ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■マニック・ストリート・プリーチャーズ(Manic Street Preachers) 歌/英語
 熱狂的な街頭牧師たち――マニック・ストリート・プリーチャーズは、名実ともに、南ウェールズの象徴となった。時に悲壮感をも嗤い飛ばす力強さと、その悲しみを朗々と歌う姿は、支配者に完全に屈することなく、どのような苦境にあっても、反骨精神逞しく賛美歌を歌ってきた彼らの父祖たちの姿に重なる。
 彼らをを理解するにあたって、必要なキーワードは、メンバーの出身地である南ウェールズの廃鉱の町ブラックウッドだ。ここから連想される言葉は、炭鉱と炭鉱夫。そしてメソジストの牧師の劇的かつ熱狂的な説教、賛美歌の合唱。さらには英語を第1言語とするウェールズ人、廃鉱とストライキ、寂れた田舎の退屈な日々だろうか。そのどれもがマニックス――マニック・ストリート・プリーチャーズの愛称――の作品の背景となっている。

 マニックスは、ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド(James Dean Bradfield)(1969年2月21日生まれ)(Vo&G)、ニッキー・ワイアー(Nicky Wire)(B)(69年1月20日生まれ)、リッチー・ジェイムス(Richey James)(G)(66年12月22日生まれ)、ショーン・ムーア(Sean Moor)(Dr)(1970年7月30日生まれ)の4人で1988年、南ウェールズのブラックウッドで結成された。ブラッドフィールドとムーアは従兄同士であり、また、4人は同じ学校に通ったこともある幼馴染だった。炭鉱の町といえば、ウェールズらしさをも詠みこんだウェールズ語の賛美歌を、炭鉱夫らがメソジストの牧師の下、合唱する姿が思いつく。彼らの通った学校でも賛美歌の合唱に力を入れており、賛美歌は毎朝の日課であった。ブラッドフィールドは、このころから歌が上手かった。またリッチー・ジェイムスの家は、敬虔なメソジストだった。
 だが、彼らに影響を与えたのは、力強い炭鉱夫たちの姿だけではなかった。マーガレット・サッチャー首相の下、1984年に大幅な炭鉱閉鎖計画が始った。炭鉱夫たちは団結し、84年3月12日にストライキで対抗する。しかしこのストライキは翌年3月5日に終結する。炭鉱夫の完全敗北だった(拙著『ケルトを旅する52章』参照)。そして、南ウェールズだけで12の炭鉱が閉鎖された。彼らの住むブラックウッドも例外ではなかった。ブラックウッドは村全ての炭鉱を失った。即ち、炭鉱の村ブラックウッドは、炭鉱がひとつも存在しない村となった。
 この時の炭鉱夫の姿――ストライキで闘う姿と、敗北を受け入れた姿の両方――が、若い彼ら4人に強烈な印象を植えつけた。言ってみれば、トラウマとなった。自分の親たちが50代にして失業を経験し、これまでのキャリアを否定されたかのような事務職への転職を強いられる姿を多感な少年たちは目の当たりにした。自らも父のように強い炭鉱夫になるという夢も、失った。そして怒りの矛先は政治家へと向いた。現況に対して何もしない政治家には、怒りしか感じなかった。この南ウェールズを襲った失業の嵐とその顛末が、後にマニックスの音楽を生むこととなる。

 マニックスは89年に自主制作盤シングル「Sucide Alley」(2009年に出た2枚組み紙ジャケット仕様のリミテッド・エディションに収録)を地元ブラックウッドの自主制作レーベルSBSから出す。そして翌90年、4曲入りEP「New Art Riot」で正式にデビュー。
 翌91年には、早くも物議を醸し出し、世間から注目を集める。まずは91年2月に「30曲入り2枚組アルバムを作り、世界で1位になり解散する」(要約)と宣言。3月にリリースしたシングル「モータウン・ジャンク」では、「ジョン・レノンが死んだ時はあざわらってやった」と歌った。5月には、NME誌の記者による侮蔑に腹を立てたジェイムスが、その記者が見ている目の前で、自らの左腕にカミソリを使って「4 REAL」(“For Real”は「本気だ」と言う意味)と刻むという「4 REAL」事件を引き起こす(右写真)。

 まるで破れかぶれ。やることなすこと無茶苦茶だが、マニックスは常に「本気」だった。デビュー・アルバム『ジェネレーション・テロリスト』(Generation Terrorist)(92年)では、そのような彼らの時代に対する怒りや、現代ウェールズが抱える苦境などが、メロディアスな節を伴い、真向から力強く歌われている。

 『ジェネレーション・テロリスト』はUKチャートで最高13位に終った。しかしマニックスは解散することはなく、『ゴールド・アゲインスト・ザ・ソウル』(Gold Against The Soul)(93年)、『ホーリー・バイブル』(Holy Bible)(94年)をリリース。UKチャートでそれぞれ8位、6位と好成績を残したが、95年2月にジェイムスが突然、失踪する。

 泊まっていたロンドンのエンバシー・ホテルの部屋に、荷物一式と“I Love You”とのメモを残して、ジェイムスは消えた。カーディフのアパートに寄ったことは、その形跡から確認されている。愛車は、自殺の名所として地元で知られる、セヴァーン橋(Severn Bridge)近くで発見された。だが、その後の捜索も虚しく、消息は途絶えたままだった。一方で、死体も発見されていない。
 ジェイムスが行方不明になった後、残った3人(右写真)は、マニックスを存続させる。その後リリースされた、『エヴリシング・マスト・ゴー』(Everything Must Go)(96年)はUKチャートで2位に、マニックスのウェールズ性が強く現れた『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』(This Is My Truth Tell Me Yours)(98年)は1位に輝いた。この間、97年には、ブリット・アワードのベスト・アルバムとベスト・アーティストに彼らは選ばれた。その後、『ノウ・ユア・エネミー』(Know Your Enemy)(2001年)と傑作『ライフブラッド』(2004年)をリリースしている。その後、2005年4月、2年間の活動休止宣言をする。

 バンドは活動休止をしたが、メンバーの創造意欲は逆に小休止によって高まったようだ。2006年5月22日、フロント・マンであるジェームス・ディーン・ブラッドフィールドが、ソロ・デビューをマンチェスターでのライヴで飾った。7月10日には、シングル“That's No Way To Tell A Lie”が、そして7月24日には本国で初のソロ・アルバムとなる『ザ・グレート・ウエスタン』がリリースされた(日本盤は8月23日)。

 そして休む間もなく、2007年5月7日(日本盤は5月23日)にマニックスとしてのフル・アルバム『センド・アウェイ・ザ・タイガース』が届けられた。魂の遍歴を重ね、音楽を通じてアイデンティティを何度も問うた男たちがたどり着いたのは、自らの原点だった。――そう、現行マニックスの出発点となった『エヴリシング・マスト・ゴー』である。

 2007年の暮れに嬉しいニュースが届いた。ポップ・ファクトリー・ミュージック賞で、最優秀バンド賞を勝ち得たのである。数多くの功績を持つ彼らだが、ウェールズでの活躍が認められたのは他のどの賞よりも嬉しいことではないか。また2008年2月『NME』賞では、“Godlike Genius”賞(神のような才能賞)を受賞する。

 そして2008年11月23日、行方不明になってから13年後、リッチー・ジェイムスの失踪宣告がなされた。これによりリッチーの法的死亡が確定したことになる。両親は2002年に失踪宣告の手続きに入るように勧められた(イギリスでは失踪宣告を行うには、行方不明になってから最低7年間が必要である)。だが息子は新天地で新しい人生を歩んでいると信じ、勧めを断ってきた。ここにきて、一つのけじめをつけたということだろう。

 そして2009年6月に届けられたアルバム『ジャーナル・フォー・プレイグ・ラヴァーズ』は、この失踪宣告を悲しむファンに思いがけないプレゼントとなった。2008年11月に法的死亡が確定したリッチーが残した歌詞を、全曲に採用したのだ。幻となった『ホーリー・バイブル』続編だ(メンバー自ら本作をそう位置づけている)。そして本作からはシングルカットもツアーも行わなかったにも関わらず、全英3位というヒットを記録した。この作品の水準の高さをうかがわせる世間の反応である。

 さらにそれから1年後の6月末、“One Last Shot At Mass Communication”(マスコミでの最後の一枚)と題した一枚の写真が、マニックスの公式サイトで公開される。その写真では上半身裸の俳優(ティム・ロス)がポラロイドカメラをこちらに向けて構え、まさに1枚の写真を撮っている。これはまさに彼らが、スキャンダルとあらば何にでもカメラを向けるマスコミの前で赤裸々に自らの裸を曝し、逆に写真を撮るという図に読める。はたしてこれは、その後届けられる新作のプロローグだった。そして2010年9月22日、10作目となる『ポストカーズ・フロム・ア・ヤング・マン』が届けられた。そして彼らは9月29日よりイギリス・ツアーに出ている。

 そして2011年1月27日、マニックスは故郷ブラックウッドのBlackwood Miners Institute で凱旋コンサートを行った。実に故郷でのコンサートは、約25年ぶりのことである。ギグの始まりは、「モーターサイクル・エンプティネス」。炭鉱が潰され、産業ばかりか町の精気すらも奪われた寂れた町で、もてあます若き情熱をバイクに乗ることで紛らわしたことを謳った歌だ。実にこの凱旋コンサートに相応しい。
 またこのコンサートでは、彼らが一番最初に出したシングル「Sucide Alley」を披露した。実にこれは、この曲がリリースされてから始めて公衆の面前で演奏されたことになる。故郷への最高のプレゼントだろう。

 そして同年10月28日、シングル38曲を集めた『ナショナル・トレジャーズ』(National Treasures - The Complete Singles)(2011年)をリリース。イギリス・チャートで編集アルバムながら10位を記録する。

 その2011年12月17日、この『ナショナル・トレジャーズ』収録曲全曲を演奏したロンドン公演を皮切りにツアーに出る。このツアーではロンドン公演以外は、『ナショナル・トレジャーズ』から曲を選んでセット・リストが組まれたと伝えられている。

 そしてこのツアーは2012年5月17日、18日に、東京は新木場スタジオコーストにて最終日を迎える。ここでマニックスは同郷のグリフ・リースをサポート・アクトに向え、2夜に渡り、『ナショナル・トレジャーズ』全曲のみならずインディーズ時代のシングルなども披露。ツアーの最後を飾るのに相応しいライヴとなった。

 そして同年11月、デビュー・アルバム『ジェネレーション・テロリスト』リリース20周年を記念した、『ジェネレーション・テロリスト-20周年記念エディション-』(Generation Terrorist: Legacy Edition)と『(同)-20周年記念デラックス・エディション-』(Generation Terrorist: Deluxe Legacy Edition)がリリースされた(内容に関しては[アルバム(選)]を参照のこと)。そしてマニックスは、充電期間へと入った。

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■その音楽性とウェールズ性
 乱暴な分け方をすれば、マニックスの音楽は、やはり、ジェイムス失踪前と失踪後で二分できる。ジェイムスが失踪する前(『ザ・ホーリー・バイブル』まで)は、ギターが中心となるパンク・ロック然とした音だった。失踪後にあたる『エヴリシング・マスト・ゴー』以降は、キーボードやストリングスなども導入したポップ・ロックである。

 ジェイムス失踪以前は、良くも悪くも、彼がマニックスの退廃的な美学や思想の要となっていた。若者にありがちな行動だが、彼は故郷ウェールズのブラックウッドという村に唾を吐きかけ、その寂れた姿をパンク・ロックのビートで押し出しながら否定的に描いた。つまり古いものや伝統への反抗心を露にし、自分たちを退廃的な姿で彩り、その内にあるウェールズ性を隠すことで、初期マニックスの美学は生まれた。しかしそれは、図らずも現代ウェールズの問題や現状を鮮明に浮び上がらせたのである。

 対してジェイムス失踪後のマニックスは、ウェールズ性を強調する。彼らはジェームスとは逆に、自分たちを見つめ、自分たちのアイデンティティが何かを探す。そして彼らは自分たちの中に潜むウェールズ性を探求し、その結果、ウェールズ性を強く前面に打ち出すことになった。そのために彼らは、ウェールズ独自のものを様々な形で作品にちりばめる。例えば、「ア・デザイン・フォー・ライフ」のプロモーション・ビデオには、ディラン・トマスの詩「夏の少年」(‘I See The Boys Of Summer’)を使い、『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』のジャケットの内側には、R.S.トマスの詩「反射」(‘Reflections’)全文を引用するといった方法をとることで、彼らは自らのウェールズ性を強調したのだ。
 そしてこの時期から、彼らの音楽性が変る。キーボードやストリングスを効果的に使ったアレンジをするようになった。そのことは、初期には激しい音の間に埋もれがちだった、賛美歌に通ずるような美しいメロディを、明瞭に浮びあがらせた。

 こうしてマニックスはウェールズの新しいポピュラー・ミュージックが、外へと出て行くための突破口となった。良くも悪くも、英語を媒体としたことで――英語を第1言語とする彼らには選択の余地はなかったのだが――その音は、ウェールズの外へ、イギリスの外へと、羽ばたくことが出来たのである。
 決してその音が開放的だったわけではない。だが、あくまでもウェールズの内側を見つめつづけたダヴィズ・イワンらとは異なり、その瞳はウェールズを見つめると同時に外の世界へも向けられていた。そして続くカタトニア、スーパー・フューリー・アニマルズ、ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ、ステレオフォニックスなどとともに、マニックスはウェールズの音楽を外の世界へと発信している。



註・・・ ディラン・トマスは南ウェールズはスウオンジー出身の詩人/劇作家。R.S.トマスはウェールズへの愛国心溢れる牧師/詩人で、中部及び北ウェールズで創作活動に勤しんだ。両者ともウェールズを代表する詩人である。

[アルバム(選)]
Generation Terrorists (92) (Columbia / 4710602)
 過激な発言と行動で物議をかもし注目を集めた中、リリースされた本作の音は、しかしながら、過激さと必ずしも結びつかない。世間と若い自分たちの間に開いたギャップを歌い、政治を批難する方法論は、70年代末にロンドンのパンク・バンドが既に打ち立てている。しかし、彼らがまともに楽器を弾けず、また、音程を外してしか歌えないことで売っていたのに対して、マニックスは同様の怒りを音楽的に制御し、処理する。具体的にいえば、マニックスは過激で暴力的な歌詞を、メロディアスなメロディと力強いリズムに載せる。それは、「享楽都市の孤独」に明らかだ。ここでは、炭鉱の閉鎖とそれに対するストの失敗、何もしない政治家、炭鉱夫としての誇りを失った父たちと、何もない田舎の町でエネルギーをもてあます若い自分たちの世代が、賛美歌にも通じるような美しいメロディで歌われている。この曲は、マニックスの音楽に、父祖たちが歌い継いできた賛美歌が脈々と流れていることを証明する1曲でもある。

 さてこのデビュー・アルバムは発売から20周年を記念して、2012年11月(日本では同年の12月)に1CDの『ジェネレーション・テロリスト-20周年記念エディション-』(Generation Terrorist: Legacy Edition)と、2CD+1DVDという豪華『(同)-20周年記念デラックス・エディション-』(Generation Terrorist: Deluxe Legacy Edition)として再リリースされた。
 どちらもアルバム全体をリマスターし、ボーナス・トラックとして「テーマ・フロムM.A.S.H.(スイサイド・イズ・ペインレス)(映画『M.A.S.H.』の主題歌のカヴァー)をCD1に収録。さらに『(同)-20周年記念デラックス・エディション-』にのみ、ファースト・アルバムのほぼ全曲のデモ音源と、インディーズ時代のシングル曲3曲のデモ音源(!)と、やはりインディーズ時代にシングルとしてリリースした「モータウン・ジャンク」をCD2に収録。「モータウン・ジャンク」はこれまでにもCD化されてきたが、それ以外のデモ音源は初出。そのどれもがバンドという形で録音されている。音質は流石に一歩も二歩もスタジオ・アルバムに譲るが、特にインディーズ時代のデモ音源は、“インディーズならでは”のパンキッシュな音と勢いを封じ込めている。古くからのファンやマニアにとって、これほど嬉しいことはないだろう。
 やはり『(同)-20周年記念デラックス・エディション-』のみ収録のDVDは、このCD2以上の興奮を与えてくれる。この20周年記念盤のために作られた、アルバム製作の背景に迫るドキュメンタリー・ビデオ(各メンバーへのインタビューのみならず、当時、マニックスに関わった人々へのインタビューや、当時の映像を含む)、ニッキーの兄で詩人/劇作家のパトリック・ジョーンズも監修した2本のドキュメンタリーはファンならずとも観ていただきたい作品だ。また9本のミュージック・ビデオの他、BBC出演時の模様を7曲収録。ここまで収録するならば、BBCで98年9月に放送されたドキュメンタリーもつけてくれ、と言いたくなるが、それは『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』の20周年記念盤までオアズケということか。
Gold Against Soul (93) (Epic / ESCA 7719)
 前作『ジェネレーション・テロリスト』をチャートで1位に輝かせ解散する、というマニックスの宣言は果たされず、このアルバムの登場とともに惨めにも撤回された。「本気だ」("4(=FOR) REAL")と腕に刻み込んだ根性が本当なのか、それとも、単に成り行きでそこまでしてしまったのか。そのようなリスナーの疑問を無視するかのように、退廃的な詩を過激な音で包んだ「スリープフラワー」でこのアルバムは始る。ここにあるのは、前作で聴かせた世間を告発する姿勢ではなく、世間とのギャップに苦しみながら、自虐的に自らを汚し、貶める若者の姿である。前作のメロディアスさに通ずる「絶望の果て」(原題:「絶望から何処へ」“From Despair To Where”)「ローゼズ・イン・ザ・ホスピタル」もあるが、他者を強く非難しつつ、それが最終的に自己批判になる「ユアセルフ」や「犠牲者の叫び」の錆びたナイフのようなリズムがアルバムの中で際立つ。

The Holy Bible (94) (Epic / 4774212)
 『ジェネレーション・テロリスト』で打ち立てた「己と世間のギャップを描き出す」という方向性を、突き詰め尽くした感がある作品だ。それに伴うサウンドは堅く、先鋭的になる。言葉数は増す。だが、決してそのギャップは埋まらない。特に、ボタンの掛け違いからはじまったような、他者と自分との思想の相違は、どうしようもないところまで広がってしまった。自分が思い描く自分の姿と、世間から見た姿の乖離の間には、埋めようもないギャップが広がる。それを埋めようとと多くの言葉が費やされるが、逆に、世間と自分は互いに離れていく。「俺は開拓者。ヤツラは俺を原始的と呼ぶ。/俺は純粋だ。ヤツラは俺を性的倒錯者と呼ぶ」(「ファスター」)と叫んでみても、何の解決にもならない。絶望的な現状が描かれるが、それでも美しいメロディと、精神的な力強さに通ずるような強靭なリズムをマニックスが失わないのは、ウェールズ人のもつ反骨精神という民族性だろうか。なお、このアルバムの歌詞の8割をリッチーが担当。そしてリリースから約5ヵ月後に、そのリッチーは疾走した。

Everything Must Go (96) (Epic / 4839302)
 それまで思想の要であったリッチー・ジェイムスが去り、残された3人が出した結論は『ものみな全て過ぎ行かねばならぬ』だった。そして時間をかけ、自分たちを見つめなおした時、浮び上がってきたのは、純粋に美しい歌だった。賛美歌にも通ずるようなメロディで、しかしながら、マニックスは社会問題を糾弾し(「ア・デザイン・フォー・ライフ」)、そればかりか、自分たちのありのままの姿をタイトル曲で真摯に見つめる。この姿勢は次作で更に開花することになるが、アイデンティティの発見=ウェールズ性の認識が(6曲目「スモール・ブラック・フラワーズ〜」は、ウェルッシュ・ハープとギター、歌による非常に綺麗な小品である)、その後のマニックスの方向性を決定づけた。ありのままの自分の姿を見つめることは、容易いことではない。しかし残されたマニックス3人はそこから逃げることなく、問題に正面から対峙する。この精神的な強さこそが、ウェールズらしさ(Welshness)と呼ばれるものだ。アルバム全体にストリングスやキーボードの色が濃く出たことは、マニックスの方向転換を印象付けたのみならず、マニックスのもつ美しいメロディと力強い歌を、これまでにないほど明瞭に浮び上がらせる。

This Is My Truth Tell Me Yours (98) (Epic / 4917036)
 本作は、これまでにないほど、彼らのウェールズ性を打ち出したアルバムとなった。ジャケットの写真が撮影されたのは、ウェールズで最も人気があるといわれる賛美歌、「ハーレフの男たち」の舞台でもあるハーレフの浜辺だ。タイトルは、ウェールズの炭鉱閉鎖のために闘った政治家アナイリン・べヴァンの演説から採られた。ジャケットの内側には、ウェールズへの愛国心強い詩人R.S.トマスの詩「反射」(‘Reflections’)が全文引用された。更にマニックスは歌の中で、詩人ディラン・トマスをはじめ、様々な種類のウェールズ人を描いていく。その過程で彼らが掴んだ「真実」は、等身大の自分たちを描くことだった。それはすなわち、R.S.トマスの「反射」で詠われる、支配者の言葉である英語と、愛国心の象徴であるウェールズ語というふたつの言葉の間で「揺れる」ウェールズ人ならではの「アイデンティティ」を認めることだった。ここには、世間との乖離に悩む若者はいない。ウェールズ人としての確固たるアイデンティティを掴んだ、成長した男たちがいる。

Know Your Enemy (2001) (Epic / ESCA 8283)
 トータル的な印象が強い前作とは、対照的なアルバムである。全体的には一昔前の『ザ・ホーリー・バイブル』(94年)に戻ったかのような音だ。だが、その実、その中に太いリズムと対照的な悲しげなメロディが耳に残る、ジェイムスの今は亡き母親を悼む「オーシャン・スプレイ」があるなど、楽曲はかなりヴァラエティに富んでいる。前作で自らのウェールズ性を打ち出し、いわば「己自身を知れ」と自らを見つめたマニックスだが、ここでは『己の敵を知れ』と外の世界に目を向ける。そのきっかけとなったのは、やはり、99年の大晦日に行われた地元カーディフのミレニアム・スタジアムでの5万人を動員したコンサートで収めた成功だろう。この成功が、彼らに自信を与え、マニックスをアイデンティティーの模索という内向的な姿勢から、解き放ったのだ。1曲目の「ファウンド・ザット・ソウル」での、「俺はあの魂を見つけた」という連呼こそがその結果であり、彼らの自信に満ち溢れた勝利宣言のようにも聴こえてくる。リッチーがいた頃のかつてのマニックスと今のマニックスが最も異なるのは、この自信にうら打ちされた力強さである。

Forever Delayed (2002) (Epica / EICP 162-3)
 いわゆるベスト盤だが、UKチャートでは4位に輝く成績を収めている。この数字が語るとおり、この編集盤の内容は素晴らしい。彼らの代表曲と、人気の高い「ザ・マッシズ・アゲインスト・ザ・クラッセズ」を含むアルバム未収録曲4曲を、たった1枚のCDに収録。そのため、ともすれば消化不良になりそうなほど、マニックスの濃い世界が楽しめる。日本盤のライナー・ノートでは、ジェームス・ディーン・ブラッドフィールドとニッキー・ワイアーが各曲にコメントを寄せており、それだけでも読み応え十分。これ1枚でマニックスの大まかな軌跡が味わえる、お買い得なアルバムだ。なお日本盤のみ、マニックスの曲のリミックスを収録したCDが、標準装備となっている。

Lipstick Tracjs (2003) (Sony Music UK / 512386 2)
 前作『フォーエヴァー・ディレイド』に引き続いてリリースされた、こちらも編集版。ただし『フォーエヴァー・ディレイド』とは性格がかなり異なる。前作はマニックスの代表曲ばかりを集めたものだったが、それとは一転、こちらはシングルBサイド、未発表曲、カヴァー曲から編まれている。容量も多くCD2枚組みと、前作(標準は1CD)の倍だ。
 実は前作『フォーエヴァー・ディレイド』は、昔からのファンに不評を買った。それというのも前作は彼らの代表作ばかりであり、マニックスのマスコミに登場する一面しか捉えていなかったからだ。それに対し本作は、コアな曲を中心に収録。実にマニックスの懐奥深くに飛び込んだ作品集となった。結果、ファンからの本作に対する評価は、非常に高い。
 実際、アルバム未収録がもったいないと思える曲が、CD1には数多く並ぶ。中でも冒頭を飾る“Prologue To History”や前作のために録音されながらも未収録となった(!!)“4 Ever Delayed”は白眉の出来だ。さらには映画のために書かれながら未使用となったストレートなパンク“Judge Yr'self”、『ゴールド・アゲインスト・ザ・ソウル』の雰囲気を集約したような“Comfort Comes”と“Sculpture of Man”など聴きどころ多数。一方、CD2にはカヴァー曲ばかりを収録。黒人霊歌、ガンズ・アンド・ローゼス、ザ・クラッシュ、「雨にぬれても」に交じり、ファンにはお馴染み、ワム!の「ラスト・クリスマス」までもが収録されている。大満足の内容だ。

Lifeblood (2004) (Epica / EICP 435)
 2種類のベスト盤を挟み、リリースされた7枚目のスタジオ・アルバム。『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』(98年)の頃に戻ったようなその湿った音に、まず、驚かされる。6枚目となった『ノウ・ユア・エネミー』の暴力的な面は影をひそめ、内省的な暗さがまず耳をつくのだ。しかしその暗さの中に、彼らならではのメロディのよさと、力強さが巧に織り込まれている。そのためリスナーは、我知らずのうちにマニックスの世界に引きずりこまれていく。オープニング・タイトル「1985」が、そのものずばり1985年を指すとおり、このアルバムの核には彼らが育った80年代の音楽がある。しかし1985年と言えば、炭鉱閉鎖に反対したストライキが炭鉱夫側の敗北という形で終り、同時に炭鉱の町で育つ若きマニックスたちの価値観が音をたてて崩れた年でもある。しかしこの“1985”年なくして、マニックスは生まれなかった。価値観の崩壊と引き換えに、彼らは歌という自己表現の手段を見つけた。それは今思えば天命のようにすら思えてくる――「1985年それは予言された年の翌年/俺たちの闘いは失敗に終わり/・・・ /しかし自然の力ですら俺たちの言葉を封じ込めることは出来なかった」。
 ここには、十代の若き頃――すなわち80年代――を回顧するだけの大人はいない。自分たちの出発点を再確認することで、現在の自分たちを等身大の姿で表現しようとするアーティストの姿がある。故に80年代風の楽曲は全て、『エヴリシング・マスト・ゴー』(96年)以降に3人で培ってきたマニックスの音になっている。これが現在の嘘偽りないマニックスの姿である。前作よりタイトになったベースとドラムのリズムが、やもすれば涙を誘う悲哀物語りに流れそうになる曲を引き締め、ある種の緊張感が生まれているのも本作の特徴だろう。日本先行発売でボーナス・トラックつき。

■James Dean Bradfield / The Great Western (2006) (Sony BMG / 82876857272)
 ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド初のソロ・アルバムは、カーディフとロンドンを結ぶ路線を走る鉄道会社の名前からとられた。実際にこの列車に乗っている間(ヴァージンでないところがにくい)に大半が書かれたという歌詞は、かなり私的な内容である。それに対して、アルバムの音はマニックスの音そのものだ。具体的に言えば、リッチー・ジェイムス脱退以降のマニックスの音である。キーボードやドラムは他人の手に委ねているが、ギター、歌、ベースの全てを本人が手がけているために、リッチーなき後のマニックスを先導してきたのはブラッドフィールドだ、と断言したくなるかもしれない。しかしそれは早計だろう。むしろこのある種私小説的な内容のアルバムを作るには、マニックスの音が必要だったのかもしれない。リッチーなき後のマニックスの悲しげな音は、そのような音に向いているのだ。

■Nicky Wire / I Killed The Zeitgeist (2006) (Red Ink / ENOLALCD002)
 ブラッドフィールドのソロ・アルバムに続くようにして届けられたニッキー・ワイアーのソロ・アルバムは、非常にくぐもった音がする。ベース、ギター、歌を本人が手がけ、ドラムを叩くのはブラッドフィールドのソロ・アルバムと同じグレッグ・ハーヴァーである。しかしながら、こちらのほうが1人多重録音にありがちな風通しの悪さが感じられる。これは内容が悪いと言っているのではなく、音そのものが内省的だと言っているのだ。実際にここから出てくる音は、驚くほど80年代であり、また、素に近い。お気に入りの詩人であり、同郷ウェールズ出身の詩人R.S.トマス本人の朗読(テープ)を使用したり、フィード・バックを実験的に用いたりするなど、自分のやりたいことを素直に表現している。
 通常、マニックスではブラッドフィールドが曲を書き、ワイアーが詞を書いている。それに対して、このふたつのソロ・アルバムでは、私的な視線が詞に向いたのがブラッドフィールド、音に向いたのがワイアーというのは面白い。

Send Away the Tigers (2007) (Columbia / 88697075632)
 通算8作目にして全英2位。『エヴリシング・マスト・ゴー』(96年)以来、自らのアイデンティティを問いながら、様々な音楽を試してきたマニックスがたどり着いたのは、自らの原点であった。即ち力強いビートに、ハードなギター、そして、美しいメロディである。自分たちの創作の原動力に、若い頃憧れたセックス・ピストルズやクラッシュがあることを、彼らはここに来て認めた。『ディス・イズ・マイ〜』や『ライフブラッド』が自らの過去やウェールズを振り返ることで、民族的アイデンティティを掴んだ結果ならば、本作は自らの音楽的アイデンティティを再確認したアルバムと言っても良いだろう。そのため最近の作品の中では、最もロック・バンドらしいストレートなビートと、マニックスの本分たる賛美歌のように美しいメロディが同居している。歌詞内容もウェールズそのものよりは、アメリカの政策など世界政治に目が向いているところなどは、昔の面影か。6曲目では珍しく短いながら刺激的なギター・ソロが聴かれ、10曲目も珍しく合唱で始まる。シークレット・トラックのジョン・レノンのカバーには、思わずニヤリ、としたが。

Journal For Plague Lovers (2009) (Sony Music / 8869752058-2)
 全歌詞リッチー・ジェイムズ。つまり演奏は3人ながら(ゲストを除く)、曲の制作はオリジナル・メンバーの4人ということになる。だが本作はメンバー自ら『ホーリー・バイブル』の続編と位置づけるほど、マニックスにとって、そして、ファンにとって重要なアルバムなのである。
 リッチーが疾走してからの14年の歳月は、残った3人を変えた。それは『エヴリシング・マスト・ゴー』以降を聴けば、わかる。だがその期間を取り戻すように、マニックスはリッチーの詞から音を紡いだ。時にそれは『ホーリー・バイブル』の自傷にも似た激しい音となり(「ピールど・アップルス」「オール・イズ・ヴァニティ」)、時にそれは触れれば切れそうなアコースティック・ギターの音となる(「ディス・ジョーク・スポーツ・セヴァード」)。そのままであれば、『ホーリー・バイブル』譲りの閉塞感で窒息しそうになる。だが一方で、タイトル曲などポップなリフとメロディが鏤められており、そこに救いがある。“これがどれだけ孤独なのか気づくか?”と始まる「ドアーズ・クロージング・スロウリー」にはグッときた。なおデラックス版(下写真)は、ジャケットが見開き2ページに原詩(恐らくリッチーによるタイプ手稿)と、リッチーによる絵画を配した、1冊の詩集となっている。またボーナス・ディスクとして全収録曲のデモ音源(註:リッチーを除いた3人によるもの)収めたディスクがついている。シングルカットもツアーも行わなかったにも関わらず、全英3位を記録。



デラックス版
Postcards From a Young Man (2010) (Columbia / 88697741882)
 通産10作目のアルバムは、ゲストにイアン・マッカロク(エコー・アンド・ザ・バニーメン)、ダフ・マッケイガン(元ガンズ・アンド・ローゼス)やストリングスの他、ウェールズから御大ジョン・ケイルを迎えて制作された。実に、前作からわずか1年4カ月のインターヴァルである。彼らマニックスの創作意欲が、この歳になっても衰えていない証拠だろう。逆に隆盛しているのようにも感じる。ことによると、前作でリッチー時代のマニックスと完全に決別をつけたたせいかもしれない。
 本作は非常に明るい、エネルギッシュなアルバムだ。どこからでも、彼らの熱いエネルギーが迸ってくる。これを聴いて思ったのは、3人となったマニックスには、大きく分けて陰と陽二つのタイプの方向性があるということ。ひとつはリッチーとの最後の作となった『ホーリー・バイブル』を彷彿とさせる、音が胸に突き刺さるようなハードなもの。これが陰。前作はこれに当たる。もうひとつは流麗なメロディと迸るエネルギーが音を上へ上へと押し上げているもの。これが陽。本作は、この陽のタイプに当たる。

 なお本作には前作同様、デラックス版が存在する。ちょっとマニックスらしからぬ(失礼)渋い黄金のジャケットが贅沢な気分にさせてくれるが、内包された36ページのブックレットにはニッキー・ワイアーの作品が掲載されており、ここはいつもの彼ならではの“ちょっとひねた”ポップな世界が全開だ。
 ディスクは2枚組で、うち1枚には本作のデモ音源を収録。これが気合の入った音で、マニックスの創作力がますます上向きなのが肌で感じ取れる。ガイド的な録音は一切なく、どれもアルバム収録バージョンに引けを劣らないクォリティだ。1曲目や4曲目はデモ録音であることを伏せ、“アコースティック・ヴァージョン”と銘打ってシングル・カットされて誰も気づかないのではないか。それほどの出来である。好みにもよるだろうが、他にも「デモ音源のほうが良いのでは・・・ 」と思わせるテイクもある。



デラックス版(CD2枚組)

National Treasures - The Complete Singles (2011) (Columbia / 88697946162)
 南ウェールズの炭鉱跡地を利用した施設ビッグ・ピットに、女の子が佇む。まさにマニックスらしいジャケットを持つ本作は、マニックスのシングル38曲をリマスターし、2枚のディスクに収録。38曲は、1991年から2011年までの20年間のシングルのタイトル曲を収録。初期の「モータウン・ジャンク」から、本作の先行シングル“This Is The Day”まで含まれる。収録曲は年代順に収録されており、順番に聴くだけでマニックスの歴史を辿ることができる。その一方で全てのシングル曲が収録されているわけではないが(89年の「Sucide Alley」などが未収録なのは残念!)、ここに収録された曲はどれもが代表曲とって言ってもいいくらいの曲。したがって十分、マニックスの魅力を堪能できる。

 これにはDVD1枚をつけたデラックス・ヴァージョンが存在する。全41曲(うち3曲はボーナス・トラック)、2時間半を超えるプロモーショナル・ビデオを収録したこのDVDは貴重。プロモーショナル・ビデオはこれまでもDVD『Foerver Delayed』(2003年)などでその一部を見ることができた。だがここではLifeblood (2004)以降のビデオも収録されている。極初期から現在までマニックスの歴史を、映像でたどれるのが何とも嬉しい。
 マニックスのビデオは、単なる曲の紹介ではない。彼らの思想が反映されている。そのため何気なくかけていても、思わず見入ってしまう。そんな魅力がある。その映像は彼らの美意識を反映するように、どれもが美しく、そして斬新でもある。また80年代の、いわゆるMTV全盛期に作られたストーリ主体(時にそれは曲とは関係のない映像だった)のビデオとは異なり、その映像はどれも曲と関連性がある。特に注目したいのは、カットバック的に挿入される実際の映像と言葉の数々だ。メンバーの昔の映像から、「デザイン・フォー・ライフ」で一瞬挿入されるグレート・ストライキ時のニュース映像は、曲の理解を助けるのみならず、私たちにその曲が持つ背景へ触れることを許してくれる。また挿入される言葉は時に挑発的であり、時に暗示的でもあるが、何よりも曲のメッセージを具体化し、曲の世界を深めてくれる。これら映像なしには、マニックスの曲は成立し得ないと思えるほど。
 マニックスをこれから聴いてみようという方には通常盤を、少しでもファンならばこちらのデラックス版を強くお薦めする。



デラックス版(CD2+DVD1枚)


■"Your Love Alone Is Not Enough" (2007) (Columbia / 88697075612)
■"Autumnsong" (2007) (Columbia / 88697118292)
■"Indian Summer" (2007) (Columbia / 88697159322)

 上記3枚は、8枚目『センド・アウェイ・ザ・タイガース』からのシングル・カットである。通常このサイトでは、シングルは扱わないが、アルバム未収録曲が多いため掲げておく。このアルバム未収録曲だけを集めても、1枚のアルバムが完成しそうなほどだ。
 いずれも2曲入りCDシングル、マキシCDシングル、7インチ盤、デジタル・ダウンロードの種別で販売されている。ジャケ写はどれも上がCD1(2曲入りCDシングル)だ。それぞれ収録曲が異なり、マニアには嬉しい反面、財布と相談せねばならない場面も出てくるかもしれない。

 "Your Love Alone Is Not Enough"は最初のシングル・カット。カーディガンズのニーナ・パーソンをゲストに迎えている。2曲入りCDシングルのBサイド"Boxes & Lists"、マキシCDシングルの"Welcome to the Dead Zone"、"Little Girl Lost"、7インチ盤の"Fearless Punk Ballad"はアルバム未収録。この"Fearless Punk Ballad"は、オーケストラを従えながらも壮大に歌うブラッドフィールドと、フィードバックを続けるエレキ・ギターが前面に出た曲。なぜ7インチ盤のみの収録なのか、首をかしげるほどの傑作である。"Boxes & Lists"も疾走感溢れる、中々出来のよい曲だ。短いギター・ソロも良い。マキシCDシングルに収録された"Love Letter to the Future"は日本盤『センド〜』のボーナス・トラックになった。デジタル・ダウンロードではこの他、"Your Love 〜"のアコースティック版を配信している。

 "Autumnsong"は夏真っ盛りの7月のリリース。2曲入りシングルのBサイド"Red Sleeping Beauty"、マキシ・シングルの"Morning Comrades"、"The Long Goodbye"、"1404"、7インチ盤の"The Vorticists"はアルバム未収録曲。"Red Sleeping Beauty"は手数の多いドラムをバックに、どこまでも盛り上がっていく曲構成だ。マキシ・シングル収録の"Morning Comrades"は、日本盤のボーナス・トラックとして収録された。だがこれ以外の2曲が興味深い。"The Long Goodbye"は、ニッキー・ワイアーがリード・ヴォーカルを務める。バンドとしては珍しい。"1404"は久々にウェールズらしさを出した曲だ。歌詞はイングランドによるウェールズ併合以来、唯一成功したオーエン・グリンダーによる反乱を描いたものだ。そう、タイトルの"1404"は、グリンダー蜂起の年である。

 "Indian Summer"は10月のリリース。2008年1月時点で最後のシングル・カットである。2曲入りシングルには"Anorexic Rodin"が、マキシ・シングルには"Heyday of the Blood"、"Foggy Eyes"、"Lady Lazarus"、7インチ盤には"You Know It's Going to Hurt"が収録されている。"Anorexic Rodin"はマニックスらしい、力強さを内に秘めた曲。ヴォーカルの伸びも良いし、緩急メリハリのある展開も素晴らしい。"Heyday of the Blood"は激しく掻き鳴らされるアコースティック・ギターと、力強いリズム隊が疾走する。中々の快作である。"Lady Lazarus"はニッキー・ワイアーがヴォーカルをとっている。2006年に行われたロンドンでのソロ・パフォーマンスより収録。

 ※註:カタログ番号はいずれもマキシ・シングルのもの。この番号から10を引いた数が2曲入りシングルの番号となる。




[リンク]
 Manic Street Preachers : The Official Website ... 公式英語サイト。曲の視聴ができるばかりか、オフィシャル・サイトにしては珍しくファン・サイトへのリンクが張られている。
 Secret Society ... ニッキー・ワイアーの公式ソロ・サイト。英語サイトである。
 Black Garden ... ファンによる英語サイト。ここも充実している。特に、「ザ・マニックス百科」(The Manics Encycropaedia)の充実振りは一見の価値あり。
 manics.rawkstar.net ... ファンによる英語サイト。論評へのリンクなど内容は充実している。だが、このサイトの最大の売り物はギター・タブだろう。

 skybeautiful.net ... ファンによる英語サイト。歌詞全掲載や言葉の意味の説明など充実している。中でも圧巻なのはマニックスの写真で、条件検索もできる。 ※残念ながらリンク切れとなっています。
 manicsonline.com ... ファンによる英語サイト。ここも充実しているが、2005年9月以来更新をしないことを決定。 ※残念ながらリンク切れとなっています。

 Manic Street Preachers / Artist Information ... ソニー・ミュージックによる日本語公式サイト。
 Useless Divison ... ファンによる日本語サイト。内容は簡潔にして、的を得ている。 ※残念ながらリンク切れとなっています。
  CHERRY BLOSSOM TREE ... ファンによる日本語サイト。作りが美しいばかりか、内容も期待を裏切らないほど充実している。

※マニックスのサイトは非常に多く存在します。その一部にリンクを張らせていただきました。



ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2013: Yoshifum! Nagata




主要参考文献
Mick Middles,MANIC STREET PREACHERS, (Omnibus Press, 1999)
Simon Price, Everything (A Book About Manic Street Preachers), (Virgin, 1999)




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