ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ゴールディ・ルッキン・チェイン(Goldie Lookin Chain) 歌/英語
 南ウェールズのクラブ文化熟成を象徴するように現れたのが、ゴールディ・ルッキン・チェイン(以下GLC)である。ハウス/ブレイク・ビーツ・ファンには混同しやすい名前だが、彼らはあのゴールディとは全く関係がない、Pザイン(P Xain)を中心としたヒップ・ホップ集団だ。

 GLCは、Pザインを中心とした、総勢8名にもおよぶラッパーのバンドである。しかしメンバーはそれぞれいくつかの変名をもち、また、結成のいきさつも定かではない。加えて、サポート・メンバーが14、5人もいる。その素性は、まるで煙にまかれるように、不確定なのである。そのためGLCは、常にどこかミスティカルな雰囲気と怪しさをもっている。
 8名にもおよぶ人数は、モーニング娘。のウェールズ版ラップ・バンドを想像させるが、その実、かなりの実力はである。それは6枚にもおよぶ自主制作のMP3ファイルやCD-Rが、次第次第に彼らの人気を集め、それがメジャー契約に結びついたことからも明らかである。
 “Don't Blame The Chain”を始めとしたCD-Rを数枚制作する中で、“Chain's Addiction”と“The Return of the Red Eye”が人々の注目を集めた。徐々にではあるが、確実にファンを獲得していったGLCは、2003年6月に初のツアーに出る。翌年2月のニューポートでのライヴが、彼らの人気を確かなものとした。
 GLCはこの年の3月にEast/ Westレーベルと契約を結び、最初のシングルCDとなる“Half Man Half Machine / Self Suicide”をリリース。8月にはシングル“Guns Don't Kill People, Rappers Do”でイギリス・チャートの3位を飾り、9月にはその名も『GREASTEST HITS』 (2004年)なるファースト・アルバムをリリースした。アルバムはイギリス・チャートで最高5位を記録する。

 彼らは、南ウェールズのニューポートを活動の基盤としている。初期のステレオフォニックスの曲が彼らの生まれ育った村カマーマンを描いていたように、歌の内容はニューポートと密接な関係をもつ。歌詞には隠語や、例えばニューポートのタクシー会社の名前(Dragon Taxis)のような、地元の人のみ通ずるような言葉が交じる。この言葉使いが、彼らの独自性を作り出しているのだが、そこからは南ウェールズの現代の姿が、即ち、寂れた町にたむろう若者の姿が浮び上がる。

 2005年1月2005年1月22日、カーディフはミレニム・スタジアムでスマトラ沖地震での被害者を支援する目的で開かれたチャリティー・コンサート(Tsunami Relief Concert)では、エリック・クラプトンやマニック・ストリート・プリーチャーズに交じり、堂々出演している。そして2月5〜6日に東京と大阪で同時開催される〈SONIC MANIA 05〉への出演。初の来日公演を果たす。

 そして3月に発表されたBBCウェールズの2004年ウェールズ音楽賞でシングル“Guns Don't Kill People, Rappers Do”が最優秀シングル賞を勝取ったばかりか、本人達はダンス最優秀賞に輝いた。まさに飛ぶ鳥を落す勢いである。その勢いにのって、2005年9月には、2枚目のアルバムSafe As F**k(2005年)をリリースした。ファースト・アルバムほどではなかったが、このアルバムもイギリス・チャート最高15位と中々の健闘を見せる。


Tsunami Relief Concert出演時の模様


 だが転機は突然、訪れる。2006年3月にGLCがメジャー・レーベルから手を引いたことが公表される。同時にGLCは自身のレーベルGold Dust Recordsを設立したことを発表。3枚目となるアルバムUnder The Counter (2008年)は2008年になってようやくリリースされた。これは2004年から2006年に作られた曲を集めたもので、限定版だった。

 もともとメンバーが多いことで知られるGLCだが、そのうちの一人、Zedong(別名P Xain/Zardoz)がこの2008年、突如、選挙に打って出た。その結果、本名のリース・フッチングス(Rhys Hutchings)の名でニューポート労働党議員として登庁することになる。


左下がリース・フッチングス労働党議員!

 そしてオリジナル・アルバムとしては4枚目となるASBO4Life (2009年)は2009年3月にリリースされた。これにリミックス・アルバムThe Mix Tape Two(2010年)、クリスマス・アルバムIt's a Goldie Lookin Christmas(2010年)が続く。





[アルバム(選)]
greastest hits (2004) (Warner Music UK Ltd / 5050467-4880-2-1)
 全体を通じて、ミドル・テンポの曲ばかりだ。しかしこのテンポが、何とも南ウェールズの気だるげで、寂れたニューポートという町の空気を、思い起こさせる。ニューヨークのダウン・タウンで若いギャングスターの鬱憤のはけ口として育まれ、そこから不良のスターを生み出したラップだが、若者の失業率が高いここ南ウェールズでは、様子が異なる。ミドル・テンポにのったGLCのラップは、仕事も気力もなく、ただ日がな一日町をぶらつき、たむろう若者の姿を、浮び上がらせる。その際たるものが特にかつてGLCへの注目を集めることとなった“self sucide”で、その陽気ながら、気だるげなリズムは、映画『ツイン・タウン』の気だるげな風景に通ずるところがある。ラップでありながら、決して過激ではない。むしろ、不景気な町の淀んだ空気を収録した、まさに現代の南ウェールズの一面を描いたアルバムである。なお、“Guns Don't Kill People, Rappers Do”など代表曲はほとんど網羅されている。8曲目“your mother's got a penis”には、YMOのカヴァー曲のサンプルあり。




[リンク]
 YOU KNOWS IT ... GLCの公式英語サイト。mp3やビデオもある。

 She's Got Spies ... スーパー・フューリー・アニマルズ、ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキを中心に、ライヴの写真を掲載している英語サイト。GLCの写真もある。

 このアーティストに関するウェブ・サイトの情報をお待ちしております。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2004-2012: Yoshifum! Nagata








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