ウェールズを食べる
――ウェールズの料理あれこれ――

食事は土地から生まれ、人を作る。
食材が世界各地から取り寄せ可能になった今でも、普段人が食べるものはその土地で生まれたものだ。
すなわち土地のものを味わうことは、その土地、ひいてはそこに暮らす人々の理解を助ける。

そのようなわけで、今日も食を求めて私は行く。
決して食い意地だけが張っているわけではないので、そのあたり、ご理解のほどを(笑)。

朝食
 普段、ウェールズの人たちはシリアルやフルーツ、トーストなど簡単なもので、朝食を済ますことが多いようだ。ここにあげたメニューは伝統的なものだが、ホテルやB&Bの朝食には欠かせないものばかり。

*イングリッシュ・ブレックファースト(English Breakfast)
・・・ 日本の朝食はファースト・フードに近い簡素なものだ。実際のイギリス人もシリアルだけなど、非常に簡素である。だがイギリスの“宿”で出される朝食はじっくりと食べる価値のあるものであるし、また、量も多い。私のように食の細い人間ならば、朝食をしっかり食べると、昼食が必要無いほどの分量だ。

朝の食卓風景
(撮影:2003年北ウェールズのB&B)
 まずはテーブルにつくと、宿の人から朝食の種類と飲み物を聞かれる。朝食の種類には、初めての時は「フル・ブレックファースト」とこたえよう。飲み物は、紅茶かコーヒーのいずれかから選ぶ。

 宿によって異なるが、大抵、オレンジかグレープフルーツなどのフレッシュ・ジュースやシリアル(コーンフレーク)が、数種類自由に選べるように、揃えられている。フレッシュ・ジュースで喉を湿らし、シリアルやヨーグルト、フルーツなどを食しながら、待つこと数分。薄切りのトーストと一緒に、直径30センチはあろうかという皿に、朝食が盛られて運ばれてくる。
イングリッシュ・ブレックファースト
(撮影:2002年中部ウェールズのB&B)
――クリックで拡大――
 皿の中身は、目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、マッシュルーム、トマト、ビーンズだ。トマトは焼いてあるものが多かったが、最近では生トマトの場合もある。ビーンズは甘く煮た豆だと思えばいい。ベーコンは厚く、脂ぎっている。ソーセージは日本のそれに較べて、2回りも3回りも大きい。宿によっては、パンを油で揚げたものがつくこともある。これがフル・ブレックファーストである。
 いわゆる、イングランド流の朝食と見た目は代らない。しかし、中身が問題だ。ベーコンやソーセージがウェールズ産のものであった場合は、朝から舌が踊ることは請け合いである。

 なお、アイルランドでは全く同じ食事を「アイリッシュ・ブレックファースト」と呼ぶが、特別な場合を除いて、ウェールズでは「ウェルッシュ・ブレックファースト」とは呼ばない。ウェールズで食べても、「イングランドの朝食」なのである。


シリアル
(撮影:2004年8月ウェルッシュプールのB&B)


ブラック・プディングはウェールズの伝統食。
(撮影:2007年レクサムのB&B)


ウェルッシュ・ブレックファーストの一例<クリックで拡大>
ソーセージの代りにウェールズの伝統料理である、豚肉とリーキのナゲット及び
ブラック・プディングがついている(画面上部中央)
(撮影:2004年コンウィのB&B)


ウェルッシュ・ブレックファーストのいち例<クリックで拡大>
画面奥:ソーセージ、ブラック・プディング、揚げパン、ベーコン
手前 :トマト、ビーンズ、目玉焼き
(撮影:2011年レクサムのB&B)

*魚の燻製(kipper)
・・・ 鮭やマスが豊富なウェールズでは、朝食のメニューにそれらの燻製が入っていることもある。イングリッシュ・ブレックファーストに飽きた時や、軽く済ませたい時には最適のメニューである。
 シリアルやフレッシュ・ジュースなどが付くのは、イングリッシュ・ブレックファーストと変りはない。また、燻製といってもその身は柔らかく、火を通してから出されるので消化もいい。トーストも一緒に出されるので、燻製とトーストを交互に味わうと、湿った食感と乾いた食感がそれぞれ楽しめ、朝からリッチな気分になる。
 イングランドの宿では見かけないメニューなので、ウェールズを訪れたら一度は試してみたい。

 感覚としては、日本の民宿で朝食に出るアジの干物に近いか?


*卵料理(Eggs)
・・・ フル・ブレックファーストの代りにスクランブル・エッグなどを、試してみるのも一興。ホテルでは、メニューにポーチド・エッグがあることもある。

*ラヴァブレッド(Laverbread)
・・・ ラヴァ(laver)とは、ウェールズの海辺の岩場で採れる海草である。この海草は、ウェールズで、特に南ウェールズの海沿いの町で有名だ。海草そのものは、小さく切ったものをバターで炒め、レモン汁で食べても美味。
 ここで紹介するのは、このラヴァを使ったパンのような揚げ物だ。ラヴァとオートミールを混ぜ合わせたものを小さくダンゴ状に丸め、平たく潰し、ベーコンを焼いた後のの油で揚げる。この揚げ物は、ベーコンと一緒に食卓に出される。朝食に出すのが普通だが、軽い夕食(supper)で出されることもある。


ラヴァブレッド(撮影:2011年8月、カーディフのホテルにて)


ラヴァブレッドの元となる海藻ラヴァ
(撮影:2007年カーディフ市場)

パブ・ランチ、サンドイッチ&軽食
大抵のパブには、ランチ・メニューがある。また持ち帰り(take away)専門店も、少し大きめの町ならば必ず見かける。ここに上げたメニューは、何も昼食用に限定されたものではなく、夕食として立派に通用するものも多い。またここにあげた以外にも、イングランドで出されるランチ・メニューなら、大抵の場合、ウェールズでも食べられる。

*フィッシュ・アンド・チップス(持ち帰り) (Fish and Chips for take away)
・・・ 訪英経験がある人なら、一度は食べたことのあるメニューだろう。それほどイギリスでは定番のファースト・フードである。ウェールズもその例に漏れない。
 ファースト・フードには違いないが、これがあなどれない。レストラン、パブ、または持ち帰り用の専門店など、このメニューを扱う店は多い。むしろイギリス・ウェールズ料理の店で、このメニューがない店を探すほうが難しいくらいだ。

かつての持ち帰り用スタイル
(撮影:2000年ロンドン
 前振りはこのくらいにしておこう。フィッシュ・アンド・チップスは簡単に言うと、白身魚の揚げ物とフライド・ポテトを組み合わせた料理だ。魚はマダラ(Cod)かタラ(Haddock)が一般的。レストランでは魚の大きさは決まっている場合が多いが、持ち帰り専門店では魚の大きさを、小(small)、中(medium)、大(large)の3種類から選ぶ。店によっては、注文してから客の目の前で揚げてくれる店もある。
 チップスは、日本で言うフライド・ポテトだ。太さは日本の倍近くの場合もある。なお日本で言うポテト・チップはアメリカ英語なので、このあたり慣れていないと勘違いしやすい。
フィッシュ・アンド・チップス(小)
現在の持ち帰り用スタイル
(撮影:2003年ホーリーヘッド)
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 持ち帰りの場合、かつては容器に新聞紙や藁半紙を使った。これをジョウゴ状に丸め、まずはそこに大量のチップスを詰める。その上に魚をのせれば、完成である。代金と引き換えに受け取った客は、店のカウンターに用意されている塩とヴィネガーを、アツアツのフィッシュ・アンド・チップスにかけ、手づかみで食べたものだった。
 しかしここ数年、プラスチックの容器にフォークをつけて出す店が多くなった(註:フォークは有料の店もある)。食べやすくはなったが、なぜかこの容器を見るとワクワク感が薄れる。それというのも、この容器が日本の弁当屋(いわゆるホカ弁)で使っているものとそっくりなのだ。出来れば、以前のスタイルで食べたい。




テイク・アウェイならば清流のそばでも食事が出来る。
(2005年スランベリスにて撮影)

*サンドイッチ(Sandwich)
・・・ イギリスのパンは不味い、と良く言われる。だが、それは偏見と言うものだ。実際に一口かじってみればわかる。日本のパンよりは小麦が濃く、遥かに美味い。ただ、イギリスのパンが他のヨーロッパ諸国のパンに較べて、味が落ちるのは事実のようだが。
出来合いのサンドイッチとコーヒー
(撮影:2002年バンゴールにて)
 そのようなパンを使ったサンドイッチは、ウェールズでも定番だ。パンは食パンとバケットの2種類に、大別できる。中身はトマト、レタス、タマネギ、卵、チーズ、ハム、チキン、ベーコン、ビーフなどが定番だが、ツナや小エビなど川のものや海のものもある。特にサウザンドアイランド・ドレッシングで和えられた、小エビ(shrimp)のサンドイッチは海産物好きにはたまらない一品。
 スーパーマーケットの食料品売り場に行けば、必ずといっていいほど、出来合いのサンドイッチ(下写真;撮影2005年カーディフ)が売られている。これはかなり安い。量も然程多くないので、連日の油料理で胃がもたれ気味の時など、重宝する。
 パブやサンドイッチ専門店では、パンに挟む中身を注文するとその場で作ってくれる。注文された中身は、生野菜と一緒に挟んでくれるのが一般的。この際、食べたくない野菜があれば抜いてくれる。店によっては、パンを白かブラウンの2種類から選ぶことも出来る。パブや専門店で注文するサンドイッチは、非常に量が多い場合があるので注意も必要。





[上]出来あいのサンドイッチ(売店で購入)。
[下]サンドイッチといってもバーガータイプのものもある。
中身はマリン・ローズ・ソース(Marine Rose Sauce)をあえた小海老(shrimp)。この冷製のソースは海老のうまみを十分に引き立てる。(クリックで拡大)


*肉パイ(Pasty)
 ・・・ パイ生地の中に、肉料理を詰めて焼いたもの。パイは中世に、イングランドの庶民の間から生まれた料理だ。中世では皿は高価で、庶民の手の届くものではなかった。その代用品として、庶民はパイを生み出した。実に皿を料理として作ってしまったのだ。今では密閉されたパイが主流だが、当時は蓋のない、いわば器だけのパイもあった。

 当初は皿の代用品だったパイだが、蓋をつけ、中身を密閉することで別の役割も生まれるようになる。中身を密閉し、オーヴンの中で高温で焼かれたパイは、中身が空気に触れることがないため、日持ちがした。そのため旅などの携帯食として好まれるようになった。この名残か、今でも町中のみならず、駅周辺でパイを売る店をよく見かける。

 現在、パイの具は鶏肉や牛の肉をミンチにしたものに、野菜を混ぜたものや、ベーコンと絡めたものなど、千差万別。日本のパン屋で「ミート・パイ」などとして売られているものと一緒と考えれば、ほぼ間違いないが、パイ生地は厚く、堅い。

様々な肉パイ

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(上段:2005年ウェルッシュプールで撮影
下段:2005年カーディフ中央屋内市場で撮影)


*ウェルッシュ・オギー(Welsh Oggie)
 ・・・ ウェールズの羊の牛、玉葱、リーク、ポテトを混ぜ合わせ、グレービー・ソースで味付けをしたものを、パイ生地でくるみ焼いたもの。つまり肉パイだが、他のパイなどに比べ大きいのが特徴。イングランドの伝統食でもあるコーニッシュ・パイが平均して250グラムであるのに対し、ウェルッシュ・オギーは500グラムを超える。左の写真は2006年にスランゴスレンで撮影。奥にあるのがウェルッシュ・オギーだが、手前のコーニッシュ・パイと較べてみてほしい。


*ウェディング・ナイト・パイ(Wedding Night Pasty)
 ガウワー州に伝わる伝統料理。昔はサイコロ切りにされたマトンで作られたとか。現在残るレシピでは、羊、玉ねぎ、ハーブなどを混ぜた具をパイ生地で包み、オーヴンできつね色になるまで焼いたパイ料理である。

 実にこの料理、夜(ナイト)と謳っておきながら、結婚式の朝食時に出されたそうだ。また作るのは式の招待客である。ではなぜ招待する側が作るのではなく、招待客が作るのか?

 すなわち式の当日の朝、招待客がこのパイと祝儀を持ち寄る。それが農夫であれ、漁民であれ、田舎で若者が何もないところから新しい生活を始めるのは大変である。招待客は彼らを門出を多くの食事で祝い、また、祝儀で新郎新婦の新しい生活のスタートを経済的に助けたのだ。田舎の地域共同体が育んだ風習から生まれた料理なのだろう。いかにもウェールズらしい、暖かい料理である。

*ウェルッシュ・ラビット(Welsh Rarebit)
 フライパンを弱火で温めつつ、そこでチーズをエールで溶かす。そこに塩、胡椒、マスタードを加え、焼いてバターを塗ったパンにかける。それをオーヴンで焼けば完成。
 これをなぜ“ウェルッシュ・ラビット”と呼ぶかは諸説あるが、実際のところ不明。しかしこの料理が、ウェールズの伝統料理であることだけは間違いない。

*日替わりスープ(Soup of the Day)
・・・ これもイギリス・パブ・ランチの定番メニューのひとつで、ウェールズでも欠かせない。深めのボール皿に注がれたスープにパンが一緒についてくるのも、イングランドと同じ。ただ田舎料理の印象が強いのが、ウェールズで出されるものの特徴。

午後の紅茶と一緒に
イギリスには、夕食の前に頂くアフタヌーン・ティーの習慣がある。ただ悠然と紅茶だけを楽しむのではなく、気のあった友人と語りあったり、スコーンと呼ばれるお菓子をつまんだり、と、イギリスで最も優雅な時が過ぎてゆく。ただしこのお菓子が曲者で、食の細い日本人ならば夕食代わりになるほど。ここでは、ウェールズでのお茶請けを並べてみた。

*ウェルッシュ・ケーキ(Welsh Cake)
*パンフレットより
・・・ ビスケットとスコーンの中間のような、ウェールズで最も有名な菓子。そのまま食べると、かなり硬い。
 また、土産物屋での定番菓子でもある。こちらは柔らかく、食べやすい。

土産物屋にて。ウェールズの伝統衣装を着た女性を印刷したラベル(右写真;クリックで拡大)からも、
伝統色を打ち出そうとする意図が読み取れる。
(2005年ウェールズで撮影)


2007年アイステズヴォッドに出店中のレストランにて撮影。


*バラ・ブリス(Bara Brith)
*Anglesey〜The Food Islandより
・・・ ウェールズ語で呼ばれる、有名なウェールズの茶菓子。フルーツ・ケーキだが、作る人によって味も大きさも変る。言ってみれば、料理人の数だけ味に種類があるというわけだ。ただし見た目以上にボリュームがあることは、共通している。そのまま食べても良いし、バターなどをつけて食べても美味。なお、バラ(Bara)とはウェールズ語で「パン」の意味である。



バラ・ブリス(右がバターを塗った状態)
(撮影:2004年8月)

*フラップジャック(Flapjack)
・・・ ウェールズに限らず、イギリス全土で見られる菓子。イギリスで暮らしたことのある人ならば、必ず食べたことがあるという代物だ。家庭で作るのが一般的だが(それ故にレシピもたくさんある)、店頭でもみかける。オートミールを原料に、大量のバターと蜂蜜(もしくは糖蜜)を混ぜ合わせたものを、オーヴンで焼いたビスケット菓子である。

*アングルシー島のケーキ(Anglesey Cakes)
・・・ 小麦粉を使って円形に焼いた2つのパンでジャムを挟み、全体に粉砂糖を振りかけたもの。もともとは元旦に子供たちが近隣の家々を、新年を祝って尋ねた時にもらった菓子パンだ。その菓子パンのお礼に、子供たちは次のような歌を歌ったという。

ウェールズ語(原詩) / 英語訳
Calennig yn gyfan, / Today is New Year's Day
Mae heddiw'n, Ddydd Calan, / And we wish you
Unwaith, dwywaith, tri. / Once, twice, three times
Blwyddyn Newydd Dda i chi / A very happy New Year.

日本語訳
今日は元日 
1回、2回、3回と
あなたに新年のご多幸を
お祈り申し上げます

*マザーズ・サパー(Mother's Supper)
・・・ 本来は軽め夕食らしいが、ウェールズ人はお茶請けにもしてしまう。細かく切ったタマネギとチーズ混ぜ合わせた中身を、上と下からベーコンではさむ。それを容器にいれて、上のベーコンがカリカリになるまで焼いたものだ。これを茶請けにする(笑)?


ディナー
イギリスの料理は量が多いことで有名だが、ウェールズもその例に漏れない。いやむしろ、イングランドよりも量が多いこともある。そしてその多くは、自然の恩恵を十分に受けているのが特徴である。

前菜およびサイド・ディッシュ
前菜も、量が多い。メインがその後に控えていることを考慮した上で、注文しよう。2、3人で卓を囲むならば、前菜は1〜2品が適当かもしれない。

*カウル(Cawl)
・・・ カウルとはウェールズ語で、スープの意味。料理名にウェールズ語を冠しているだけあり、ウェールズの伝統料理としては名高い。ゆえにもともとは家庭内で作られていた料理だが、パブなどでも提供されることがある。

 カウルは羊の肉や野菜を煮込んだスープだ。それを一言で表現するならば、“豪快”。中に入っている肉や野菜は、大きな塊だ。それがいくつもゴロゴロ入っている。宮廷の洗練されたものではなく、農家の一般家庭で伝えられてきたことを思わせる豪快さだ。

 現在では、普通のスープとして食されるカウル。しかしかつては、そうでなかったという。Bobby Freemanによれば、カウルは一旦調理された後、まず、スープ(煮汁)の部分のみが出された。そのスープが終わってから、肉と野菜のみが別の皿に盛られ、っ食されたという。つまりひとつの料理で、前菜とメインの両方の役割を果たしたのだ。

 カウルに用意するのは羊(子羊)の肉と野菜。肉は牛肉でも良い。まずはウェールズ産の子羊の肉から脂肪を取り除き、狐色にフライパンで焼く。これを大き目の鍋に移し、水とハーブを加え一煮立ちさせた後、とろ火で煮込む。

 その間にジャガイモ、豆、ニンジン、タマネギ、ウェールズを象徴する野菜であるリーキ(セイヨウネギ)などの野菜を、大き目のサイコロ状に切り分ける。とにかく豪快に、大きな塊に切ること。そしてリークを除いた野菜をフライパンで炒めた後、肉の入った鍋に移す。そしてとろとろになるまで煮込む。十分煮込んだら、仕上げの20分前にレタスとブロッコリーを入れれば完成。(左写真:2004年ニューポート(ペンブルックシャー)にて撮影)



カウル
(撮影:2007年カーディフ)


カウルには大抵、パンがついてくる。チーズをあわせても良い。
(クリックで拡大:撮影、2011年8月、カーマーゼン)

*レバー・カウル(Cawl Afu)
 豚の肝臓(レバー)と玉ねぎを刻み、水で2時間煮込む。そこにニンジン、カブラ、パースニップ、ジャガイモを切ったものを加え、さらに30分煮込む。こうすることで肝臓はピューレ状になり、スープとして食べやすくなる。

 元来は、家畜の豚が死んだ時に作った料理。他の肉は焼いたり、腸詰めにしたりしたのだろうが、残った内臓までも奇麗に食するために考案されたのだろう。ブラック・プディングは、やはり、家畜の肉を捨てるところなく食べるために考案された料理だと伝えられるが、これも同じ理由だと考える。ちなみに膀胱は膨らまされ、子供たちがサッカー(フットボール)のボールのように蹴って遊んだとか。

*スープ(Soup)
・・・ ニンジンとコリアンダーのスープ、セイヨウネギ(leek)とポテトのスープ、セイヨウネギとキャベツのスープ、など千差万別。日替わりスープ(Soup of the Day もしくは Soup of the Night)を、メニューに持つレストランやパブも多い。大抵、スープと一緒にロール・パンがついてくる。もしウェールズを象徴する野菜のひとつ、セイヨウネギ(leek)を食材に使ったスープがあれば、是非とも味わってみたい。メニューで自家製(home-made)がうたわれていれば、その土地独自に伝わるレシピのスープに出会うことが出来るかもしれない。

 右の写真は、トマトとタマネギのベジタブル・スープ。クルトンとパセリがのせてある。(撮影:2004年ギルスフィールド)

*チップス(Chips)
・・・ 大抵、メインを頼むと一緒についてくる。チップスはイギリス英語で、ポテトの揚げ物。日本やアメリカで言うなら、フライド・ポテトである。その太さは、日本のそれの倍かそれ以上。なお、日本やアメリカで言うポテト・チップは、クリスプ(“crisp”もしくは“potato crisp”)と言う。
 左の写真は、山盛りのチップス。2003年にカーナヴォンにて撮影。


*ガーリック・ブレッド(Garlic Bread)
・・・ ウェールズのみならず、イギリス全般で出される料理だ。ガーリック・トースト(Garlic Toast)とも言う。が、イギリスでは全般的にブレッドと呼ばれているようだ。英語で“ブレッド”(bread)が、日本で言う“パン”の総称だからだろう。
 薄く切ったバゲットの片面に、バター、ニンニクのみじん切り、パセリを混ぜたものを塗り、こんがりと焼いたもの。ニンニクの芳ばしい香りが、なんとも食欲をそそる一品。簡単な料理だけあってレシピを見ていると、かなりのヴァリエーションがあることがわかる。バターの中にレモン汁などを加えても、いいらしい。チーズを一緒にのせて焼いたものも一般的。(撮影:2004年ニューポート)


*パテ(パイ)(Pate)
・・・ パテとは、フランス語で小型のパイのこと。その中身そのものの料理である。肉を具にしたものが代表的だが、カモの内臓とアプリコットを混ぜたものや、ウェールズらしくマスを具に使ったものもある。レストランによっては、日替わりパテをメニューに持つところもある。それほど一般的な前菜なのだ。パンと一緒に出される。(撮影:2004年ポースマドック)


*ウェルッシュ・チーズ(Welsh Cheese)
・・・ チーズを単品で出すレストランは珍しいが、場所によっては、チーズの盛り合わせをメニューに持っているところもある。
 ウェールズではチーズは、かなり古くから食べられてきた。最も有名なウェールズのチーズといえば、カーフィリィ(Caerphilly)だろう。このクリーミーな味わいを持つチーズは、ヤギの乳から作られる。もともとは南ウェールズで作られていたが、産業の発達に伴う人口の増加とともに、ウェールズ中で知られるようになり、ついにはヨーロッパ大陸にも渡った。現在では、残念ながら、ヨーロッパ産のカーフィリィが圧倒的に多いようである。

*石切り工のサパー(Quarryman's Supper)
・・・ 薄切りのジャガイモと玉ねぎ、ベーコンの薄切りを、小麦粉でとろみを加えた、牛肉から出汁をとったスープ火にかけた料理。
 かつて北ウェールズでは石切り工は、アングルシー島やスリン半島の自宅から歩いて石切り場までやってきた。日曜日の夕方に訪れ、土曜日の午後、自宅に向かったという。彼らはバラックで自炊をせざる負えなかったが、その彼らがフライパン一枚で作ったと言われているのがこの料理だ。5分ほどで料理できたと言われ、仕事から戻ったばかりで、空腹を抱える石切り工らの腹をすぐに満たすのに便利な料理だったのだろう。
 北ウェールズは当時、ドイツと親交があった。一説によれば、この料理はドイツの炭鉱からもたらされたという。

*焼き玉ねぎ(Baked Onions)
 皮を剥いた玉ねぎを塩水で15分茹でる。そして冷ましてから、中心をくりぬく。そのくりぬいたところに、あらかじめ塩、胡椒で下味をつけバターで炒めたひき肉に、パン粉を混ぜたものを入れる。その上にバターを少量載せ、オーブンで30分焼けばこの料理は完成する。
 レシピ本には「寒い冬の日向けの温かい料理」とある。なるほど、体が温まりそうだ。残念ながらパブなどでは見かけないメニューのため(恐らく北部に伝わる家庭料理)食したことはないが、もし機会があったら一度試してみたい料理だ。


*生野菜のサラダ(Fresh Salad)
・・・ イングランドでは煮野菜が普通だが、ウェールズでは生野菜も多く見かける。メイン・ディッシュには少量の野菜が添えられていることが多いが、緑黄色野菜不足を感じたら迷わず注文しよう。ハムやウェルッシュ・チーズと生野菜のコンビや、シーザー・サラダ、ツナ・サラダなどが一般的だが、全てが一緒になっているものもある。海辺の街や村ならば、エビのサラダ(prown salad)や海のものをあわせたシーフード・サラダを、一度は試してみたい。ウェールズ産のチーズのカーフィリィ(ウェルッシュ・チーズの項目参照)とトマトのサラダは、食欲をそそる一品だ。

*アングルシー島の卵料理(Anglesey Eggs)
・・・ 深めの皿にマッシュポテトを敷き詰め、その上に半分に割った固ゆでのゆで卵を載せ、茹でたセイヨウネギを皿の淵に沿って卵を囲むように並べる。その上からチーズをかけ、オーヴンで焼いた料理。日本人の感覚からすると、十分メインとして通用しそうな雰囲気だが、こちらの人はこれを前菜や、午後の紅茶の茶請けにもしてしまう。



見た目はグラタン


だが中を少しかき回せばゆで卵がごろごろと・・・
(撮影:2011年、Caerferyにて)
(クリックで拡大)

*小エビのカクテル(Shrimp Cocktail)
・・・ 飲み物ではなく、れっきとした料理。イギリスの前菜料理では、定番的な一品だ。
 白ワインと水で煮た小エビを、冷蔵庫で冷やし、そこにマヨネーズ、西洋わさび、チリソース、生クリームなどを混ぜて作ったソースをかけていただく。このソースが、カクテル・ソースと呼ばれる。ぷりぷりのエビの食感とこってりとしたソースが、なんともたまらない一品。

*アングルシー島のカニ・ダンゴ(Anglesey Crab Cakes)
・・・ アングルシー島は、北ウェールズから陸続きの島だ。そこで見かけた前菜メニューのひとつ。現地で捕れるカニの身を使う。ほぐしたカニの身をマヨネーズ、マスタード、卵、パン粉と一緒に混ぜ合わせたものを、団子状に丸める。そのカニ・ダンゴを油で揚げれば、出来上がり。日本ならカニ・コロッケが近いだろうか?


ウェールズの海で採れた蟹(撮影:2007年カーディフ市場)

*魚肉ダンゴ(Fishcakes)
・・・ メインにも登場する一品。テイク・アウェイの店でも見かけられる料理である。魚肉のミンチにマッシュ・ポテトを混ぜ、ダンゴ状、もしくはそれを平たく潰した状態にして揚げた一皿だ。魚は鮭やタラが使われる。タルタル・ソースで食す。見た目は、コロッケそのまま。中身は魚の味だが。

 右の写真は2004年にテイク・アウェイで買ったもの。舌がコロッケの味を無意識に予期するが、その期待に反して、タラの味がするので一瞬驚く。


*グラモーガン・ソーセージ(Glamorgan sausages)
・・・ 肉抜きのソーセージを注文したら、どうなる? その究極の答えがここにある。グラモーガン・ソーセージ。この一皿には肉は使われていない(註:乳製品は使用されている)

 グラモーガンとは南ウェールズの州(county)。カーディフなどのある南部の州だ。その州名を冠したこのソーセージこそ、肉を一切使用しないソーセージである。古くは1850年代にこの料理の記録がある。

 パン粉、チーズ(カーフリー・チーズが良いと言われる)、リーク(西洋葱)、ハーブ、マスタード、卵などを混ぜ合わせた具をソーセージ状に細長く丸める。その具を1時間ほど冷蔵庫の中で寝かせてから、ソーセージを揚げる要領でフライパンで焼いたものが、グラモーガン・ソーセージである。究極のヴェジタリアン向けウェールズ郷土料理かもしれない。



市場を彩る野菜たち。手前がリーク(西洋葱)
(撮影:2007年カーディフ市場)
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メイン
*海鮮料理(Seafood)
昼食の項目であげたフィッシュ・アンド・チップスも、もちろん、海鮮料理だ。だが3方向を海に囲まれ、山や丘の間を清流が縫うようにして流れるウェールズでは、魚介類を食材に使った料理が多くある。海のタラ(Cod)やマダラ(Haddock)、エビ(prown)が一般的なのはイギリス全土に渡って共通だが、ウェールズでは川で捕れる鮭(salmon)やマス(trout)も、人気のある食材だ。
 北ウェールズでは、海に面した街や村が多く、そのため、海鮮料理は豊富である。特にアングルシー島(Anglesey)では、さまざまな伝統的なレシピが伝えられるのみでなく、その地勢を生かした新しい料理が地元のシェフによって開発されている。レストランで試してみよう。


*フィッシュ・アンド・チップス(Fish and Chips)
フィッシュ・アンド・チップスエール(ビター)。左下のペースト状のものは、マッシュド・ビーンズだ。
(撮影:2003年ホーリーヘッド)
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・・・ レストランでは、“Battered Cod Fillet”と記載されていることが多い。その意味は、「衣(batter)をつけて揚げたタラの骨抜き切り身」である。
 基本的には持ち帰り商品と代らないが、レストランやパブで出される場合は皿に盛られてくる。ナイフとフォークで食べることを考慮したためか、持ち帰りのものよりも、こんがりとあげられた魚とチップスが、大きな皿の大部分を占める。更にその周囲を茹でたグリン・ピースや煮野菜が、固める。ただし、ここ数年では煮野菜ではなく、生野菜である場合が多い。
 持ち帰りでは塩とヴィネガーで食すのが普通だが、レストランなどで食べる場合は、他にケチャップ、マヨネーズ、タルタル・ソースなどが選べる。ビターやラガー系のビールと一緒に食べると、味は格別。二段も三段も、揚げ魚の味が跳ね上がり、舌が踊ること請け合いである。

 海の近い港町や漁村を訪れた場合には、是非ともお勧めのメニューである。特に、西部や北部の海に面した町や村で出されるフィッシュ・アンド・チップスは、格別。魚が新鮮なのは言わずもがなだが、その身の引き締まり具合にロンドンなどで食べるものとは、格段の差がある。



ディップもついて、お洒落な料理に化けることもある
(撮影:2005年8月、カーディフにて)


ハドック(鱈の一種):
ハドックは同じ鱈のコッドに比べかなり淡白である。
(撮影:2007年8月11日、レクサムにて)

*タラのあげもの(Battered Cod Fillet)
・・・ “Battered”とは衣(batter)をつけて油であげることを、“Fillet”は魚ならば切り身を意味する。同じ項目のフィッシュ・アンド・チップス参照。

*スカンピ(Scampi)
ボール状の皿に盛られたスカンピと生野菜
(撮影:2003年カーナヴォン)
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・・・ レストランによっては“Breaded Scampi”や“Whole Tail Scampi”と、記載されている。ウェールズのみならず、イギリスでは最も人気のあるメニューのひとつ。エビ(prown)に衣をつけて揚げた一品だ。
 あつあつのところをタルタル・ソースをつけて口に放り込むと、衣のサクサク感と、対照的なそのぷりぷりとした食感がたまらない一品である。エールに似合う料理のひとつでもある。他の料理に較べて量が軽いので、私の場合エールを飲みながらだと、あっという間に食してしまう。やはりこれも、チップスや生野菜と一緒に出される。


*漁師の皿(Fisherman's Plate)
・・・ 魚に限らず、海の素材のフリッターをふんだんに盛った1品である。
 ポースマドックで出くわしたこの皿には、タラの切り身、スカンピ、イカの輪切り(いわゆるイカ・リング)、そして白魚の揚げ物が生野菜とともに山盛りになって出てきた。痛みやすい白魚が食べられるとは港町ならではであるが、同時にそれはこの皿の食材が新鮮なことをも意味する。ウェールズの自然とそこに暮らす人々に感謝しながら食した1品である。


*ウェールズ風マスのベーコン包み(Welsh Trout in Bacon)
・・・ マス(trout)は、ウェールズでは川魚の代表的存在。そのためウェールズでは、フライやルアーによるマス釣りもさかんである。そのようなマスを味わうのに、最適なのがこの料理だ。かつてウェールズの農夫たちは、川で捕れたばかりのマスを、自家製のベーコンで包んで焼き、この料理を楽しんだそうだ。
 腸(はらわた)を抜いたマスの上からバター、パセリ、レモンの輪切り、黒胡椒をのせれば、下準備は完了。それを更にベーコンをぐるぐると巻きつけ、その上からバターをのせ、オーヴンで焼けば出来上がりである。いかにも無骨な男たちの、豪快でありながら、魚本来の味を損なわない料理だ。ポテト、ニンジンなどの付け合せで召し上がれ。

 左の写真は、2004年コンウイのウェールズ伝統料理専門レストランで撮影(クリックで拡大)。伝統的な料理法に忠実に従いながらも、小エビをあしらうことで、ワインの似合うお洒落な料理となっている。


*マス料理(Trout)
・・・ パブやレストランで、一般的に見かけるメニューはこちら。バターでソテーするのが、一般的な料理方法。もしメニューで“local”という一言がついていれば、それは地元で採れた魚であることを意味する。


ニジマス
(撮影:2007年カーディフ市場にて)

*マスとアーモンドの炒め物(Local Trout and Almond)
・・・ ソテーしたマス(地元産)に、アーモンドの炒め物をあえた一品。アーモンドは、マスをソテーした後の油(バター)で炒めてある。淡白な味のマスを、アーモンドの甘さが彩る料理だ。(撮影:2006年スランゴスレン)


*鮭料理(Salmon)
・・・ もちろんウェールズでも鮭は魚料理の定番。かつては牛乳で煮たそうだ。だが今日ではオーヴンで焼いたり、フライパンで炒めたものが好まれる。いくつかレシピ本から料理を紹介しよう。

 [鮭のホイール焼き(Baked Salmon)] ... 鮭を1匹用意する。胃などの内臓を取り除き、良く洗う。これを腹側からふたつに割き、そこに塩、こしょうをふりかけ、スライスしたレモンにパセリを並べる。これをバターか油を塗ったフォイルに横たえ、さらにパセリとレモンを表面に載せる。これをオーヴンで40分焼く。焼きあがったら肉のみを皿に盛り、マヨネーズとレモン、ヨーグルトなどから作ったソースをかけて食す。

 [鮭の皿焼き(Welsh Plated Salmon)] ... “イギリスで最も小さい家”に伝わる料理。防火皿に鮭を載せ、2匙分の牛乳を加え、多いをする。フライパンに沸騰した湯とジャガイモとアスパラガスを入れ、更にその上から先ほどの皿を載せ約20分、蒸し焼きにする。出来上がったら皿をそのまま食卓に乗せ、茹でたジャガイモ、アスパラガスを添え物にする。



(撮影:レクサムの肉屋市場)

*漁師のシチュー(Fisherman's Stew)
・・・ 前菜や軽い夕食(supper)でも出される、ゴーアー半島に伝わるシチューだ。もともとは朝捕れた魚を家に持ち帰った漁師が昼寝をしている間に、妻がそれらを煮たシチューである。
 トリガイ、マダラなどの白身魚、カニ肉、エビ、タマネギを白ワインと水で大鍋を使って煮る。煮込みすぎる前に、溶かしたバターとサフランを加え、火から降ろすのがこの料理のミソ。

*魚のパイ(Fish Pie)
・・・ あらかじめ骨や鱗を取り除き、調理された白身魚を、固ゆでのゆで卵やスライスされたトマト、パセリなどとともにマッシュ・ポテトで包み、焼き上げた料理。

*オイスターマウス・パイ(Oystermouth Pie)
・・・ ディラン・トマスが「醜くも愛すべき町」と呼んだスオンジーにある、海岸沿いの町の名を冠した料理は、魚のパイ包み焼きだ。
 骨と鱗を取り除いたタラの身と、マッシュ・ポテト、タマネギ、固ゆでの卵を混ぜ合わせた具を、パイで包み焼き上げたもの。もともとタラは、塩漬けのものをつかっていたそうだ。

*トリガイのパイ(Cockle Pie)
・・・ 数百種類貝料理の中で、最も有名なものだそうだ。あらかじめ茹でた向き身のトリガイを、ベーコン、タマネギ、シャロットなどと一緒にパイ生地で包み、焼いた一品。

*ペンブルークのトリガイ(Pembroke Cockle)
・・・ トリガイはウェールズの魚屋ではどこでも買えるほど、定番の食材だ。このトリガイの剥き身を小麦粉とオート・ミール(もしくはパン粉)で衣を着せ、黄金色になるまで揚げたのが、この料理である。塩とヴィネガーで食す。

*カニ料理(Dressed Crab)
・・・ カニ料理は、残念ながら中々メニュー上ですら出くわさないが、ウェールズの料理本では定番だ。これはその中のひとつ。カニの身をヴィネガーと油で混ぜ、更に塩と胡椒で味をつけ、これを皿もしくは甲羅に盛り付ける。その上をゆで卵の黄身、レモンの輪切り、パセリで飾った料理。ペンブルークシャーではこれに軽く茹でたアスパラガスと薄切りのトマトを添え、ドレッシングをかけ、サラダ感覚で食す。


*肉料理(Meat)
ウェールズといえば羊、と言われる。牛や鶏などのほかの家畜を押しのけて語られるほど、ウェールズの羊は有名だ。ウェールズの自然の懐で放牧されて育った羊の、引き締まった肉を通して、ウェールズの大地を味わうのも旅ならではの魅力だ。もちろん、羊のみならず、牛や鶏を使った料理も昔から伝えられている。また、太いソーセージ(腸詰)を一度味わえば、その味に病みつきになること請け合いである。ここではウェールズで食べられる肉料理から、数品を並べてみた。


子羊肉のチョップ、ミント・ソース和え
(撮影:2004年ギルスフィールド)
(クリックで拡大)


ウェールズの食卓を飾る肉たち――[左上]ブラック・ソーセージ [右上]ソーセージと厚切りの肉
[下]肉の配達中
(いずれも撮影はウェルッシュプールにて。上が2005年、下が2001年)

*ウェールズ風ロースト・ラム(Honeyed Welsh Lamb)
・・・ Lambとは子羊のこと。ウェールズの羊は世界的にその名が知られるが、地元での伝統的な羊料理と言うとこのウェールズ風ロースト・ラムになる。
 これはウェールズの子羊の足に蜂蜜を塗り、塩と胡椒で味付けした上でローストした料理だ。羊を焼いた後の肉汁に、リンゴ酒と蜂蜜を混ぜて作ったグレイヴィー・ソースで食す。ウェールズの丘で放牧された羊の引き締まった肉を楽しむには、最適の料理か。考えただけで、涎がわいてきた(笑)。

*ラム(子羊)(Lamb)
・・・ ラムの料理はいくつかあるが、定番ともいえるのが子羊の肉をローストしたものだ。これにお好みのソースをかけて食べるのだが、ウェールズでは誰に聞いても「ミント・ソース!」という答が返ってくる。
 それもそのはず、羊は草を食べて育つが、その中に天然のミントが含まれる。即ち、食べて育ったものと一緒にあわせるのが、一番美味い。これがイギリスの料理に対する考え方である。



[上]ラムとミント・ソース [下]ローストしたラムにナイフを入れる料理人
(2007年8月10日、アイステズヴォッドの会場にて)


ラムのチョップ(2006年中部ウェールズ)
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*ウェールズ風子羊のパイ(Welsh Lamb Pie)
・・・ ウェールズの古い料理のひとつ。春を迎えたばかりの、まだ関節の柔らかい子羊を使った料理が、伝統的なものとされる。
 ニンジンとサイコロ状に切った子羊の肉を、パセリ、季節の野菜、そして子羊の骨からあらかじめとったスープと一緒に、パイで包み、焼いた料理。マッシュ・ポテトとグリン・ピースの付け合せとともに、召し上がれ。

*モンマース・シチュー(Monmouth Stew)
・・・ 輪切りのセイヨウネギ、子羊の肉、パセリ、ハーブを煮込んだシチュー。ハーブは風味付けなので、食べる前に取り除かれる。

*ビーフ・ステーキ(Beaf Steak)
・・・ 説明は不要でしょう。定番中の定番料理。もちろん、地元で育てられた牛を使っていることは、言うまでもない。グラムではなく、オウンス(oz)で注文する。オウンスは約28.3グラム。

*ファゴット(Faggot)
・・・ 豚や羊の内臓を使った肉団子だ。内臓とタマネギのミンチを、セージ(サルビア)など季節の野菜と一緒に混ぜた具を丸め、焼いたもの。グレーヴィー・ソースで食す。

 堅く締め、水分を抜き、焼いた肉団子は携帯に向いていた。そのためかつて炭鉱夫らは、ファゴットを弁当として地下の坑道に持ち込むことを好んだという。左の写真は2005年8月、カーディフで撮影。レストランで出されたものだが、予想以上に柔らかく、素朴な味だった。



2007年9月、スランドリス(Llandoris)で撮影。

*ソーセージ・アンド・マッシュ(Sausage and Mash)
・・・ ウェールズに限らず、イギリス全土での定番料理だ。グレービー・ソースをたっぷりと敷いた海の中央に、マッシュ・ポテトの山を作る。その上に数本のソーセージを豪快に載せた一品である。ソーセージの直径は3センチを超えるものが多く、日本のそれを想像していると、驚かされること請け合いだ。ロンドンなどで注文すると、それなりにお洒落なスタイルで出されるが、ウェールズではそれは当てはまらない。下の写真(撮影:2006年ベリュー)から見て取れるように、農夫の食事を思わせる素朴かつ豪快な一品となる。



その名もケルト風ソーセージ(左)と、豚肉とリークのソーセージ。
(撮影:2007年カーディフ市場)

*ベイノ・ポーク(Beuno Pork)
・・・ 豚は羊が広まる以前、ウェールズでは貴重な家畜だった。牛が一般的な家畜であったのに対し、豚は貴重種。それは『マビノギオン』第4話で、アンヌーヴンから贈り物として贈られた豚を求めて争いが起きるほどである。故に豚料理に、ウェールズ語と英語の両方からなる名前がついていても不思議ではない。
 豚肉の切り身に衣をつけ、バターで両面がきつね色になるまで揚げる。それを鍋に移し、トマト・ソース(大サジ2)、スープ(肉系の固形スープを溶かしたもの)、月桂樹に塩、胡椒を加えて蓋をする。そして180℃で約1時間焼く。最後に小さなキノコを加える。これがベイノ・ポークである。してみると、ウェールズ風焼き豚カツかな?

*ハーベスト・ホット・ポット(Potes Mis Medi / Harvest Hot Pot)
・・・ 大きな深鍋を火にかけ、その内側でバターを溶かす。ベーコンや角切りの子羊の肉をきつね色になるまで炒め、そこに人参、ジャガイモ、リーク、玉ねぎ、カブラなどの野菜を切ったものを入れ、香辛料とたっぷりの水を加える。それを弱火で2時間煮込めば、出来上がり。実にウェールズらしい料理だ。
 この料理はジャガイモの収穫期に作られた。鍋ひとつで料理が済むうえに、複雑な工程や微妙な温度加減などが不要のためである。つまり料理の下ごしらえをした鍋を火の上に放置し、その間に収穫に専念する。そうすることで夜遅くに畑仕事から帰ってきても、夕食にすぐにありつけるというわけだ。
 余談ながら、かつてウェールズの学校には「ポテト収穫ウィーク」(Wythnos Hela Tatws)があったとか。この時に親子総出で畑に出かけ、一日働き、帰ってきてからこの料理に舌鼓を打ったことだろう。

*ステーキ・アンド・キドニー・パイ(Steak and Kidney Pie)
外れのステーキ・アンド・キドニー・パイ。
シチューの上に出来合いのパイ皮を載せただけの皿。
(撮影:2003年アバーダロン)
・・・ イギリスでは定番のパイ包み焼き料理。ウェールズで育てられた牛の肉、腎臓(kidney)、玉葱の煮込みを、パイ生地で包んで焼いた一品。内臓を使っているが臭みがなく、また、肉と腎臓が見分けがつかくらいまで煮込まれている。煮込みそのものの味はきつめだが、パイを絡めて食べると非常にまろやかな味に変化する。一品で、2,3種類の味を楽しめる料理だ。パイ生地が店によって千差万別で、これが料理の味を左右することは、付け加えておく。自分の経験から言うと、かなり当たり外れの激しい料理でもある。


*ステーキ・アンド・エール・パイ(Steak and Ale Pie)
・・・ これもイギリスでの定番料理。サイコロ状に切った牛肉、玉葱、リーク(西洋葱)などをエールで煮込む。それをパイ生地で包んで焼き上げた料理。煮込むので大抵の場合は、アルコール分はとんでいるが、中にはかなり残っている(仕上げにアルコールを足したか?)ものもある。車を運転する場合には、ご注意を! (撮影:2007年8月10日、レクサム)

*ヨークシャー・プディング(Yorkshire Pudding)
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・・・ プディングと言っても、日本で言うプリンとは全くの別物。小麦粉に卵を加え、牛乳と水でといたものを焼き上げたパイ皮のようなもの。平たい円筒上に焼かれたプディングは、肉料理の付け合せとして出されることが多い。
 2001年に中部ウェールズでこの料理を注文した時には、プディングを容器とし、その中にソーセージとタマネギを煮込んだ具が入っていた(左写真)。このソーセージが地元産で、粗野でありながらウェールズならではの、力強い味。それを包むタマネギとプディングが、全体を優しく、まろやかな味にしていた。
 なお、なぜヨークシャー・プディングといわれているかは、不明。


*チキンの胸肉(Chicken Breast)
・・・ これも良く見かけるメニュー。焼いた鶏の胸肉を、クリーム・ソースで食す。クリーム・ソースを使いながらも、食材が鶏肉のため、想像以上にあっさりとした味だ。
左の写真は、2003年に中部ウェールズで撮影。下のクリーム・ソースの塊が、胸肉の部分。


*カモの丸焼き(Roast Duck)
・・・ 野性味あふれる肉料理は、ウェールズ料理の醍醐味でもあり、楽しみでもある。中部ウェールズの夕食も出すパブで食したこの料理(右写真)は、中華料理の北京ダックを想像していた私を、良い意味で裏切ってくれた。何せ、野性味があふれすぎて、ナイフが通らないほど肉が締まっていたのである。この料理と格闘すること数十分、ついにはナイフが負けた。ナイフが曲がってしまったのである。そのような苦難にもめげず、何とか口に入れたその肉は、外側の香ばしく焼かれた皮と、噛むほどに肉汁が溢れ出す中身の強烈なタッグで、私を完全に打ちのめしたのである。


*ウェールズ風塩鴨(Welsh Salt Duck)
 1867年に編纂されたThe First Principles of Good Cookeryに出てくる料理。鴨を塩で揉み、更にそれを冷蔵庫(冷暗所)で2日間塩漬けにする。その間、同じ塩揉みを2毎日繰り返す。

 調理当日、それを水で煮ることで余分な塩分を落としてから、水切りをし、更にオーブンで皮がこんがりと狐色になるまで焼いた料理。ホウレン草や玉ねぎ、もしくはラバー(海苔の一種)をつけ合わせとする。ソースはオレンジ。

*カモの塩漬け(Salted Duck)
・・・ 塩漬けにしたカモの肉を、1時間半から2時間かけて茹でたものを、タマネギ、牛乳、バター、季節の野菜から作ったとろみのあるソースで頂く。料理の本によると、伝統的なウェールズ料理とのこと。しかし残念なことに、私はレストランやパブでこのメニューにお目にかかったことがない。

*ウェールズ風チキン煮込み(Welsh Chicken)
 かなり古くから伝わる、伝統料理。イングランドの貴族が鳩や雉などが、狩猟料理として好まれる一方で、農業が主だった産業だったウェールズでは鶏は一般的な鳥なのだ。

 まずは下準備として、ベーコンとにんじんを細かく刻み、深めの鍋で炒める。足と羽を一緒に縛った鶏を、その上におく。更にその上からリーク(西洋ねぎ)、ハーブをかぶせ、塩コショウをする。続いて鶏肉にバターを塗り、ブイヨンをといてそれらを浸し、ふたをする。弱火で2-3時間煮た後、別途、炒めたキャベツを皿の上に敷き、鶏を鍋から取り出し、その上に置く。一方、残ったスープは捨てずに、小麦粉とバターを加えスープにとろみを加え、ソースにする。





ウェールズ?! カムリ!
写真(*は除く)と文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2012: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Anglesey The Food Island, (Menter Mon, 2002)
Davies, Evelyn, Cegin Aberdaron Kitchen, (St. Hywyn's [Trading] Ltd, 2002)
Smith-Twiddy, Helen, Celtic Cookbook, (Y Llolfa, 1970)
Favorite Welsh Recipes, (J. Salmon LTD)
Freeman, Bobby, Traditional Food From Wales, (Hippocrene Books Inc., 1997)
Williams, Margaret, The Smallest House Cook Book, (Gwasg Carreg Gwalch, 1992)
Williams, Rhian, Welsh Dishes, (Y Lolfa, 2000)
Yates, Annete, Welsh Heritage Food & Cooking, (Lorenz Books, 2006-2007)




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