ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■マン・ウィズアウト・カントリー(Man Without Country) 歌/英語
 ウェールズのことわざに、「言葉なき国、心なき国」(A nation without a language a nation without a heart)がある。これはもちろん、ウェールズ語とウェールズ国のことについて語ったものだ。独自言語を失った国には、その文化の中心たる心がない。まさにその通り。

 そして今、「国持たぬ人」と自らを呼ぶデュオが、南ウェールズから現れた。マン・ウィズアウト・カントリーがまさしくそれだ。実際、彼らはこのバンド名の意味を問われて、「どこにも属さない感覚」(a sense of not belonging)と答えている。なるほど言語という観点から見れば、南ウェールズの多くの場所は「言葉なき国、心なき国」に近い状態かもしれない。それに加えて、彼らマン・ウィズアウト・カントリーの音楽は、これまでのメジャーなウェールズ・ポピュラー・ミュージックのどこにも属さないものだ。彼らの音楽は、エレクトロ・ポップと呼ばれるコンピューターをふんだんに使用したものだ。具体的にはエレクトロニカと呼ばれる、アンビエントな音と、ポップス/ロックの要素をあわせた音だ。

 メンバーはライアン・ジェームズ(Ryan James)とトマス・グリーンハーフ(Tomas Greenhalf)のふたり。2000年代後半、彼らはグラモーガン大学で知り合い、意気投合。一緒に音楽活動をすることになるが――実に彼らは多くの時間を、別々に作業をしてすごした。曲のアイデアをインターネットを使って交換し、楽曲を練り上げていったのである。こうして出来上がった最初の曲が、"Victory Stance"だった。

 そして最終的に出来上がった楽曲の数々を、トマスの部屋でエディット。それをシガー・ロスの『Takk』の共同プロデュースなどで知られる、ケン・トーマスがミキシング。そしてマン・ウィズアウト・カントリーのデビュー・アルバムとなるFoe(2012年)が完成。2012年6月5日に、このアルバムはリリースされ、瞬く間に注目を集める。

 その後、ライアンとトマスのふたりは、マイク・モナガン(Mike Monaghan)をステージでのドラマーとして迎え、ライブ活動を始める。2012年にはイギリス本土はもとより、ドイツでも演奏している。あけて2013年2月25日に、早くも他のアーティストのリミックス曲集をリリース。そしてこの2月から3月には、なんとアメリカ・ツアーを敢行。留まるところを知らぬ勢いのマン・ウィズアウト・カントリーの今後に、注目せずにいられない。。





[アルバム(選)]
Foe (2012) (Lost Balloon / Cooperative / LB010)
 南ウェールズ発エレクトロ・ポップ・デュオのファースト・アルバム。タイトル曲で幕を開けるこのアルバムは、その冒頭からダークなアンビエントと、ネガティヴな歌が席巻し、一瞬にして周囲の空気感を変えてしまう。しかしながらアルバムを聴き進めていくと気づかされるのが、そのリズムと全体のバランスの良さである。確かに歌はネガティヴかもしれない。だがその周りを囲む音が、時に明るく、時に繊細に響く。4曲目のミニマルなピアノのフレーズなど、その良い例だ。この両者のバランスが非常に良く、一度聴けば、またかけたくなる中毒性をもっている。非常に良質なアルバムだ。





[リンク]
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ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2013: Yoshifum! Nagata








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