実にジューシー。
(撮影:2011年08月05日、レクサムにて)

*生野菜のサラダ(Fresh Salad)
・・・ イングランドでは煮野菜が普通だが、ウェールズでは生野菜も多く見かける。メイン・ディッシュには少量の野菜が添えられていることが多いが、緑黄色野菜不足を感じたら迷わず注文しよう。ハムやウェルッシュ・チーズと生野菜のコンビや、シーザー・サラダ、ツナ・サラダなどが一般的だが、全てが一緒になっているものもある。海辺の街や村ならば、エビのサラダ(prown salad)や海のものをあわせたシーフード・サラダを、一度は試してみたい。ウェールズ産のチーズのカーフィリィ(ウェルッシュ・チーズの項目参照)とトマトのサラダは、食欲をそそる一品だ。

*アングルシー島の卵料理(Anglesey Eggs)
・・・ 深めの皿にマッシュポテトを敷き詰め、その上に半分に割った固ゆでのゆで卵を載せ、茹でたセイヨウネギを皿の淵に沿って卵を囲むように並べる。その上からチーズをかけ、オーヴンで焼いた料理。日本人の感覚からすると、ランチや夕食のメインとして通用しそうなヴォリュームと雰囲気だ(実際に私はランチとして食べた)。しかしながらこちらの御仁は、これを前菜や午後の紅茶の茶請けとして食してしまう。



見た目はグラタン


だが中を少しかき回せばゆで卵がごろごろと・・・
(撮影:2011年、Caerferyにて)
(クリックで拡大)

*小エビのカクテル(Shrimp Cocktail)
・・・ 飲み物ではなく、れっきとした料理。イギリスの前菜料理では、定番的な一品だ。
 白ワインと水で煮た小エビを、冷蔵庫で冷やし、そこにマヨネーズ、西洋わさび、チリソース、生クリームなどを混ぜて作ったソースをかけていただく。このソースが、カクテル・ソースと呼ばれる。ぷりぷりのエビの食感とこってりとしたソースが、なんともたまらない一品。

*アングルシー島のカニ・ダンゴ(Anglesey Crab Cakes)
・・・ アングルシー島は、北ウェールズから陸続きの島だ。そこで見かけた前菜メニューのひとつ。現地で捕れるカニの身を使う。ほぐしたカニの身をマヨネーズ、マスタード、卵、パン粉と一緒に混ぜ合わせたものを、団子状に丸める。そのカニ・ダンゴを油で揚げれば、出来上がり。日本ならカニ・コロッケが近いだろうか?


ウェールズの海で採れた蟹(撮影:2007年カーディフ市場)

*魚肉ダンゴ(Fishcakes)
・・・ メインにも登場する一品。テイク・アウェイの店でも見かけられる料理である。魚肉のミンチにマッシュ・ポテトを混ぜ、ダンゴ状、もしくはそれを平たく潰した状態にして揚げた一皿だ。魚は鮭やタラが使われる。タルタル・ソースで食す。見た目は、コロッケそのまま。中身は魚の味だが。

 右の写真は2004年にテイク・アウェイで買ったもの。舌がコロッケの味を無意識に予期するが、その期待に反して、タラの味がするので一瞬驚く。


*グラモーガン・ソーセージ(Glamorgan sausages)
・・・ 肉抜きのソーセージを注文したら、どうなる? その究極の答えがここにある。グラモーガン・ソーセージ。この一皿には肉は使われていない(註:乳製品は使用されている)

 グラモーガンとは南ウェールズの州(county)。カーディフなどのある南部の州だ。その州名を冠したこのソーセージこそ、肉を一切使用しないソーセージである。古くは1850年代にこの料理の記録がある。

 パン粉、チーズ(カーフリー・チーズが良いと言われる)、リーク(西洋葱)、ハーブ、マスタード、卵などを混ぜ合わせた具をソーセージ状に細長く丸める。その具を1時間ほど冷蔵庫の中で寝かせてから、ソーセージを揚げる要領でフライパンで焼いたものが、グラモーガン・ソーセージである。究極のヴェジタリアン向けウェールズ郷土料理かもしれない。



市場を彩る野菜たち。手前がリーク(西洋葱)
(撮影:2007年カーディフ市場)
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ウェールズ?! カムリ!
写真(*は除く)と文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Anglesey The Food Island, (Menter Mon, 2002)
Davies, Evelyn, Cegin Aberdaron Kitchen, (St. Hywyn's [Trading] Ltd, 2002)
Smith-Twiddy, Helen, Celtic Cookbook, (Y Llolfa, 1970)
Favorite Welsh Recipes, (J. Salmon LTD)
Freeman, Bobby, Traditional Food From Wales, (Hippocrene Books Inc., 1997)
Williams, Margaret, The Smallest House Cook Book, (Gwasg Carreg Gwalch, 1992)
Williams, Rhian, Welsh Dishes, (Y Lolfa, 2000)
Yates, Annete, Welsh Heritage Food & Cooking, (Lorenz Books, 2006-2007)




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