ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ポーラ・ガーディナー(Paula Gardiner) ダブル・ベース、フルート
 近年、ウェールズのポップスがその独自のスタイルのために、世界的に注目されているものの、ジャズは未だに日陰に追いやられているところがあるようだ。特にウェールズ=歌の国という図式が出来上がってしまっているためか、インスト・バンドは紹介されることが少ない。しかしながら、ブレコン・ジャズ・フェスティヴァルは世界的に有名だし、バリー・サマー・ジャズ・スクール(現グラモーガン・サマー・スクール)はフリー・ジャズでその名を馳せるキース・ティペットを排出した事でも知られる。同様に首都カーディフを中心とした南ウェールズでは、粘り強く活動を続けている、ウェールズ生まれのジャズ・ミュージシャンがいる。ポーラ・ガーディナーは、そのような一人だ。

 ポーラ・ガードナーの音楽キャリアーの出発点は、クラシック・ギタリストだった。彼女は短大ではギターとフルートを学び、短大在学中から、多くのウェールズ人劇団の作曲及び音楽監督を務めるようになる。そして88年にダブル・ベースを手にし、グラモーガン・サマー・スクールで学ぶ。以来彼女は、ダブル・ベースを主に演奏するようになる。

 92年には自身の曲を演奏するために、ジャズ・カルテットを編成。このカルテットは、世界的に有名なブレコン・ジャズ・フェスティヴァルなどに、定期的に出演するようになる。96年にはこのカルテットで、Tales of Inclinationをリリースした。それと前後して彼女自身の作曲家としての名も幅広く知られるようになり、委託作品も受けるようになる。“In Pursuit of Venus”(95年)はそのうちのひとつである。

 その名が知れ渡るようになると同時に、次第に彼女はウェールズ語音楽のシーンに、巻き込まれるようになった。自身のバンドと平行しセッション活動を繰り返しているうちに、ブリン・ヴォン(Bryn Fon)やイウークス(Iwacs)のレギュラー・メンバーとして迎えられるようになっている。また少し前だが、シアン・ジェイムスのBirdmanにも参加している。

 2004年4月にカーディフで結成されたジャズ・バンド、デイヴ・ステイプルトン・クインテット(Dave Stapleton Quintet)に、ポーラはダブル・ベースで参加。現代音楽やフリー・インプロヴィゼイションに影響を受けたという、デイヴ・ステイプルトンの曲を演奏するというこのバンドのデビューCDは、2005年の5月に予定されている。


   註・・・ グラモーガン大学で毎年行われている成人学校。語学、ヨガ、写真、絵画、音楽、ジャズなどのコースがある。ジャズのコースはバリー・サマー・スクール(Barry Summer School)として始まって以来30年以上も続いており、数多くのジャズ・ミュージシャンが巣立ったことでも知られる。詳細はこちらの公式ホーム・ページにて。
 Glamorgan Summer School


[アルバム(選)]
Tales of Inclination (95) (Sain / SCCD 2103)
 ポーラ自身の言葉を借りれば、このアルバムは「ウェールズで音楽家として働き、そして、生きている私(=ポーラ)の人生を反映したもの」である。また曲は、そこに住む人々と自然の風景からインスピレーションを得て、自分なりの解釈を施したものだそうだ。例えば1曲目“Do Not Go Gentle”はディラン・トマスの同名の詩につけた曲だが(ここでは器楽曲として演奏されている)、これに付随する“No Ghosts”はブレコン・ビーコンを夜に車で走った時に受けた印象から、生まれている。またタイトル曲“Tales of Inclination”は、ウェールズの丘の持つ「上流階級のような上品さ」と「獣のような無慈悲さ」という両極的な二面性を現しているという。それゆえか、ソフト・ジャズのジャンルに分けられるであろう本作には、どこかウェールズの自然が持つ非情さがある。

■Bryn Fon / dyddiau di - gymar (94) (Sain / Crai 044N)
 ブリン・ヴォンの秀作dyddiau di - gymarに、ポーラはベースで参加。音数を抑え、腰を据えた演奏で、曲に安定感を与えている。決して目立たぬが、ツボを押さえた彼女の演奏は、同時に、ブリンの声をより一層引き立たせる。なおアルバムは全曲ウェールズ語で歌われている。





[リンク]
 Paula Gardiner Music ... 公式英語サイト。

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ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2004-2005: Yoshifum! Nagata








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