ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ジョン・ケイル(John Cale) 歌/英語
 ロック・ファンならば、彼がウェールズ出身のことは知らずとも、彼の名前を忘れることはないだろう。彼がニューヨークのアンダーグラウンドで作り出したノイズ・ミュージックが、その後の音楽に与えた影響は、計り知れないものだ。

 ベース、ビオラ、ギター、鍵盤楽器をこなし、また、作曲家やプロデューサーとしても活躍するジョン・ケイルは、1942年3月9日、南ウェールズのアマン谷(Amman Valley)にあるガーナント(Garnant)で生まれた。ウェールズ語を第1言語とし、炭鉱夫の父と教師の母の間で育った。

 子供の頃からジョンは、ピアノとヴィオラで、その音楽才能の片鱗を見せた。ロンドン大学で音楽を学ぶ一方で、前衛音楽や電子音楽へと深い興味を持ち、たちまち、その世界へと巻き込まれていく。1963年にアメリカに渡ったジョンは、翌年、ニューヨークでルー・リードと出会い、リードらとヴェルヴェット・アンダーグラウンドを結成。画家アンディ・ウォーホールのの強い勧めにより、ニコをリード・ヴォーカルに迎えた彼らは、ウォーホールのプロデュースで処女アルバムをリリース。68年に2枚目のアルバム『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』をリリース後、ジョンはヴェルヴェット・アンダーグラウンドを脱退する。

 ソロに転向した彼は、ミュージシャン、プロデューサーそして作曲家として、その才能をいかんなく発揮する。プロデュースを行ったアルバムの中には、ザ・ストージズやパティ・スミスの名も含まれる。

 ケイルは74年にイギリスに戻るが、この時を境に、これまで以上にその音楽の幅を広げてゆく。80年代には、いわゆる現代音楽と呼ばれる領域までその手を伸ばした。ウェールズ関連の作品で、重要なものと言えば、ウェールズ出身の詩人、ディラン・トマスの詩に曲をつけた、『ワーズ・フォー・ザ・ダイング』(Words For The Dying)(92年)と、映画Beautiful Mistake(2000年;日本未公開)があげられるだろう。

 Baeutiful Mistakeは、ウェールズ生まれの若手バンドとジョンの共同作業を、ドキュメンタリー映像として収録したものだ。監督はマーク・エヴァンス(Mark Evans)で、出演バンドはカタトニア、スーパーフューリー・アニマルズ、テュスティオン、ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ、ファーンヒルなど、今をときめくミュージシャンばかり。DVDやサウンドトラックCDも製作される予定だったが、制作されずじまいだった。現在の南ウェールズにおける音楽シーンを映像でとらえた貴重なものだけに、残念でならない。




[アルバム(選)]
Words For The Dying (92) (All Saints Records / ASCD09)
 旧友、ブライアン・イーノによってプロデュースされた本作は、89年に完成した「フォークランド組曲」と、「言葉のない歌」2曲、「ソウル・オブ・カーメン・ミランダ」からなる。組曲は、南ウェールズはスウオンジー出身の詩人であるディラン・トマスの4編の詩を歌にした曲と、序曲、2曲の間奏曲で構成される。演奏はソ連(現ロシア)のオーケストラ、合唱は南ウェールズのスランダフ大聖堂合唱学校合唱団で、歌はジョン・ケイル自身である。かなり壮大なイメージが展開され、ディラン・トマス自身が残した詩の朗読にある暗さとは無縁である。トマスの詩の中でも、わかりやすい詩が選ばれているせいもあるのだろうが、彼のケルト的な暗さがないのは残念だ。組曲の最後を飾る「こんな素敵な夜には」は、トマスの死を悼んだイゴール・ストラヴィンスキーが歌曲にしているので、比較しても面白いだろう。なおこの曲の原題は、“Do Not Go Gentle Into That Good Night”であり、癌の手術以来、7年近く慢性的な痛みに必至に耐える父に対して、「もう十分苦しんだのだから、紳士的に振舞うことはないよ。泣き叫んで良いんだよ」と言葉をかける詩である。「おやすみをいう夜まで紳士的に振舞うことはないよ」が、訳としては妥当ではないか。「言葉のない歌」2曲は、ケイル自身によるピアノの演奏で、残る1曲が、ブライアン・イーノを迎えた演奏だ。




[リンク]
 John Cale 'HoboSapiens ... ジョン・ケイルの公式サイト。
 John Cale: Beautiful Mistake ... 映画 Beautiful Mistakeのサイト。

 Fear Is A Man's Best Friend - John Cale ... ファン・サイト(英語)。これが個人で作られているのか、と思うほどの膨大なる内容を誇る。ブートレッグを含む完璧なディスコグラフィーは、このサイトのほんの一部でしかない。この他には、ライヴ・ニュース、インタビュー、写真、歌詞などがある。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003: Yoshifum! Nagata








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