ウェールズを食べる
――ウェールズの料理あれこれ――

ディナー
イギリスの料理は量が多いことで有名だが、ウェールズもその例に漏れない。いやむしろ、イングランドよりも量が多いこともある。そしてその多くは、自然の恩恵を十分に受けているのが特徴である。

*海鮮料理(Seafood)
ウェールズは水資源豊富である。3方を海に囲まれ、その内部は清流が走る。また北部のみならず、ウェールズの至ところに深い湖が存在する。

海からはニシン(Herring)や鯖(Mackerel)のみならず、ラヴァと呼ばれる海苔に似た海草やムール貝(Mussel)やトリガイ(cockle)が捕れる。清流は鱒や鮭、そしてGwyniedynと呼ばれるブラウントラウトをはぐくみ、北の湖はGwyniadと呼ばれる岩魚の種類やWhitishと呼ばれるニシンに似た珍重な魚を蓄える。また北や西の海では蟹も採れ、北部のスリン半島先端には独特な蟹の伝統料理も伝わる。

これらの恩恵を受けたのが、ウェールズの海鮮料理である。もちろんイギリス料理では定番のエビ(prown)をはじめ、フィッシュ・アンド・チップスの定番、タラや真鱈、カレイなども食べられる。昨今では伝統料理を現代風にアレンジした料理も、見受けられるようになった。イングランドより格段と抱負かつ新鮮な海の幸を、ご堪能あれ!

*フィッシュ・アンド・チップス(Fish and Chips)
フィッシュ・アンド・チップスとエール(ビター)。左下のペースト状のものは、マッシュド・ビーンズだ。
(撮影:2003年ホーリーヘッド)
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・・・ レストランでは、“Battered Cod Fillet”など魚の名前(ここではCod)を伴い、記載されることが多い。この意味は、「衣(batter)をつけて揚げたタラの骨抜き切り身」である。
 基本的には持ち帰り商品と代らないが、レストランやパブで出される場合は皿に盛られてくる。ナイフとフォークで食べることを考慮したためか、持ち帰りのものよりも、こんがりとあげられた魚とチップスが、大きな皿の大部分を占める。更にその周囲を茹でたグリン・ピースや煮野菜が、固める。ただし、ここ数年では煮野菜ではなく、生野菜である場合が多い。
 持ち帰りでは塩とヴィネガーで食すのが普通だが、レストランなどで食べる場合は、他にケチャップ、マヨネーズ、タルタル・ソースなどのソースが選べる。ビターやラガー系のビールと一緒に食べると、味は格別。二段も三段も、揚げ魚の味が跳ね上がり、舌が踊ること請け合いである。

 海の近い港町や漁村を訪れた場合には、是非ともお勧めのメニューである。特に、西部や北部の海に面した町や村で出されるフィッシュ・アンド・チップスは、格別。魚が新鮮なのは言わずもがなだが、その身の引き締まり具合にロンドンなどで食べるものとは、格段の差がある。



ディップもついて、お洒落な料理に化けることもある
(撮影:2005年8月、カーディフにて)


ハドック(鱈の一種):
ハドックは同じ鱈のコッドに比べかなり淡白である。
(撮影:2007年8月11日、レクサムにて)


パブでのフィッシュ・アンド・チップスは最高。
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(撮影:2011年08月05日、レクサムにて)

*タラのあげもの(Battered Cod Fillet)
・・・ “Battered”とは衣(batter)をつけて油であげることを、“Fillet”は魚ならば切り身を意味する。同じ項目のフィッシュ・アンド・チップス参照。

*スカンピ(Scampi)
ボール状の皿に盛られたスカンピと生野菜
(撮影:2003年カーナヴォン)
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・・・ レストランによっては“Breaded Scampi”や“Whole Tail Scampi”と、記載されている。ウェールズのみならず、イギリスでは最も人気のあるメニューのひとつ。エビ(prown)に衣をつけて揚げた一品だ。
 あつあつのところをタルタル・ソースをつけて口に放り込むと、衣のサクサク感と、対照的なそのぷりぷりとした食感がたまらない一品である。エールに似合う料理のひとつでもある。他の料理に較べて量が軽いので、私の場合エールを飲みながらだと、あっという間に食してしまう。やはりこれも、チップスや生野菜と一緒に出される。


*漁師の皿(Fisherman's Plate)
・・・ 魚に限らず、海の素材のフリッターをふんだんに盛った1品である。
 ポースマドックで出くわしたこの皿には、タラの切り身、スカンピ、イカの輪切り(いわゆるイカ・リング)、そして白魚の揚げ物が生野菜とともに山盛りになって出てきた。痛みやすい白魚が食べられるとは港町ならではであるが、同時にそれはこの皿の食材が新鮮なことをも意味する。ウェールズの自然とそこに暮らす人々に感謝しながら食した1品である。


*ウェールズ風マスのベーコン包み(Welsh Trout in Bacon)
・・・ マス(trout)は、ウェールズでは川魚の代表的存在。そのためウェールズでは、フライやルアーによるマス釣りもさかんである。そのようなマスを味わうのに、最適なのがこの料理だ。かつてウェールズの農夫たちは、川で捕れたばかりのマスを、自家製のベーコンで包んで焼き、この料理を楽しんだそうだ。

 腸(はらわた)を抜いたマスの上からバター、パセリ、レモンの輪切り、黒胡椒をのせれば、下準備は完了。それを更にベーコンをぐるぐると巻きつけ、その上からバターをのせ、オーヴンで焼けば出来上がりである。いかにも無骨な男たちの、豪快でありながら、魚本来の味を損なわない料理だ。ポテト、ニンジンなどの付け合せで召し上がれ。

 左の写真は、2004年コンウイのウェールズ伝統料理専門レストランで撮影(クリックで拡大)。伝統的な料理法に忠実に従いながらも、フランス料理風のソースをかけ、小エビをあしらうことで、ワインの似合うお洒落な料理となっている。伝統的なイギリス料理と別の国の料理を掛け合わせた、いわゆるモダン・ブリティッシュのウェールズ版と言ってもいいかもしれない。伝統料理を生かすも殺すもアイデア次第、という良い例だと思う。


*マス料理(Trout)
・・・ パブやレストランで、一般的に見かけるメニューはこちら。バターでソテーするのが、一般的な料理方法。もしメニューで“local”という一言がついていれば、それは地元で採れた魚であることを意味する。


ニジマス
(撮影:2007年カーディフ市場にて)

*マスとアーモンドの炒め物(Local Trout and Almond)
・・・ ソテーしたマス(地元産)に、アーモンドの炒め物をあえた一品。アーモンドは、マスをソテーした後の油(バター)で炒めてある。淡白な味のマスを、アーモンドの甘さが彩る料理だ。(撮影:2006年スランゴスレン)


*鮭料理(Salmon)
・・・ もちろんウェールズでも鮭は魚料理の定番。かつては牛乳で煮たそうだ。だが今日ではオーヴンで焼いたり、フライパンで炒めたものが好まれる。いくつかレシピ本から料理を紹介しよう。

 [鮭のホイール焼き(Baked Salmon)] ... 鮭を1匹用意する。胃などの内臓を取り除き、良く洗う。これを腹側からふたつに割き、そこに塩、こしょうをふりかけ、スライスしたレモンにパセリを並べる。これをバターか油を塗ったフォイルに横たえ、さらにパセリとレモンを表面に載せる。これをオーヴンで40分焼く。焼きあがったら肉のみを皿に盛り、マヨネーズとレモン、ヨーグルトなどから作ったソースをかけて食す。

 [鮭の皿焼き(Welsh Plated Salmon)] ... “イギリスで最も小さい家”に伝わる料理。防火皿に鮭を載せ、2匙分の牛乳を加え、多いをする。フライパンに沸騰した湯とジャガイモとアスパラガスを入れ、更にその上から先ほどの皿を載せ約20分、蒸し焼きにする。出来上がったら皿をそのまま食卓に乗せ、茹でたジャガイモ、アスパラガスを添え物にする。

 [クリンピング・サーモン(Crimping Salmon)] ... ウェールズ文化の保護に大貢献した、レディ・スランノヴェルはレシピ本も執筆している。その中に“切れ目を入れて身を締めた(crimping)”新鮮な鮭についての記述がある。
 鮭の身を裂き、その身に2×1インチの切込みを入れた後、冷水に1時間晒す。晒した後、今度は新しい冷水で鮭を洗う。その後、塩とビネガーをたっぷりとふりかけ、今度は熱湯にくぐらせる。その後、1日かけて自然に水をきらせ、ゆっくりと熱をとる。1日経ったのち、その鮭を熱湯に再びくぐらせる。これで完成である。

 [鮭のバッター(Salmon in Batter)] ... レディ・スランノヴェルは上記クリッピング・サーモンのステーキを勧めている。これはクリッピングのすんだ鮭に塩をふり、それに小麦粉で衣をつけ、あげたものだ。これにグランヴィル(Granville)とよばれるソースをかけて食べる。



(撮影:レクサムの肉屋市場)

*ニシンの網焼き(Grilled Herring)
 Herring(ニシン)は特に西海岸では、人々の生活において重要なものだ。フィッシュガードやアベリストウィスといった海岸沿いの村では、ニシン漁はかつて産業の中心だった。

 またニシンはウェールズの魚市場でよく見られるのみならず、ニシン料理はパブやレストランでもよく提供される。またレシピ本では、しばし見られる人気食材の一つだ。ここで紹介する網焼きは、伝統的なレシピだ。

 まずニシンのうろこを落とし、内蔵と頭を取り去る。背に3箇所、骨に達する切れ目を入れる。バターを少々つけ、オーブンですばやく両面が茶色になるまで焼く。その後、塩とパセリを降り、マスタード・ソースをつけて完成。


ニシンは網焼きが最高だとか。
(撮影:2007年09月04日、カーディフ市場にて)

*漁師のシチュー(Fisherman's Stew)
・・・ 前菜や軽い夕食(supper)でも出される、ゴーアー半島に伝わるシチューだ。もともとは朝捕れた魚を家に持ち帰った漁師が昼寝をしている間に、妻がそれらを煮たシチューである。
 トリガイ、マダラなどの白身魚、カニ肉、エビ、タマネギを白ワインと水で大鍋を使って煮る。煮込みすぎる前に、溶かしたバターとサフランを加え、火から降ろすのがこの料理のミソ。

*魚のパイ(Fish Pie)
・・・ あらかじめ骨や鱗を取り除き、調理された白身魚を、固ゆでのゆで卵やスライスされたトマト、パセリなどとともにマッシュ・ポテトで包み、焼き上げた料理。

*オイスターマウス・パイ(Oystermouth Pie)
・・・ ディラン・トマスが「醜くも愛すべき町」と呼んだスオンジーにある、海岸沿いの町の名を冠した料理は、魚のパイ包み焼きだ。
 骨と鱗を取り除いたタラの身と、マッシュ・ポテト、タマネギ、固ゆでの卵を混ぜ合わせた具を、パイで包み焼き上げたもの。もともとタラは、塩漬けのものをつかっていたそうだ。

*トリガイのパイ(Cockle Pie)
・・・ 数百種類貝料理の中で、最も有名なものだそうだ。あらかじめ茹でた向き身のトリガイを、ベーコン、タマネギ、シャロットなどと一緒にパイ生地で包み、焼いた一品。

*ペンブルークのトリガイ(Pembroke Cockle)
・・・ トリガイはウェールズの魚屋ではどこでも買えるほど、定番の食材だ。このトリガイの剥き身を小麦粉とオート・ミール(もしくはパン粉)で衣を着せ、黄金色になるまで揚げたのが、この料理である。塩とヴィネガーで食す。

*カニ料理(Dressed Crab)
・・・ カニ料理は、残念ながら中々出くわさない。だがウェールズの料理本では定番だ。これはその中のひとつ。カニの身をヴィネガーと油で混ぜ、更に塩と胡椒で味をつけ、これを皿もしくは甲羅に盛り付ける。その上をゆで卵の黄身、レモンの輪切り、パセリで飾った料理。ペンブルークシャーではこれに軽く茹でたアスパラガスと薄切りのトマトを添え、ドレッシングをかけ、サラダ感覚で食す。






ウェールズ?! カムリ!
写真(*は除く)と文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Anglesey The Food Island, (Menter Mon, 2002)
Davies, Evelyn, Cegin Aberdaron Kitchen, (St. Hywyn's [Trading] Ltd, 2002)
Smith-Twiddy, Helen, Celtic Cookbook, (Y Llolfa, 1970)
Favorite Welsh Recipes, (J. Salmon LTD)
Freeman, Bobby, Traditional Food From Wales, (Hippocrene Books Inc., 1997)
Williams, Margaret, The Smallest House Cook Book, (Gwasg Carreg Gwalch, 1992)
Williams, Rhian, Welsh Dishes, (Y Lolfa, 2000)
Yates, Annete, Welsh Heritage Food & Cooking, (Lorenz Books, 2006-2007)




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