ウェールズを食べる
――ウェールズの料理あれこれ――

スープ
スープはウェールズのみならず、イギリスおよびアイルランド全土で食べられる。フランスのスープのような透き通ったものは期待できないが、その半面、素材のうまみが存分に抽出されたスープを味わうことができる。

*カウル(Cawl)
・・・ カウルとはウェールズ語で、スープの意味。料理名にウェールズ語を冠しているだけあり、ウェールズの伝統料理としては名高い。ゆえにもともとは家庭内で作られていた料理だが、パブなどでも提供されることがある。

 カウルは羊の肉や野菜を煮込んだスープだ。それを一言で表現するならば、“豪快”。中に入っている肉や野菜は、大きな塊だ。それがいくつもゴロゴロ入っている。宮廷の洗練されたものではなく、農家の一般家庭で伝えられてきたことを思わせる豪快さだ。

 現在では、普通のスープとして食されるカウル。しかしかつては、そうでなかったという。Bobby Freemanによれば、カウルは一旦調理された後、まず、スープ(煮汁)の部分のみが出された。そのスープが終わってから、肉と野菜のみが別の皿に盛られ、っ食されたという。つまりひとつの料理で、前菜とメインの両方の役割を果たしたのだ。

 カウルに用意するのは羊(子羊)の肉と野菜。肉は牛肉でも良い。まずはウェールズ産の子羊の肉から脂肪を取り除き、狐色にフライパンで焼く。これを大き目の鍋に移し、水とハーブを加え一煮立ちさせた後、とろ火で煮込む。

 その間にジャガイモ、豆、ニンジン、タマネギ、ウェールズを象徴する野菜であるリーキ(セイヨウネギ)などの野菜を、大き目のサイコロ状に切り分ける。とにかく豪快に、大きな塊に切ること。そしてリークを除いた野菜をフライパンで炒めた後、肉の入った鍋に移す。そしてとろとろになるまで煮込む。十分煮込んだら、仕上げの20分前にレタスとブロッコリーを入れれば完成。(左写真:2004年ニューポート(ペンブルックシャー)にて撮影)



カウル
(撮影:2007年カーディフ)


カウルには大抵、パンがついてくる。チーズをあわせても良い。
(クリックで拡大:撮影、2011年8月、カーマーゼン)

*レバー・カウル(Cawl Afu)
 豚の肝臓(レバー)と玉ねぎを刻み、水で2時間煮込む。そこにニンジン、カブラ、パースニップ、ジャガイモを切ったものを加え、さらに30分煮込む。こうすることで肝臓はピューレ状になり、スープとして食べやすくなる。

 元来は、家畜の豚が死んだ時に作った料理。他の肉は焼いたり、腸詰めにしたりしたのだろうが、残った内臓までも奇麗に食するために考案されたのだろう。ブラック・プディングは、やはり、家畜の肉を捨てるところなく食べるために考案された料理だと伝えられるが、これも同じ理由だと考える。ちなみに膀胱は膨らまされ、子供たちがサッカー(フットボール)のボールのように蹴って遊んだとか。

*野うさぎのスープ(Hare Broth)
 野ウサギの肉に、蕪、ジャガイモ、西洋ねぎを一緒に煮込んだ料理。味つけは塩だけというシンプルなものだが、野うさぎの肉が骨から自然に離れるまで煮込むので、スープには野うさぎの旨味が凝縮されている。

 古くはこの野うさぎのスープは、大ご馳走だった。食べる際に、野うさぎの肉は別途、更に盛りつけられたという。こうすることで、野うさぎの肉を煮た料理と、野うさぎの肉から出汁をとった野菜スープの二品が同時に出来るというわけだ。

*守銭奴の饗宴(Miser's Feast)
 ベーコン、ポテト、蕪、西洋ねぎ、にんじん、玉ねぎなどをスープで煮込んだ料理。塩胡椒で味付けただけの素朴な料理だ。

 この料理の由来は、カーディガンシャーにかつて住んでいた、ある裕福な老人の食事に由来する。この老人、金を節約するために、このスープを作り、月曜日に肉を食べ、野菜を火曜日に食べ、残ったスープを水曜日に飲んだそうだ。

*日替わりスープ(Soup of the Day)
・・・ イギリス・パブ・ランチの定番メニューのひとつで、ウェールズでも欠かせない。深めのボール皿に注がれたスープにパンが一緒についてくるのも、イングランドと同じ。ただ田舎料理の印象が強いのが、ウェールズで出されるものの特徴。

*スープ(Soup)
・・・ ニンジンとコリアンダーのスープ、セイヨウネギ(leek)とポテトのスープ、セイヨウネギとキャベツのスープ、など千差万別。  日替わりスープ(Soup of the Day もしくは Soup of the Night)としてその時期に合わせたスープを提供するレストランやパブも多い。大抵、これらスープには、ロール・パンやバターが一緒についてくる。

 もしウェールズを象徴する野菜のひとつ、セイヨウネギ(leek)を食材に使ったスープがあれば、是非とも味わってみたい。メニューで自家製(home-made)がうたわれていれば、その土地独自に伝わるレシピのスープに出会うことが出来るかもしれない。

 右の写真は、トマトとタマネギのベジタブル・スープ。クルトンとパセリがのせてある。(撮影:2004年ギルスフィールド)


アスパラガスのスープは夏の定番! 冷製スープもある。
(クリックで拡大:撮影、2011年8月、カエルレオン)


紅い色にドキッとするが、れっきとしたビートのスープ。
(クリックで拡大:撮影、2011年8月、サンゴセン<スランゴレン>)





ウェールズ?! カムリ!
写真(*は除く)と文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Anglesey The Food Island, (Menter Mon, 2002)
Davies, Evelyn, Cegin Aberdaron Kitchen, (St. Hywyn's [Trading] Ltd, 2002)
Smith-Twiddy, Helen, Celtic Cookbook, (Y Llolfa, 1970)
Favorite Welsh Recipes, (J. Salmon LTD)
Freeman, Bobby, Traditional Food From Wales, (Hippocrene Books Inc., 1997)
Williams, Margaret, The Smallest House Cook Book, (Gwasg Carreg Gwalch, 1992)
Williams, Rhian, Welsh Dishes, (Y Lolfa, 2000)
Yates, Annete, Welsh Heritage Food & Cooking, (Lorenz Books, 2006-2007)




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