ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■フューネラル・フォー・ア・フレンド(Funeral for a Friend) 歌/英語
 一昔前ならばその音は、「様式美へヴィ・メタル」と形容されたことだろう。アクの強い、昨今のウェールズ・ポップスの中では、極めてストレートなエモ・コア・バンドの登場である。

 バンドは、ジャニュアリー・サースト(January Thirst)と呼ばれるバンドを母体として、2002年に結成された。このジャニュアリー・サーストが2001年12月に解散し、その後残ったメンバーが2002年1月に結成したのが、フューネラル・フォー・ア・フレンド(以下、FFAFと略)なのである。「ある友人の葬式」とは、お世辞にも縁起の良いバンド名とはいえないが、彼らはこの名前を、アメリカはフロリダのハードコア・バンドであるプレーンズ・ミステイクン・フォー・スタース(Planes Mistaken For Stars)の同名曲から、採用した。

 結成時のメンバーは全員、南ウェールズの出身である。バンドはマット・ディヴィース(Matt Davies)(Vo)(79年10月14日生まれ)、ギャレス・デイヴィース(Gareth Davies)(B)(80年9月17日生まれ)、ダラン・スミス(Darren Smith)(G)(75年9月18日生まれ)、ライアン・リチャーズ(Ryan Richards)(Dr)(80年1月16日生まれ)、クリス・ロバーツ(Kris Richards)(G)(81年5月18日生まれ)のクインテットだ。2002年8月12日、バンド結成から数ヵ月後に録音された4曲入りシングル「ビトウィーン・オーダー・アンド・モデル」(“Between Order And Model”)(註:2005年10月に日本盤がリリース)をスウォンジーのマイティ・アトム・レコード(Mighty Atom Records)からリリース。同時にライヴ活動にも彼らは力を注ぎ、アンダーグラウンド・シーンながら、ボーイズ・セッツ・ファイアなどのバンドとのツアーで急速に名をあげる。ほどなくして、彼らはツアーのメイン・アクトを飾るようになり、初のイギリス・ツアーを完売させるまでに成長する。

 翌2003年4月21日、2枚目となる4曲入りシングル“Four Ways To Scream Your Name”をリリース。これがきっかけとなり、パンク・バンドの映像を撮り続けてきたダーレン・ドーン監督が、収録曲の“This Year's Most Open Heartbreak”のプロモーション・ビデオを作ることになる。このビデオ・クリップはMTV2などでかけられ、また、数多くのラジオ局がFFAFの曲をこぞってかけ始めたのである。

 3枚目のシングル“Juneau”は同年7月28日にリリース。イギリス最大のへヴィ・メタル専門誌Kerang!主催の賞で、最優秀新人賞を獲得した。これは、ファースト・アルバム・リリース以前であるという点において、異例のことだ。そして2003年10月13日、待望のファースト・アルバム『カジュアリー・ドレスド&ディープ・イン・カンヴァセーション』(casually dressed & deep in conversation) (2003)がリリースされた。このアルバムは、チャート初登場で12位を飾る。

 FFAFはその後、アイアン・メイデンのツアーのオープニング・アクトを務め、次いでNMEアワード・ツアーをイギリスで敢行する。そして年が明けて2004年2月20日に行われた、2003年度BBCウェールズ音楽賞授賞式で最優秀新人賞と最優秀アルバム賞(『カジュアリー・〜』)の2冠を制し、その直後の3月には初来日を果たした。待望のセカンド・アルバムは、2005年6月に『アワーズ』(Hours)として結実した。

 『アワーズ』からカットされたシングルはいくつかあるが、その中で“History”(2005年11月14日)は稀有な作品だ。これには通常のスタジオ録音盤の他、公式サイトからダウンロードのみで入手できる特別版が用意された。これは、南ウェールズのスラッスネリ男性合唱団とのライヴにおける共演である。そしてそのジャケットには、現代ウェールズを知るものならば誰もが驚く写真が選ばれた――それは1984年から85年のグレート・ストライキを暗示する写真だったのである。確かに、歌詞からはその曖昧さゆえにこれが炭鉱閉鎖に言及したものだとは断言しづらい。しかしプロモーショナル・ビデオを観れば、この歌がグレート・ストライキの悲劇を歌ったものであることは明らかだ(クリップの最後に「ウェールズとイギリスの炭鉱コミュニティと彼らの1984-85年の英雄的な奮闘に捧げる」とクレジットされている)。いわゆる「ウェールズらしさ」とは無縁だと思っていたが、彼らフューネラル・フォー・ア・フレンドも、マニック・ストリート・プリーチャーズやステレオフォニックスと同じ、炭鉱閉鎖後の南ウェールズの子供だったのである。

 85年の炭鉱閉鎖と南ウェールズの炭鉱閉鎖が引き起こしたコミュニティの崩壊は、他民族が考える以上に、南ウェールズの人々にとって大きく、根が深い問題なのだ。


2005年


シングル“History”


 その後、2007年には『テイルズ・ドント・テル・ゼムセルヴズ』(Tales Don't Tell Themselves)(2007)をリリース。アルバムは最高2位を記録する。アルバム・リリースに伴う長いワールド・ツアーを敢行した後、2008年1月にそれまでのアトランティック・レーベルを離れ、フューネラル・フォー・ア・フレンドは自身のジョイン・アス・レーベルを立ち上げることを表明。その自身のレーベルから、2008年10月に4枚目となる『メモリー・アンド・ヒューマニティ』(Memory and Humanity)(2008)がリリースされた。

 2009年には初のベスト盤となる『ユア・ヒストリー・イズ・マイン』(Your History Is Mine: 2002-2009)をリリース。そこに収録された新曲4曲は、実に躍動感にあふれていた。2010年12月にはダウンロードのみのEP“The Young And Defenceless”をリリース。そして新作が待望される中、2011年に、5枚目となる『ウエルカム・ホーム・アルマゲドン』(Welcome Home Armageddon! )がリリースされた。実にこのアルバムは、バンド全体がまさにオーヴァードライヴしながら疾走する姿をスタジオ録音とは思えないほど、見事にとらえている。ここではメンバー全員が溢れんばかりのエネルギーを放出し、そのエネルギーが衝突しながらも、その衝突からさらに大きなエネルギーを生み出していく。それほど躍動感にあふれているのだ。ジャケットはコミニカルだが、そこからは想像できないほどエネルギッシュで激しい音をこのアルバムは内包している。この音は、彼らが持っていた初期のエネルギーが、創造性豊かに弾け出した結果のように思える。

 そして同年5月、初の南米ツアーを敢行後、10月にはイギリス・ツアーを行っている。

 だが2012年5月22日、ドラムとスクリームを担当していたライアン・リチャーズが「人生において常に音楽を第一においてきたが、今、家族を一番に置く時が来たんだ」と、フューネラル・フォー・ア・フレンド脱退を表明。その後任として、パット・ラインディ(dr)が加わる。パットはセットリストをたった7日間で覚えたという。この後、バンドは2012年のほとんどを新作の作曲とリハーサル、そしてレコーディングに費やした。

 明けて2013年1月28日、イギリスで6枚目のスタジオ・アルバムとなる『コンディット』(Conduit)(2013年)をリリース。この週に本作は、イギリスチャート36位を記録。同作のアメリカのリリースは、2月5日となる。





[アルバム(選)]
Between Order and Model (2002) (Zestone Records / ZTCY-1001)
 マイティ・アトム・レコードから2002年にリリースされた本作4曲入りシングルCDが、3年越しで日本盤としてリリースされた。アルバム未収録ながらライヴでは必ず演奏されるという「10:45 amsterdam conversations」をはじめ、どの曲からも灰色の雲が垂れ込める陰鬱な南ウェールズの空の下、鬱屈した若いエネルギーがはじける様が生々しく伝わってくる。後にこの中から2曲が新たにスタジオで録音され、ファースト・アルバムに収録されている。両者を較べれば、こちらは演奏や編曲などかなり荒削りで、音も良いとはいいがたい。しかし、その勢いとメロディの美しさは唯一無二だ。特にファースト・アルバム収録曲「ジュナウ」の原曲「Juno」における、メロディに絡む叫び声は冒頭から、ほとんど叫びつづけており、どちらが主役だかわからないほどの活躍をみせる。また一方でメロディの暗さと美しさは、ウェールズの賛美歌に通ずるようだ。南ウェールズのスウォンジーのスタジオで録音されたということもあってか、最もウェールズらしさを感じさせる。

casually dressed & deep in conversation (2003) (Infectious Records / WPCR-11798)
 一連のハード・コア・バンドのように、轟音を奏でるばかりでないのが、彼らの人気の秘密だろう。疾走感のある3曲目「ジュナウ」の中ほどで聞かせる一瞬の静けさの後に、一息にクライマックスへ向う曲作りなどは憎いばかりだ。続く4曲目の静かなオープニングから、突然一丸となり走り出す様子は、定番と言えば定番だが、この音の塊から美しいメロディが立ち上ると一瞬にして聴き入ってしまう。アルバム全12曲中(註:日本盤はボーナス・トラック2曲が追加され、全14曲だ)最も印象的なのが、7曲目「モーメンツ・フォーエヴァー・フェイディド」だ。歌の美しいメロディもさることながら、一度聴いたら忘れられないようなギターのリフと、8ビートの両手とは対照的に16ビートで刻むバス・ドラムの演奏は白眉の出来である。また曲中程に繰り返される図太い叫び声は、非常に刺激的だ。この繰り返しが過度になる一歩手前で終っており、そのバランス感覚は若いながら見事だ。

 ファースト・アルバムを最初聴いた時は、これまでのウェールズ音楽との関連性が希薄のように感じられた。事実、彼ら自身も自分たちの音楽を、トム・ジョーンズとも、男声合唱団とも違う新しい音楽であると強調している。しかしながら、1曲の中で最低1回は突如登場する、前後の流れとはかけ離れた数小節のリフ挿入は、全く音楽性は異なるが、スーパー・フューリー・アニマルズを思い出させる。やはりウェールズの土地が持つ呪縛からは離れられないということなのだろうか。リズムに緩急が出てきたら、間違いなく世界規模でヒットをするバンドである。


HOURS (2005) (Atrantic / WPCR-12062)
 FFAFのセカンド・アルバムは、リンプ・ビズキットらへヴィネス・バンドのプロデュースで知られる、テリー・デイトをプロデューサーとして迎え、制作された。選ばれたスタジオは、ワシントン州シアトルだ。これらの事実からもわかるように、彼らは既に2枚目のアルバムにして、ウェールズという枠を、ひいてはイギリスという枠を、飛び出してしまった。ステレオフォニックスのケリーの言う、「外に飛び出すウェールズのバンド」をまさに体現しているのである。それと同時に、1枚目『カジュアリー〜』のあったアクの強さというものがなくなってしまった。前作で良いアクセントだったスクリームも、影をひそめている。どちらかと言えば、ヘヴィなサウンドが好きなものならば、誰でも好むようなサウンドへと変性しているのだ。言ってみれば、強烈な個性と引き換えに、大衆性に磨きがかかったのである。その中で、イギリスでのこのアルバムからのファースト・シングルで失踪感溢れる「ストリートカー」、やや退廃的な詞とヘヴィな(一部キング・クリムゾンを彷彿させる!)ギターをぶつけた「ローゼズ・フォー・ザ・デッド」や「モンスターズ」は秀逸な出来である。


Tales Don't Tell Themselves (2007) (Atrantic / WPCR-12641)
 冒頭からヒーリング・ミュージック風のストリングスとコーラスが飛び出て、驚かされる。叩きつけるようなハードな音は一歩後退し(曲によってはその面影すら見られない)、メロディアスな部分が強調され、AOR風の作風が続く。スクリームもすっかりと影を潜め、「ワン・フォー・ザ・ロード」などではコーラスと化している。中でももっともこれまでと異なるのは、曲作りにコンセプトとそのコンセプトが醸し出すスケールの大きさを前面にもってきたことだ。2部構成の「オール・ハンズ・オン・デック」などはその良い例だ。へヴィさや疾走感とは無縁の壮大なスケールを楽しめる。もともとFFAFは、ジェネシスやラッシュといったいわゆるプログレを好んでいたというが、それにしても大胆な路線変更である。「アウト・オブ・リーチ」のみこれまでの路線を髣髴させるが、それもそのはず、この曲だけはアルバム製作に入る前に作曲・録音されている。


Memory and Humanity (2008) (Atrantic / WPCR-12641)
 再び方向転換。よりへヴィで、それでいて、よりメロディアスになっている。ギターの歪んだ低音をいかした、重厚なリフは前作を忘れさせるほどメタリック。それをバックアップする、というよりは、そこに突っこんでくるベースとドラムのリズム隊のエネルギーは計り知れないほど大きなものを感じる。そこに載るヴォーカルが、時にスクリームも交えたへヴィさと、メロディアスさの両端を自在に行き来する。言ってみれば、過酷で荒んだ世界に一瞬垣間見える希望の光か。アルバム全体の魅力をまとめれば、そうなるだろう。ファーストよりへヴィ。何よりもメロディアス。これが本作だ。中でも南ウェールズの『丘陵地帯』で育つことについて歌った「きっキング・アンド・スクリーミング」、「最も個人的な曲」(ライアン)という「ビルディング」、激しいリフの応酬とメロディアスなヴォーカルの組み合わせにゾクゾクする「ウォーターフロント・ダンス・クラブ」は出色の出来栄えだ。


Your History Is Mine: 2002-2009 (2009) (Roadrunner Records / RRCY-29193/4)
 ベスト盤。曲はインディーズ時代の代表曲「10:45 amsterdam conversations」(音源もインディーズ時代のものから)にはじまり、『テイルズ・ドント・テル・ゼムセルヴズ』(2007)までほぼ均等に選ばれているが、これが一筋縄ではいかない。いわゆる売れ線の曲ではなく、スクリーム中心の選曲になっているのだ。従ってハードなFFAFを十二分に楽しむことができる。新曲が4曲収録されているが、これが前々作の路線を踏んでおらず、原点回帰とも言うべきハードかつメロディアスな音を展開している。これからの活動に、更なる期待が持てるというものだ。なおCD1枚の通常盤の他に、本国UKではアルバム未収録曲やU2の「ブラディ・サンデー」のカヴァーを収録した2枚組の版が出された。一方で日本盤はCD+DVDという編成になっている。このDVDにはこれまで中々見られなかった彼らのプロモーショナル・ビデオが全19曲収録されている。どちらを購入するか、迷うところだ(結局、両方買うのだろうが・・・ )。


Welcome Home Armageddon! (2011) (Roadrunner Records / RRCY-21391)
 ウェールズで録音・制作された本アルバムは、静寂なギターのアルペジオで幕を開ける。その静寂を破るのは、2曲目の力強いギターと、激しく叩きつけながらも疾走するドラムだ。あまりの展開のすごさに目を見張っているうちに、その音の間からギターによる美しいメロディが浮上する。その曲もわずか2分半ほどで終わり、続く3曲目の緊張したドラムのカウントとともに、スクリームが展開されるが、それをヴォーカルの美しいメロディが引き継ぎ、いつしかスクリームと美しいメロディが交互に奏でられていく。このドラマティックな展開に、心を奪われないものがいるだろうか? バンドが原初に持っていた力強さと、これまでに培ってきた美しいメロディとドラマティックな展開が、完全に調和している。またこのアルバムの魅力のひとつは、この「声」(もしくは歌唱法)の使い分けにある。それは5曲目のツーバスが醸し出すスピードと、ヴォーカル&コーラスの美しいメロディ、そしてそれら全てを外へと追いやる唯一無二のスクリームに健在だ。またスクリームで始まる11曲目は、これとは逆にヴォーカルとコーラスがまさに“叫び”を受け止める。すなわち、このアルバムにはふたつの方向が存在する。ひとつは、美しいメロディをスクリームが暴力的に破る方向。もうひとつはその荒んだスクリームを、美しいメロディが受け止める方向。このふたつが交錯することで、唯一無二の世界が誕生する。これを傑作と呼ばずして、何と呼ぼう? 私は聴いていて、心底、このアルバムのすごさに震えた。


Conduit (2013) (Distiller Records / B00A9YBV1E)
 全11曲。収録時間は30分を切る。贅肉という贅肉を落とした、ある種、ストイックな曲ばかりがここに並ぶ。前作を凝縮し、更にハードな面を引き出したかのようだ。ドラマーの交代により、リズムがより荒々しくなった一方で(このドラムの手数、足数の多さは特筆モノ!)、前任のライアンが得意としたスクリームの不在を強く感じる(11曲目のみ、脱退したこのライアンのスクリームが聴かれるが、これはご愛嬌といったところだ)。おかげで前作に聴かれた、破綻するスクリームとヴォーカルの美メロの危ういまでの魅力的な絡みが全くない。代わりにヴォーカルそのものが前面に出て、健闘している。中でも(大人へと)成長することの痛みを歌った5曲目は、ヴォーカルの表情も豊かな佳曲。アルバム全体を通して、ヴォーカルの美メロと、非常にハードかつ疾走感あふれるリズム隊の絡みが非常に楽しい1枚だ。
 なお日本盤にのみ、2曲ボーナス・トラックを追加(ゆえに収録時間は30分を超えている)。ともにカヴァーだが、そのうちの1曲は、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのカヴァー。興味深くはあるが、興味の範囲を超えるのは難しいかも。



[リンク]
 Funeral For a Friend ... 現在(2013年)の公式英語サイト。

 Funeral For a Friend ... かつての公式英語サイト(上のサイトにジャンプします)。特別版“History”のダウンロード(有料)はこちらから。 ※ダウンロード・サービスは終了したようです。
 Funeral For a Friend.com V.4 ... かつての公式英語サイト(上のサイトにジャンプします)。

 Funeral For a Friend ... ワーナー・ミュージック・ジャパン運営による日本の公式サイト。
 FFAF THEORY ... 日本人による日本語ファン・サイト。レイアウトなど非常に美しいだけでなく、内容も充実している。  ※残念ながらリンク切れとなっています。

 daytimeTV Wales
... ウェールズとウェールズ出身のバンドを紹介する日本語サイト。FFAFに関する詳細なページがある。  ※残念ながらリンク切れとなっています。






ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2004-2013: Yoshifum! Nagata








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