ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■フィーダー(Feeder) 歌/英語
 またもや南ウェールズの小さな町から、フラストレーションを抱えた若者たちが現れた。その苛立ちをギターの爆音に託しながらも、その中心で響く美しいメロディは、紛れもなくウェールズの音だ。その実力と経歴からも、本国ではマニック・ストリート・プリーチャーズやステレオフォニックスと比較される彼らは、フィーダーと自ら名乗る。

 南ウェールズはニューポート出身のバンド、フィーダーは、その2/3をウェールズ人、そして、残る要素を日本人で構成するトリオとして出発した。フィーダーの誕生は、グラント・ニコラス(Grant Nicholas)(67年11月12日、南ウェールズ生まれ)(Vo & G)とジョン・リー(John Lee)(1968年生まれ)(Dr)によって、92年、ウェールズで結成された。当初はTemper Temperと名乗ったが、ニューポートという小さな町に耐え切れず、名前をReelと変え、ロンドンへと活動の場を移した。そこで広告を通じて知り合ったのが、当時、英語とグラフィック・デザインを学ぶ一方で音楽活動をロンドンで行っていたタカ・ヒロセ(67年7月28日岐阜県生まれ)(B)であった。こうして彼らはFeederと名を変え、95年にThe Echo Labelと契約する。

 EP“Two Colours”(95)でデビューした彼らは、ツアーに出る一方で96年には初のミニ・アルバムSwimをリリース。この6曲入りミニ・アルバムからのシングル“Crash”が、トップ40のヒットを放つ快挙となる。ツアーを精力的に続ける傍ら(その中には彼らの名を一躍広めることとなった、イギリス最大のへヴィ・メタル専門誌Kerrang!によるパッケージ・ツアー“ツイスター・ツアー”も含まれる)、リリースした“High”がイギリスのチャートで24位にまで登りつめる。そして97年5月に処女アルバム『ポリシーン』(Polythene)(97年)をリリース。惜しくもヒットには恵まれなかったものの、『ポリシーン』はMetal Hammwer誌でアルバム・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

 98年は、フィーダーにとってツアーに明け暮れた年だった。99年には『イエスタディ・ウェント・トゥー。スーン』(Yesterday Went Too Sonn)(99年)をリリース。そのメロウな曲を中心とした内容から賛否両論を受ける。この年、富士・ロック・フェスティヴァル出演のために、フィーダーは初来日している。

 2001年1月にリリースされたシングル“Buck Rogers”が、チャートで5位を記録。続くシングル“Seven Days In The Sun”(2001年4月)も14位を記録。勢いに乗ったフィーダーは、3枚目のアルバムとなる『エコー・パーク』(Echo Park)(2001年4月)をリリース。これが10万枚を超えるヒットとなり、フィーダー初のゴールド・ディスクとなる。


2001年ごろ



 だが、ここで悲劇が起こる。創始者の一人としてバンドを支えてきたジョン・リーが、南ウェールズから移り住んだマイアミの自宅で死体として発見される。自殺であった。2002年1月7日、鬱病が引き金となり、犬の鎖で首を吊ったといわれている。公の葬儀は、フィーダーが結成された南ウェールズのニューポートにある、聖メアリー教会で行われた。NMEによると、この葬儀には1000人近くの人が詰め掛け、彼の死を悼んだ。参列者の中には、マニックスのジェームス・ディーン・ブラッドフィールドやリッチー・グローヴァー、60FT・ドールズの3人の姿もあったという。

 解散も危ぶまれたフィーダーだったが、グラントとヒロセは元スカンク・アナンシーのマーク・リチャードソン(Mark Richardson)(Dr)をゲストとして迎え、アルバムを製作する。そしてアルバムに先立ち、シングル“Come Back Around”(2002年9月)をリリースし、畳み掛けるように4作目『コンフォート・イン・サウンド』(Comfort in Sound)(2002年10月)を発表。この『コンフォート・イン・サウンド』は、翌年9月に貴重な映像を収録したDVDをつけ、再発売されてもいる。

 そして完全復活を告げた新生フィーダーから、2005年4月に5枚目となる『プッシング・ザ・センシズ』(Pushing The Senses)が届けられた。前作がジョン・リーの不在からくる悲しさを「音の慰め」から紛らわそうとしたのならば、本作でフィーダーは「感覚を拡げる」と宣言。これまでのメロディと激しさを、絶妙のバランスで混ぜた傑作が誕生した。

 そして『サイレント・クライ』を発表した彼らだったが、その後、マーク・リチャードソンが脱退。また彼らの所属するエコー・レーベルが倒産する。このまま活動休止かとも思われたが、ティム・ロッターがドラムを叩き、フィーダーは活動を再開。加えて倒産したエコー・レーベルに代り、自らBig Teethレーベルを設立。そのレーベルから「レネゲイズ」と「センチメンタル」の新曲2曲がリリースされる。

 順調に滑り出したフィーダーだったが、しかしながらドラムの席からはティムが降り、代わりにカール・ブラジルが座ることになった。彼らはレネゲイズの名の下、ライヴ活動を行う。そして活動への確信を得たのか、彼らは再びフィーダーとしてシーンに返り咲く。2010年現在では、フィーダーの正式メンバーはグラントとタカになっており、カールはゲストとなっている。そして6月30日(本国イギリスでは7月5日)に、新作『レネゲイズ』がリリースされた。また続く8作目は、この『レネゲイズ』で未使用となった素材や楽曲を使用した『レネゲイズ2』になるとの噂がたっていたが、実際に届けられたのは全く異なる『ジェネレーション・フリークショウ』(2012年)だった。

 




[アルバム(選)]
Swim (96-2001) (The Echo Label Ltd / ECHO38)
 96年6月にリリースされたミニ・アルバムSwim6曲(オリジナルは青色のジャケット)に、5曲とビデオ・クリップ2曲を加えて再プレスされたのが、本作である。フィーダー初のフル・アルバムとなる『ポリタウン』の宣伝文句「ひたすらポップなメロディと轟音ギター・サウンドの理想的な出会い」に、肩透かしを食らった人は、こちらを聴けばそのキャッチコピーに嘘がないことに納得するのではないか。まさにここで展開される音は、その言葉どおり。荒々しくも激しく、そして、彼らのフラストレーションをそのまま体現したような生々しいバンド・サウンドからは、彼らのエネルギーのすごさが感じられる。全曲グラントのペンによる。

Polythene (97) (The Echo Label Ltd / PCCY-01114)
 フィーダー初のフル・アルバム。全曲グラントのペンによる。さすがウェールズ出身、と言いたくなるほど、メロディのすばらしさは折り紙つきだが、激しさという点ではSwimに譲る。それというのも、Swimで爆音を聞かせたギターが常に一歩後ろに引き(ソロでさえ音が小さい)、スクリームが機械によって変調されているからだ。初期の名曲「マイ・パーフェクト・デイ」(「最高の日」)でさえ、力強い演奏には聞こえない。「ステレオ・ワールド」や「ウォーターフォール」では、ハードなギターがかなり健闘しているものの、もう少し前進できるだろうと、つい期待してしまう。かなり良いアルバムなのだが、ポップスとハード・ロックの間でどちらに進もうか迷いつつ、結局、どちらにもつかずの音を出しているという印象を受ける。なお曲順および収録曲はオリジナルと日本盤では若干異なる。日本盤のみ3曲追加。

Echo Park (2001) (The Echo Label Ltd / PCCY-01498)
 ハードなギターに、えぐるようなベース。ポップなメロディに、変調された声とギミック的なシンセサイザー――ここに来て、彼らの音はユニークな域に達した。名曲も目白押しで、激しいパートと静寂でメロゥなパートを一瞬にして切り替える「スタンディング・オン・ジ・エッジ」(世界の縁に立ちながら)や、「バック・ロジャース」「ターン」「バグ」など、数え上げればきりがない。本作こそ、トリオ時代の傑作である。
 サウンド面においてかなり作り込まれており、メロディを中心に起き、その周辺を固めるように変調された短いコーラスの繰り返しや、ギミック的なシンセサイザーが的確に配されている。これらの所謂おかず的な要素が、一度ツボにはまるとやみつきになるのだ。だが、これらの脇役が、メインであるメロディの良さを引き立たせ、結果的にフィーダー独自の世界を作りあげている。その音使いや曲展開の激しさからも、先人のスーパー・フューリー・アニマルズのハード&クール版のようでもある。これだけ凝った音のつくりの中で、ジョン・リーのドラムのみが非常にストレートな、生のままの音になっていることが、今になってわかる。この音が悲しい。全曲グラントのペンによる。日本盤のみ4曲追加収録。

Comfort in Sound (2002) (The Echo Label Ltd / PCCY-01623)
 ドラムのジョン・リーが他界してから、わずか9ヵ月後に届けられたアルバム。全体を聴くと、急ぎすぎた感が否めなくもない。だが、フィーダーは止まるわけにいかなかったのだろう。リーへの思いと、未来の描けぬ自分たちの不安が、残された2人を後押ししたのではないか。アルバムの1曲目に配された「ジャスト・ザ・ウェイ・アイム・フィーリング」で、悲しげな弦楽に乗りながら現世と他界に「二つに裂かれた」自分たち3人を歌い、「カム・バック・アラウンド」で自分たちは2人でもやっていけるのだ、と、短く、だが、力強く宣言する。この悲しみの内から浮き上がる強さこそ、まさに、ウェールズのそれだ(全曲グラントのペンによる)。そして彼らの音(特に表題曲)が、トリオになってからのマニック・ストリート・プリーチャーズのそれに通ずることは特筆に価する。おそらくこれが、90年代後半に生まれた、ウェールズの新しい音の形なのだろう。

Picture of Perfect Youth (2004) (The Echo Label Ltd / PCCY-01838)
 2枚組CDで全36曲(日本盤のみ38曲)収録。この全曲がシングルのノンタイトル曲(いわゆるBサイドの曲)と言うことに驚かされる。アルバムでは破天荒な面も時にもちながら、それでいて全体的に統一された作りをしているフィーダーだけあって、そこからもれた曲はフィーダーの違った面を見ることが出来、大変、興味深い。特に1枚目のディスクの前半の収録曲は、メロウな曲調から弾けようとして不発に終わっているものが多い。歌詞にも自由を求め、下層から「引っ張りあげてくれ」と懇願している姿が目立ち、“もがく”等身大の彼らの姿が垣間見える。逆に2枚目ではインディーズ時代を髣髴させるハードな一面を見せ、聴いていてニヤリ、とするところも。もともと公式サイトでファン向けにリリースされただけあって、収録曲についての細かいデータがついていないのが非常に残念。

Pushing The Senses (2005) (The Echo Label Ltd / PCCY-01725)
 まるで失ったものを取り戻そうと試みるかのような、ギターの逆回転の音で、幕を開ける。だが望みは叶わぬ。叶わぬ思いは嘆きとなり、空を舞う。もちろん、失ったものとはリーだ。1曲目「フィーリング・ア・モーメント」で、フィーダーは聴く者に彼らの失望感の大きさを、改めて感じさせる。だが、彼らはこの深い悲しみの中でも希望を決して失っていない。冒頭から広がる深い悲しみと、その中から這い上がろうとする強い姿勢で、聴く者の心をいとも簡単に鷲づかみにしたフィーダは、「僕は決して君を失望させない」(‘I'd never let you down’)と畳み掛ける。「きみ」とはリー本人でもあり、聴き手でもある。そして「僕はまったくきみみたいなんだ」と、誰もが喪失感に悩まされていることを告白する。――この1曲だけでも、フィーダーはロック史に深い足跡を残すに値する。
 だが、このアルバムの本当のすごさは、この曲が終わってから始まる。リーの不在と喪失感が、残された2人を悩ませる。ふとしたことから、彼の不在を思い出し(「ビター・グラス」「テンダー」)、「戻って来い」と友の亡き空間に語りかける(「タンブル・アンド・フォール」)。そして亡き友への思いという個人的な苦悩に悩まされ、その喪失感を消そうともがき、現実の世界でまさに「這いずり回る」。そして彼らはついには個人の悲しみという枠を破り、「人生とは許すこと」との普遍的な思いに達する(「巡礼者の魂」)。この精神がこのアルバムを力強く支え、更に作品を孤高の高みにまで持ち上げている。フィーダーはメンバーの喪失という極めて個人的な経験から出発し、そして普遍的な精神にたどり着いた。それが音と言葉によって、体現されている。これが心を打つ。傑作である。全曲グラントのペンによる。

The Singles (2006) (The Echo Label Ltd / PCCY-01786)
 シングル・カットされた曲からメンバーが選りすぐった17曲に新曲3曲を追加した編集盤である。2ヶ月限定盤には、このCDに26曲のプロモーショナル・ビデオを収録したDVDがつく。年代順に並べられていないのがみそだ。通常はフィーダーの音楽を、ジョン・リーの死を境に2つに分けて考えてしまうが、このアルバムを通して聴いてみると、デビューからこれまで全体を通して1本の筋が通っていることがわかる。それは全ての曲を手がける、グラント・ニコラスのギターとメロディアスな歌だ。このメロディアスな感覚が、フィーダーの音楽がどんなに激しく、または、哀しくなっても貫かれているからこそ、フィーダーの個性が強調され、引いてはフィーダーをフィーダーたらしめるのである。

Silent Cry (2008) (The Echo Label Ltd / ECHLP79)
 フィーダーは本作において、新たな一歩を踏み出した。新生フィーダー誕生といっても良いだろう。『プッシング・センスズ』まで(あるいは『ザ・シングルス』まで)は、それまでのフィーダーを引きずっていた。つまりそこには“ジョン・リー不在”という影があり、その存在を懐かしむ趣があった。それが悪いわけではない。絶頂期に、それまで一緒に頑張ってきたメンバーを“死”が奪ったのだから。むしろ彼への思いから、傑作が生まれもした。だがここにきて、ウェールズ=日本=イングランド出身の3人が、一体になった。そう思わせる音なのだ。何よりも今までのアルバムに較べ、音が力強い。これまで自分たちが培ってきた“フィーダー節”を持ちつつ、よりストレートで、それでいてクールでもある。3人が団結し、ひとつの新しい方向に向かっている証拠だ。1曲目で、鳥肌が立った。傑作だ。なお限定販売の特別版にはボーナス・トラックが2曲、更に日本盤の特別版には1曲(計3曲)のボーナス・トラックがついてくる。

Renegades (2010) (Victor / VICP-64844)
  7作目。過激なジャケットからは、マニックスの物議を醸し出したマスクのパフォーマンスを思い起こさせる。そのジャケットに連想されるように、非常にシンプルながら力強いサウンドへと、フィーダーは帰って行った。シンセサイザーを極力排しているため、ギターがデビュー当時のようにサウンドの中心を占めているため、かなりハードに感じる部分もあるが、ところどころにフィーダーがこれまでに培ってきたポップなサウンドが顔を出す。一方で歌詞から覗くのは、何かを探そうとする探究心・姿勢だ。だがそれは迷いからくるものではなく、確固たるひとつの信念がその裏にある。それはタイトル曲「レネゲイズ」にある“状況は変えられるはず”“新しい趣向がある”という信念であり、その信念はUK限定盤および日本盤のみのボーナス・トラック「ゴッドヘッド」から浮かび上がる“俺たちのしたことは、すべて愛のためだった”というリフレインにたどり着く。これが現在のフィーダーが内包する、力強さである。これが音に反映されている。

Generation Freakshow (2012) (BigTeenth Music Ltd. / VICP-65040)
 随分と待たされた感がある。それも本作は、当初、前作『レネゲイズ』で使用されなかった楽曲・素材から作られる、との噂があった。ゆえに程なくして本作が届けられると思っていた。しかしこうして届けられた本作『ジェネレイション・フリークショウ』は、良い意味で期待を裏切ってくれた。実に本作は、前作から完全に飛躍した作品となった。事実、ここに収められている楽曲は、日本盤のみのボーナス・トラック1曲(“Side By Side”)を除けば全てが新たに書かれた楽曲ばかり。これは彼らの創作意欲が、極めて良い状態であることを示している。実際にどの楽曲も翳りのあるフィーダー節を核にすえながら、これまでにないほどの熱いエネルギーをほとばしらせる。その核にあるのは、今のイギリスに潜む、社会へのフラストレーションの塊だ。グラント自身、インタビューで2011年8月にあったロンドンでの暴動に触れ、「若いキッズが荒れる様子を見ていて感じた違和感とか、恐怖とか、でもそこに至るまでに募らせていたであろうフラストレーションや怒りへの共感とか・・・ そんな説明のつかない混沌とした気持ちや状況、それを言っているんだと思う」と語っている。その言葉に裏打ちされるかのように、歌詞には至る所に現状からの逃避とフラストレーションがちりばめられている。問題作になること必至。
 なお日本盤には3曲ボーナス・トラックを追加。そのうち1曲は前出の“Side By Side”。あとの2曲は、アルバムの曲を日本人アーティストがリード・ボーカルをとったもの。





[リンク]
 Feeder ... 公式英語サイト。
 Feeder FAQ ... 英語ファンサイト。FAQ形式でフィーダーのことを説明している、非常にユニークで愛のあるサイト。
 Anaesthetic ... 英語ファンサイト。※残念ながらリンク切れとなっています。
 crashmat ... 英語ファンサイト。※残念ながらリンク切れとなっています。

 FEEDER ... PonyCanyonの公式日本語ページ。
 Feeder ... Victorの公式日本語サイト。
 Go Go Feeder!! ... フィーダーの日本ファンサイト。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2006-2013: Yoshifum! Nagata








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