ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ステレオフォニックス(Stereophonics) 歌/英語
 今やウェールズどころか、イギリスを代表するにまで成長したロック・バンドが、ステレオフォニックスである。そのウェールズらしさが生み出す、強靭なビートと、悲しみまでも笑い飛ばしてしまう精神的な強さで、世界各国のファンを魅了してやまない。
 ステレオフォニックスは90年代初頭に、ケリー・ジョーンズ(Vo&G)、スチュアート・ケーブル(Dr)、リチャード・ジョーンズ(B)によって結成された。メンバーの3人は、いずれも南ウェールズのロンザ谷(Rhondda Valley)近くの村カマーマン(Cwmaman)の出身で、幼馴染である。カマーマンは、南ウェールズのほかの村と同じく、炭鉱を中心に形成されていた。しかし、ポーランドや南アメリカからより安い鉱物が輸入されるようになった1980年代には、サッチャー政権の下、ウェールズの炭鉱はその役目を終えるようになった。

 カマーマンの炭鉱も、例外ではなかった。ブラウンの炭鉱(Brown's Pit)と呼ばれる村唯一の炭鉱が、70年代初頭に閉鎖されてからは、この村は廃鉱の村となった。ケリーの父は炭鉱夫だったが、廃鉱により職を失った。そのため、以前からパブで仕事のかたわら歌っていた彼は、定期的にパブで歌い収入を得るようになる。
 ケリー・ジョーンズが生まれたのはそのような折のこと、74年だった。かつて炭鉱夫だった父と祖父を持ち、5歳にしてサッカーの大ファンとなるケリー。同時に幼い頃からAC/DCなどのハード・ロックを好み、12歳から父親に連れて行かれた地元のパブでブルースを聴いて育つ。これだけの条件が揃えば、父親の歌う姿を見て、ケリー自身が歌うようになるのは当然のことだった。そして15,6歳の時にケリーはギターを手に入れ、同じ年にドラムを手に入れたスチュアートを一緒にバンドを結成する。しかしながらそのバンドは解散し、ケリーとスチュアートはリチャードを誘い新たなるバンドを結成した。これが、ステレオフォニックスとなる。

 地道な活動を続けた彼らを、レコード会社との契約へと導いたのは、「サウザンド・トゥリーズ」(“A Thousand Trees”)のデモ・テープだった。数多くのレコード会社が契約を申し出た中で、彼らが選んだのは、ヴァージン・グループの総帥リチャード・ブランソンが96年に起こしたV2レーベルだった。V2レーベル契約第1号アーティストとして契約した彼らは、『ワード・ゲッツ・アラウンド』(Word Gets Around)(97年)でアルバム・デビュー。レディオヘッドなどの暗く自虐的な歌がチャートを占めていた中で、このカマーマンの日常を歌った、力強さに満ちたアルバムは、イギリス・チャートで最高6位まで登りつめる。年100本ものライヴをこなしながら、98年2月に発表されたブリット・アワードで最優秀新人賞を勝取った。更にこの年の6月には、カーディフ城でのスペシャル・ライヴを行い、1万人もの観客を集め、成功を収める。2作目『パフォーマンス・アンド・カクテルス』(Performance And Cocktails)(99年)は、UKチャートで堂々第1位を獲得。

 さらに翌2000年、イギリス夏の風物詩でもあるレディング・フェスティヴァルに出演。最低でも2万人と言われる観客の前で、最終日のトリを飾った。最後のアンコールでは同郷のスーパースター、トム・ジョーンズが舞台に登場。彼のヒット曲「ママ・トールド・ミー・ノット・トゥ・カム」を、ステレオフォニックスは一緒に歌った。

 この後、彼らは、ケリーの音楽ルーツでもあるブルースへと音楽性を転向した。3作目『ジャスト・イナフ・エデュケイション・パフォーム』(Just Enough Education Perform)(2001年)は、1位を獲得しながらも、リリースから1年以上もチャートに残りつづけるロング・セラーにもなった。2003年8月の時点で、34位というのだからすごい。『ユー・ガッタ・ゴー・ゼア・トゥ・カム・バック』(You Gotta Go There To Come Back)(2003年)も当然のように、1位を獲得。

 勢い留まるところを知らない彼らだったが、ツアー中の2003年9月にスチュアートが脱退。スチュアートによれば、ケリーとの対立がひどくなっていったことが原因とのこと。ケリーとリチャードの2人は、サポート・メンバーを迎えツアーを続けた。ここでステレオフォニックスの時代の一つが、完全に終わる。

 スチュアートの脱退後、ステレオフォニックスはアルゼンチン出身のハヴィエ・ウェイラー(Javier Weyler)をドラマーとして正式に迎え入れた。5作目『ランゲージ・セックス・ヴァイオレンス・アザー?』(Language. Sex. Violence. Other?)(2005年)は、ロンドンのスタジオを中心に制作され、2005年3月に発表された。

 アルバムに伴うツアーの後、2007年3月に、バンドのフロント・マンでもあるケリー・ジョーンズが突然ソロ・アルバムOnly The Names Have Been Changed(2007年)をリリースした(註:ダウンロード版は1月にリリース)。当のステレオフォニックスはというと、この年の4月にはスタジオに入り、次の作品Pull the Pinを制作。そして5月、アルバム収録曲から1曲"Bank Holiday Monday"が公式サイトからダウンロードのみのリリースとなった。シングルCDではなく、ダウンロードというところに時代の流れを感じなくもない。2007年5月20日には、カジノのアダム・ジンダーニ(Adam Zindani)がリード・ギタリストととしてツアーに加わることが正式に公表された。

 その『プル・ザ・ピン』は2007年10月10日にリリースされた。アルバム・デビュー10周年にして、6枚目となった本作は、本国UKチャートで1位を獲得した。またこれと前後して、ファースト・アルバムの代表曲「ローカル・ボーイ・イン・ザ・フォトグラフ」がQアワードで「クラシック・ソング部門」受賞と言う嬉しい報せが、舞い込んできた。10周年と言うけじめの年に、彼らステレオフォニックスが名実共に第1級のバンドとして認められたのである。

 そして2008年、ツアーメンバーだったアダム・ジンダーニが4人目のメンバーとして、正式にバンドに加入。ステレオフォニックスは4人編成となる。2009年暮れも押し迫った12月8日、本国イギリスで7枚目となるKeep Calm And Carry On(2009)をリリース。アダムの正式加入がもたらしたのか、『プル・ザ・ピン』のパワーを更に加速させたような力強いアルバムとなった。なお日本盤は年明け2010年1月末のリリースを予定している。更に彼らは2010年3月よりイギリス・ツアーを敢行。

 2012年9月24日、スチュアートの脱退後、バンドのリズムを支えてきたハヴィエ・ウェイラーが脱退。代りにジェイミー・モリソン(Jamie Morrison)がドラムの席に座ることになる。

 そして2013年3月4日、8作目となる『グラフィティ・オン・ザ・トレイン』(Graffiti on the Train;「列車の落書き」の意味)(2013年)が、自身のレーベルStyluxからリリースされる(日本盤は2月27日)。レコーディングそのものは2012年には終わっていたので、ドラムは全てハヴィエ・ウェイラーが叩いている。

 

(2013年)


 『グラフィティ・オン・ザ・トレイン』の楽曲は、楽曲のどれもがスタジオに入ってから完成したとのことだが、アイデアそのものはフロントマンのケリー・ジョーンズが書いた映画の台本The Poolに基づいている。ケリーは、隣人が夜中に列車にスプレーで落書きをしようとしたことにインスピレーションを受け、その台本を書き始める。ケリーは「毎朝その列車に乗る少女のために、彼らが愛のメッセージを書いていたらどうなる? そこからストーリーは展開していったんだ。そして音楽も生まれ、ひとつのものへとまとまっていったんだ」と語っている。今後のステレオフォニックスの動向を見据える上で、非常に興味深いアルバム製作過程だ。思えばデビュー作『ワード・ゲッツ・アラウンド』からして、ウェールズの寒村の様子からインスピレーションを得て楽曲が書かれてきたため、アルバムを聴いていると映像が浮かびやすかった。それがここに来てそれが映像と結実したということだろうか。



 2003年に脱退したスチュアートは、新しいバンド、キリング・フォー・カンパニー(Killing for Company)を結成。自らドラムを叩くが、何とそのデビュー・アルバムのリリースを控えた矢先の2010年6月7日5時30分に、アベルダレ(Aberdare)近くのスルドコイス(Llwydcoed)の自宅の床で死んでいるのが発見された。享年40歳だった。

 第一発見者は、当時のパートナーであるレイチェル・ジョーンズ。レイチェルは着の身着のまま通りに飛び出し、偶然通りかかったスチュアートの従兄にあたるアーロン・ケーブル(Aaron Cable)に出くわす。ふたりはスチュアートのもとに取って返し、心肺蘇生を試みる一方で救急車を呼ぶ。スチュアートは運ばれた病院で死亡が確認された。

 10月19日に行われた審問検死で明らかにされたところによると、死因は急性アルコール中毒による自らの吐瀉物を喉に詰まらせての窒息死だった。検死官によれば、スチュアートが接収したアルコールは、通常、飲酒運転と判断される規定値を5倍以上の量だった。具体的には規定値が100ml中80mgであるのに対し、407mgだった。

 証言台に立った捜査官によれば、死の3日前からスチュアートはまさに酒に溺れる状態だったという。地元のラグビー・クラブで歌ったり、BBCラジオ・ウェールズでの番組のホストを務めるなど仕事をこなす一方で、自宅や地元のパブthe Welsh Harpでウォッカ、ジャック・ダニエルなどの強い酒を飲む姿が目撃されている。また朝まで酒を飲み続け、結果として前妻との間にできた息子と会うチャンスを逃し、その足でパブに向かってもいたようだ。

 酒におぼれた原因は審問検死では明らかにされなかった。スチュアートの家族は、審問ののちに、「自分たちにとってスチュアートがどれくらい大切だったか、言葉にすることができない」との声明を発表している。

 ところでスチュアートが参加したステレオフォニックスのファースト・アルバム『ワード・ゲッツ・アラウンド』は、スチュアートやケリー、リチャードが育った村を歌っている。その中の1曲「ノット・アップ・トゥ・ユー」(「君のせいではない」)は、ケリーによれば、偶然バスから外れたタイヤが当たり、死んだ男のことを題材に取り、人の運命について歌っているという。

 印象的なのは、「もしもう一口やっていれば、靴をなくしていれば、何かミスをしていれば、髭そりの時に肌を切っていれば、もう少し長くキスをしていれば、その時、その場所に彼はいなかったはずなのに。でも誰にわかる? そう、俺のせいじゃない。君のせいじゃない。俺のせいでも、君のせいでもない」(One more sip, a shoe, a miss, a shaving nick, one extra kiss,/ Who's to know, whatever?/ Not up to me, not up to you/ Not up to me, not up to you)というフレーズだ。つまりケリーは、運命には逆らうことができないと歌う。スチュアートもそうだったのだろうか? もし1杯少なくしたら? もし酒よりもパートナーとのキスを選んだら? もし息子にあっていたら? スチュアートの命運は変わっていたかもしれない。しかし今、この世を去ってしまった彼にかけられる言葉は一つのように思える――“Not up to you”(君のせいじゃないよ)。R.I.P.





[アルバム]
Word Gets Around (97) (V2 music / V2CI 0001)
 ヴァージン・レーベルのカタログ番号第1号は、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』といい、世界的な成功が約束されているらしい。本作、南ウェールズの田舎から出てきた若者3人組のデビュー・アルバムは、UKチャートで堂々の6位を飾っている。このアルバムの特徴は、何と言っても、彼らの地元カマーマンを舞台にした様々な人間模様が、歌詞に描かれていることだろう。何でもすぐ噂話になる田舎特有の体質を「金魚鉢」(「ゴールドフィッシュ・ボウル」)に喩え、悪い噂が原因で職を追われたコーチ(「サウザンド・トゥリーズ」)、不安で眠れない男(「チェック・マイ・エイリッズ・フォー・ホールズ」)、列車に投身自殺した少年(「ローカル・ボーイ・イン・ザ・フォトグラフ」)などの人物を描くことで、次第にカマーマンという狭い村の閉鎖性が浮び上がってくる。一見すると暗くなりそうな内容だが、それを彼らは力強く、男っぽく歌い上げている。それは、他民族による長期にわたる支配と屈辱が作り上げたウェールズ人の気質である、反骨精神からくるものなのだろう。この姿は、メソジストの牧師たちの下、合唱に励んだウェールズの民――特に炭鉱夫――の姿に重なる。


performance and cocktails (99) (V2 music / V2CI 33)
 ステレオフォニックスの2作目にあたる本作は、基本的には前作の延長線上にある。前作での方法論を踏襲しながら、更に男性的な力強さに溢れる作品となっている。カマーマンの人々の言葉から採った「昨日は今日には明日なの?」(「イズ・イエスタデイ・トモウロウ・トゥデイ?」)や「待つために急げ」(「ハリー・アップ・アンド・ウエイト」)、「ガソリンを満タンにするために立ち止まった」(「アイ・ストップト・トゥ・フィル・マイ・カー・アップ」)のようにカマーマンでの出来事を描いた点は、前作と共通する。新局面は、アメリカ・ツアーでの経験を活かして書かれた「君のついた嘘の半分は真実ではない」(「ハーフ・ザ・ライズ・ユー・テル・エイント・トゥルー」)のように、ウェールズ外の世界を描いた歌詞にある。この二つの面がまとめられているのが、本作である。余談ながら、ベースのリズムにうねりが出て、アルバム全体を通じて前作以上にドライヴ感が溢れている。


Just Enough Education To Performe (2001) (V2 music / V2CI 100)
 いわゆる“ギター・ポップ”と呼ばれる音楽から、ブルース・ロックへと変貌を遂げたのが本作である。ケリーの音楽ルーツのひとつでもある、アメリカン・ブルースを大胆に取り入れ、ステレオフォニックスは音楽的な方向性をがらりと変えたのだ。1曲目のイントロから、ブルース・ギターが炸裂し、ケリーの図太い咆哮が響き渡る。2〜4曲目のように前作の面影を引きずっている部分も垣間見えるが、アルバムを通達するのは、ブルースである。これが好きか嫌いかで、アルバムの評価は分かれるかもしれない。だが、移り変わりの激しいUKチャートに、1年以上も入り続けたという事実は無視できないものだ。


You Gotta Go There To Come Back (2003) (V2 music / VVR1021902)
 連続するツアーの合間を縫うようにして、2年に渡って作られたアルバムだ。ここに収められた全13曲が、ケリーによって書かれ、プロデュースされている。それにしても、過ぎ去りし時を感傷的に歌う「アイ・ミス・ユー・ナウ」ですら力強く響くのは、やはり、彼らの持っているウェールズ性のなせる技か。アメリカン・ブルースを基調としながらも、そこからヒラエス(“hiraeth”)と呼ばれる、「憧憬」や「望郷」にも似たウェールズ人らしい感情が、ここには見え隠れする。それはジャケットに、幼い頃のケリー本人や家族の写真を配していることからも明らかだ。表題にある「お前は[ここに]帰ってくるためにそこに行かなければならない」とは、ウェールズを離れ、長いツアーに出ながら、前作でブルースという異国の地アメリカの音楽に自分たちの方向性を見出した、自分たちへ向けた言葉なのだろう。「そこ」に行ったケリーが、「ここ」に帰ってくる時、どんな音楽をもたらしてくれるのだろうか。そのような次作への期待に思いを馳せさせるアルバムである。

Language. Sex. Violence. Other? (2005) (V2 music / V2CP211-212)
 初のメンバー・チェンジを経て制作されたアルバム。本作制作にあたって、彼らは原点に立ち戻り、自分たちを見据えた。その結果、彼らが元来持っていた、トリオという少数先鋭のバンドならではのエネルギーの爆発が戻った。しかしながら彼らはウェールズに帰って来るどころか、このアルバムとともに逆により遠くに行ってしまった。確かに音は、2作目『パフォーマンス・アンド・カクテルス』に近い印象を受ける。1曲目のハードなツイン・ギターや、先行シングルの5曲目「ダコダ」の昂揚感、6曲目のアコースティックな透明感など、かつてを彷彿とさせる。しかし歌詞には、かなりの変化が感じられる。1作目、2作目で培った、彼らの故郷ウェールズの片田舎の生活の断片を、豊かな表現で描く手法はすっかり影をひそめた。代りに彼らは、簡素な言葉で全世界に向けたメッセージを歌う。南ウェールズの村という狭い世界を英語で歌ったのが、1作目だった。逆に世界的な市場を相手にしたのが、本作である。なお初回限定版は、「ダコダ」のプロモーション・ビデオなどを収録したDVD(約11分)つきだ。


Live from Dakota (2006) (V2 music / V2CP279-280)
 ステレオフォニックス初のフル・ライヴ・アルバムは、モノクロームのジャケットに包まれた。ファースト・アルバムの色彩豊かなジャケットとは対照的である。そのジャケットは、アルバムの音を象徴するかのようだ。それというのも、その音が、PAから直接とられたように生々しいのだ。ここに収録された曲には、一切、オーヴァー・ダブなどのスタジオでの作業がなされていない。スタジオ録音のような綺麗な音でリリースされる昨今のライヴ・アルバムが多い中で、珍しい。この生のままの音から発せられる彼らの熱いエネルギーを聴いていると、いつしか、裸のままの彼らをバック・ステージから盗み見ているような危険な感じに捕われてしまう。全20曲(日本盤のみ21曲)収録。

■Kelly Jones / Only The Names Have Been Changed (2007) (V2 music / VVR1046278)
 6枚目のアルバム製作中に零れ落ちた曲を中心に製作されたケリーのソロ・アルバムは、36時間で録音されたアコースティック・ギターによる弾き語りという意表をついたアルバムとなった。普段のエレキ・ギターをかき鳴らしながら歌う姿からは想像できないが、ここにはまぎれもない素のままのケリーの姿がある。ケリーはここで、10人の別々の女性の物語を、まるで映画の一場面のように語る。子供のために身を粉にして働く"Rosie"。家に帰る金がなく、自分の体を許す代わりにタクシーに乗せてもらう"Katie"。恋人(ケリー自身)をおいて出て行く"Jayne"。旅行の最中にホテルの従業員と寝ているところを夫に発見され、それが元で殺人事件がおこる"Emily"。その1篇1篇がどれも短いながら、味わい深い短編小説のようになっている。言葉や音は簡素ながら、ケリーの物語を語る才能が秀でていることを示す非常に良いアルバムだ。近い時期に出ているマニックスのジェームス・ディーン・ブラッドフィールドやニッキー・ワイアー、ウェールズではないがレイディオ・ヘッドのトム・ヨークのソロ・アルバムと比較してみると、90年代を最前線でイギリスの音楽を率いてきた男たちの音楽家としての本質が伺え、非常に興味深い。

Pull The Pin (2007) (V2 music / V2CP279-280)
 アルバム・デビュー10周年にして通産6枚目のアルバムは、ケリーの翳りのある声とメロディ、そして控えめながら存在感十分のギターが中心となる作品となった。『パフォーマンス・アンド・カクテルス』を髣髴させる「ソルジャース・メイク・グッド・ターゲッツ」、「ダコダ」を緩やかにしたような「イット・ミーンズ・ナッシング」、爽快感溢れる「バンク・ホリディ・マンディ」など、新旧のファンの両方を喜ばせるような構成になっている。ロンドンでのテロに影響を受けた「イット・ミーンズ〜」や、リヴァプールでの少年銃殺事件を扱った(日本ではほとんど報道されなかったが、イギリスではこの事件で一時気持ちきりだった)「デイジー・レーン」など、“イギリス”の労働者階級を扱った作品には眼を見張るものがある。また、内に秘めたエネルギーの大きさを感じさせる「レイディラック」には、感動すら覚える。イギリス・チャート1位を獲得。

Dedicated in The Sun (2008) (V2 music / V2CP279-280)
 デビュー10周年にして、意外にも初となるベスト盤。CD1枚の通常盤と、SHM-CD2枚にDVD1枚を加えたデラックス版の2形態でリリースされた。Disk-1には全アルバムから選曲されていることに加え、日本のアルバム未収録曲や新曲2曲も収録している。Disk-2にはシングルのみ収録曲も収録。中には『丘陵地帯』出身者として大先輩格の、トム・ジョーンズとのデュエットでレアな“Mama Told Me Not To Come”も顔をのぞかせており、この編集盤へのバンドの気合の入れようが知れる。DVDには全25曲のプロモーション・ビデオの他、ドキュメンタリー映像や、13曲もの希少な映像が目白押し。この13曲の中には、ノエル・ギャラガー(OASIS)やトム・ジョーンズ、ザ・フーとの共演、かなり初期の「ア・サウザンド・トゥリース」のライヴ映像やケリー・ジョーンズが監督したプロモーショナル・ビデオも含まれ、盛りだくさんの内容。ステレオフォニックスの世界に十二分に浸れること保障つきである(※レビューとジャケ写にはデラックス版を使用しています)。

Keep Calm and Carry On (2009) (Mercury Records / 2719775)
 7枚目となる本作は、リード・ギタリストのアダム・ジンダーニが正式加入して4人編成となった新生ステレオフォニックスの初のアルバムである。当のアダムはバンドに溶け込んでいる。強烈なギター・ソロを披露するでもなく、耳に残る印象的なリフで曲を先導することもなく、ひたすら、ステレオフォニックスの一部として機能している。このアダムとドラムのハヴィエ・ウェイラーの加入が、バンドにもたらしたのは力だ。それはアルバムのカヴァーにも現れている“潮”のような、うちに秘めた力だ。どの曲も弾け飛びそうな勢いを持ちながら、それを上手く制御している。結果的に、内側からの溢れんばかりの力を感じさせるアルバムに、仕上がっている。それにしても、彼らは遠くにいってしまったものだ。ここには『ワード・ゲッツ・アラウンド』(97年)時の、炭鉱閉鎖と閉鎖した村で、くすぶる若者の姿はない。あるのは、『ユー・ガッタ・ゴー・ゼア・トゥ・カム・バック』(2003年)から見られた、世界へと飛躍する視野である。その中で「写真の中の地元の少年」に似た感触の音をもつ“Could You Be The One?”は異色ながら出色の出来。

Graffiti on the Train (2013) (Stylus Records)
 このアルバムのためにレコーディングされたおよそ30曲の中から選ばれた、1曲目は、いきなりマイナー調で幕を開ける。だが聴き進むうちに、ドラマティックに盛り上がっていく。まるで映画のオープニングを、音で体現しているかのような錯覚を受ける。この展開にリスナーは心を鷲づかみされてしまう。続くタイトル曲もマイナー調ながら、壮大なストリングスを従えた佳曲。その後も非常にドラマチックな曲が続くが、ブルージーな8曲目でアルバムは転機を迎える。続く9曲目の不協和な音でリスナーの不安をあおり、ラスト10曲目で非常に落ち着いた、優しい曲を迎える。この曲にあるメッセージ「誰も完璧じゃないよ」(no-one's perfect;曲のタイトルにもなっている)が、心に刻まれるころ、ゆっくりとアルバムは幕を閉じる。アルバムの各曲がレベルが高いのだが、それ以上にこの展開が素晴らしい。

 



[リンク]
 stereophonics ... 公式サイト。英語。ディスコグラフィー、写真、メンバーの日記、バイオグラフィーなど公式サイトにしては充実している。目玉はビデオ。プロモやライヴ映像などが、無料で見られる。

 stereophonics ... NME(イギリスの有名音楽雑誌)によるサイト。ニュースやバイオグラフィーのほか、YouTubeで公開されているビデオへのリンクなどがある。

 stereophonics ... ultimateguitar.comによるステレオフォニックスのTAB譜リスト。

 Stereophonics - Flying Giraffe ... ファンによる英語サイト。目玉はギターのタブ譜があることだろうか。  ※残念ながらリンク切れとなっています(2009年5月現在)。
 Stereophotos ... ファンによる英語サイト。メンバーの膨大な量の写真を公開している。  ※残念ながらリンク切れとなっています(2009年5月現在)。
 Phonics Phorum! ... ファンによる英語サイト。掲示板によるファンのサイトか? 会員制なので、少々不明なところもあるが、Stereophotosのサイトの管理人のお気に入りでもある。

 stereophonics ... V2レーベルによる日本語公式サイト。
 is yesterday tomorrow today? ... ファンによる日本語サイト。ライヴ・レポやバック・ステージ・レポートがあるなど、内容はかなり充実している。特に、バック・ステージ・レポートはファンならば誰もが覗いてみたい場だけに、貴重では?! 筆者の素直な感動や喜びが、その文章から伝わってくる。 ※残念ながら2004年12月24日付でサイトを閉鎖されてしまいました。今までお疲れ様でした。
 have a nice day!!!!! ... ファンによる日本語サイト。何でも日本で最初のファン・サイトとか。『ワード・ゲット・アラウンド』の歌詞が美しい写真をバックに掲載されているが、ファンならではの歌詞訳を読んでみたい。 ※残念ながらリンク切れとなっています。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2010: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Danny O'Connor, Stereophonics - Just Enough Evidence to Print, (Virgin, 2001)




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