ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽2:クラシックおよび現代音楽――



■ウィリアム・マシアス(William Mathias) 作曲家
 ウィリアム・マシアスは、シリアスな作品から軽めの作品までも手掛ける、クラシック音楽の作曲家である。
 ウィリアム・マシアスは1934年11月1日に、ウィットランド(Whitland)にて、グラマースクールの校長を務める父と、ピアノ教師かつオルガン奏者である母のもとに生まれる。かなり幼いうちから作曲に興味を示し、5歳からピアノのレッスンを受けるようになる。ウェールズ大学を卒業後、ロンドンの王立音楽学院で作曲を学ぶ。
 彼の最初の作品であるDivertimento for string orchestraは、58年3月に初演され、後にBBCで放送されることとなる。作曲家として活動する一方で、59年よりバンゴール大学で講師として音楽を教えた。作曲に平行した教師生活は、、88年まで続いた。92年、アングルシー島にて没。
 生涯において、2度もフェロー(大学の特待交友)に選ばれるばかりか、数多くの音楽団体の長を務めてきた。68年には作曲賞にも輝いているが、その一方で、チャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚を祝う曲も書いている。
 ウィリアムは、常に自分がケルトであるとの意識をもっていた。そのため彼の曲には、その意識が反映されている。また彼は20世紀に生きた作曲家だが、同時代の、いわゆる「現代音楽」には興味をもたず、モーツワルトやバルトーク、ストラヴィンスキーやティペットといった古典の域に入る作曲家を敬愛した。曲によってはディミニッシュ・スケールや減5度(増4度)(註)などの不協和音も、曲の緊張感を高める目的で使用したが、いわゆる「現代音楽」のように調性を失うことなかった。決して多作家ではなかったが、Lux Aeterna(82)、3つの交響曲、協奏曲、室内楽、オペラ、そして若い頃からのピアノの腕を作曲にいかした、ピアノ・ソナタを残している。


註:減5度もしくは増4度の音程は、根音(ルート)に対して最も調和する5度音程より半音下がることで(例:ドに対する♭ソ)、不協和感を醸し出す。現在においてはポピュラー・ミュージックなどでも普通に使われる音程だが、古典の世界では使ってはいけない音程でもあった。

[アルバム(選)]
Lux Aeterna (89) (Chandos / Chan 8695)
 ウィリアムの最高傑作と名高いのが、合唱とオーケストラのために書かれた本作Lux Aeternaである。80年3月に亡くなった母親を悼んで書かれた本作は、しかしながら、通常のレクイエム(鎮魂歌)のテクストを排除している。本人の弁によれば、この作品は「天国の光」と「地球の魂の闇夜」の間に生じる緊張感を反映し、主人公はその狭間を旅しながら、天界の光を求めるのである。即ち、合唱団が担当する多くの魂が安らぎや解放を求めるのに対して、独唱者は地上の闇夜を彷徨い、神との神秘的な「合体」を目差すのである。そのため、作品の全体の音は暗さと、緊張感を強いられ、時に激しく衝突する。だが、三位一体をも現す3人の独唱者がひとつになり、旅が終わりに近づくと、天界の永遠の光が輝いてくる。その光の中で、人は救われ、永遠の安らぎを得る。その様子が、最後の美しい合唱と独唱、そしてオーケストラの調和に描かれている。




[リンク]
 WILLIAM MATHIAS (1934-1992) by Dr. David C.F. Wright ... David Wright氏によるウィリアム・マシアスの記事。参考にさせていただきました。



ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003: Yoshifum! Nagata








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