ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ(Gorky's Zygotic Mynci)
 歌/英語&ウェールズ語

 “変わり者”として語られるゴーキーズ・ザイゴティック・マンキの音は、一言で言えば、玩具箱をひっくり返したような音だ。彼らは自分たちにとって新しいものを次々と取り入れ、自分たちの音楽に反映してゆく。それは、中心人物であるユーロス・チャイルズ(Euro Childs)の「60年代以降のすべての音楽に影響を受けている」(『ストレンジ・デイズ』第6号)との発言からも、明らかだ。そして、彼らの音楽性は常に変化し、それがゴーキーズ・ザイゴティック・マンキの魅力となっている。

 ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキは、昨今では珍しく、サイケデリック・バンドとしてその姿を現した。最初の頃のゴーキーズ・ザイゴティック・マンキの音は、南ウェールズの丘の陽だまりで、のんびりとドラッグ(もちろん、ナチュラル・ドラッグだろう)をキメているような雰囲気だ。92年にこの音なのだから、さぞかしヒッピーなおじさんの集まりだろうと想像するかもしれない。だが、この時、バンドの中心メンバーのエイロス・チャールズ(Euros Childs)ら3人は、未だ16、7歳という若さだった。

 ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキは、91年に15歳の少年によって結成された。その3人――ユーロス・チャイルズ(Vo&Keys)、リチャード・ジェイムズ(Richard James)(B)、ジョン・ローレンス(John Lawrence)(G)――に、ユーロス・ローランズ(Euros Rowlands)(Dr)と、ユーロス・チャイルズの姉であるミーガン・チャイルズ(Megan Childs)(Vln)が加わり、バンドが完成した。バンド名はジョンが命名した。“Gorkey”は動詞“gork”(まじまじと見る)の変形で、ザイゴティックは彼らが通っていた学校の先生の名前、そして、“Mynci”は“monkey”から思いついた造語である。しかし、特に意味はないらしい。

 Ankstレーベルから『パティオ』(Patio)(レコードが92年、CDは95年)、『タタイ』(Tatay)(94年)、『ブード・タイム』(Bwyd Time)(95年)の3枚のアルバムをリリースする。『タタイ』がジョン・ケイルに絶賛され、そして『ブード・タイム』がインディーズのチャートで1位になる。このアルバムがリリースされた95年には、初の来日公演を行っている。
 ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキはレーベルをフォンタナに移し、『バラファンデル』(Barafundle)(97年)と『津波〜ゴーキーズ5』(Gorkey 5)(98年)をリリース。ここでは初期のサイケ感覚は薄れ、牧歌的な面すら覗かせる。更にベガーズ・バンケットへと、またもやレーベルを移した彼らは、『スパニッシュ・ダンス・トゥループ』(Spanish Dance Troupe)(99年)、『ハウ・アイ・ロング・トゥ・フィール・ザット・サマー・イン・マイ・ハート』(How I Long To Feel That Summer In My Heart)(2001年)をリリース。この2枚のアルバムの間には、ジョンが脱退し、また、ミニ・アルバム『ザ・ブルー・ツリーズ』(The Blue Trees)(2000年)もリリースしている。

 このベガーズ・バンケット・レーベルで落ち着くかと思いきや、今度はサンクチュアリへとレーベルを移す。そのサンクチュアリからは『スリープ/ホリデイ 』(Sleep / Holyday)(2003年8月)と、シングル“Mow the Lawn”(2003年9月)をリリースした。9月には短いながらも、イギリス・ツアーを敢行している。

 以後、あまり情報の伝わって来なかったゴーキーズ・ザイゴティック・マンキだが、2006年5月26日、解散が報じられた。



 なお、メンバーのリチャード・ジェイムスは、カーディフを拠点に活躍するアンディ・フュング(Andy Fung)らと録音した初のソロ・アルバムThe Seven Sleepers Den(2006年4月)を、2006年4月にリリースしている。またユーロス・チャイルドも積極的にライヴ活動を行っている。今後の彼らの動向が、注目されるところだ。



[アルバム(選)]
20 (Singles & EP's '94-'96) (2003) (Sanctuary Records / 06076 81283-2)
 2枚目のアルバムをジョン・ケイルによって絶賛されたことで知られる彼らだが、その実、彼らの音楽はヴェルヴェットのそれには近くない。むしろ近いのは、同じブリテン島で生まれたカンタベリー・ミュージック、特に、初期ソフト・マシーンとその周辺だ。11曲目に収められたケヴィン・エアーズのカヴァーにもそれは明らかだが、何よりも、初期ソフト・マシーンやエアーズ、そしてロバート・ワイアット(註:エアーズとワイアットはともにソフト・マシーンの創立メンバー)的な暖かい和音や、サイケ感覚がそこらかしこから滲み出ている。彼らの音楽を独自に解釈したアマチュアが実に楽しげに演奏している、と言えば、この音の雰囲気は伝わるだろうか? これがヴェルヴェットやシド・バレットが健在だったころのピンク・フロイドの音と違うのは、ゴーキーズがアコースティック楽器を多用し、そのため、音から土の香りがするためだろう。ただ、そればかりではないことが、最後の「20」のミニマル・ミュージック的な展開に見出せる。なお、本作は初期シングルやEPを集めた編集盤だ。既に彼らの歌詞が、英語とウェールズ語のちゃんぽんであることが確認できる。

Bwyd Time (95) (Ankst / 059)
 このアルバムを聴いたと途端に、映画『ツイン・タウン』に出てきた、丘の上でラリってしまうオヤジの姿が目に浮かんできた。昼日向、南ウェールズの緑の丘の上で寝転がり、マジック・マッシュルームでもキメれば、このような音楽が出来上がるのだろうか。ここでの音楽性を一言で言えば、牧歌的で捻れたポップスとサイケ・ミュージックの共存だろう。このふたつの音楽が仲良く交配しているのが、このアルバムであり、それ故に、“変”な楽曲が並びながらもアルバムに統一感がある。なお、このアルバムはジョン・ケイルが絶賛したことで知られる。だが、彼らの音楽に見え隠れするのは、ケヴィン・エアーズやキャラバンら70年代の初期カンタベリー・ミュージックだ。内ジャケットの牧羊的なウェールズの風景を眺めながら聴くのが、お勧め。

Gorkey 5 (98) (Fontana/ 558 882-2)
 確かに、初期のカンタベリー・ミュージックの雰囲気は失われた。しかし、“変さ”加減は、健在である。その“変態”ぶりは、彼らの貪欲な音楽吸収力が生んでいるのだろう。ここに収録された全曲どれもが演奏時間が3〜4分台でありながら、一筋縄では行かない展開をする。例えば、1曲目。このイントロや楽器による間奏部は、明らかにロック調だが、歌の部分はウェールズ民謡らしき響きを出す。この緩急が瞬時に入れ替わる曲構成は、この時期の彼らの得意とするところらしく、随所に現れている。牧歌的な響きのする6曲目ですら、テンポは変らないものの、ウェールズ民謡とハワイアンが溶け込んでいるのだから、彼らの想像力に限界はないようだ。この収集雑多性が、ゴーキーズの魅力となっている。余談ながら、10曲目のピアノはピンク・フロイドの「ザ・トライアル」を思わせ、思わず、にやりとしてしまう。

Spanish Dance Troupe (99) (beggars banquet / MNTCD 1015)
 やりたい放題のアルバムだ。1曲目冒頭でまともと思わせつつ、次第に、細かい音で神経を緩やかに撫でる。2曲目や11曲目は、同郷のスーパー・フューリー・アニマルズ以上の暴れぶりだ。かと思えば、3-6曲目では大人しい展開を見せる。タイトル曲の10曲目では、馬が突然駆け去って行くし。3,4分の曲と、1分台の短めの曲が交互に入り乱れ、アルバム全体は目まぐるしく変化する。それでいて、全15曲37分20秒。まるで、子供の玩具箱のようだ。最後の3曲だけが、唯一まともな展開を見せる。だが、ここまで無茶をやってくれると、逆にこれでは物足りない。

The Blue Trees (2000) (beggars banquet / TKCB-72045)
 全8曲入りのミニ・アルバム。アコースティック楽器が、ここでは中心になっている。前作、前々作で聞かせた人の意表をつく展開は健在だが、そのどれもが驚くほど大人しい。1曲目中ほどでは、ミニマル・ミュージック的なピアノが飛び出すが、強く訴えることなく、曲に吸収されてしまう。フォーキーで、カントリー調な空気が、アルバム全体に流れている。





[リンク]
 Gorkys.com ... 公式英語サイト。
 Mewn - The Gorky's Home Page ... ファンによる英語サイト。一瞬、オフィシャル・サイトかと勘違いしてしまうほど美しく、充実している。
 Gorky Dispenser ... ファンによる英語サイト。情報量は膨大である。
 Peanut Dispenser! ... ファンによる英語サイト。情報量は膨大である。特に日本では見られない写真や少量ながらギターのコード譜は興味を引くだろうし、何と言っても、ウェールズ語の歌詞を英語に訳してあるのが嬉しい。

 ankstmusik ... ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキが、最初の3枚のアルバムを出したウェールズのレコード会社。オン・ライン・ショッピング可能。


 Richard James ... 元メンバーのリチャード・ジェイムスの公式英語サイト。

 Euros Childs ... 元メンバーのユーロス・チャイルズの公式英語サイト。ニュース、日記、ギグ・リストなどがある。曲のダウンロードも可能だ。





ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2006: Yoshifum! Nagata








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