ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽2:クラシックおよび現代音楽――



■シャルロット・チャーチ(Charlotte Church) 歌/英語 or ウェールズ語
 南ウェールズの歌が溢れる環境で生まれ育ち、12歳という若さで大手レコード会社と契約したシャルロット・チャーチは、現在までに1000万枚以上ものアルバムを世界中で売っている。

 1986年2月21日、カーディフ郊外のスランダフ(Llandaff)に生まれる。生まれた時から歌が周りに溢れ、その影響で自身も歌を好むようになった。その彼女の歌声の中にある美しさを、歌手の叔母が見抜いた。彼女は両親にシャルロットに歌のレッスンを受けさせるように進言し、シャルロットは正式に歌のレッスンを受けるようになった。

 デビューのきっかけは、10歳の時、タレント発掘番組に出演したことだという。その時の歌が好評を得、次々と番組に出演するようになったシャルロットは、12歳にして大手レーベルのソニーと契約。この時、彼女はソニーのオフィスで大胆にも歌を歌ったという逸話が残されている。

 その彼女のデビューは、『天使の歌声』(Voice of Angel)(98年)だった。わずか12歳の歌声は、瞬く間に注目を集める。このアルバムは発売から半年で、200万枚もの売上を記録。イギリスではダブル・プラチナ・アルバムに、ついでオーストラリア、ニュージーランド、香港でゴールド・アルバムに輝き、彼女は世界的な成功を手中にする。

 99年3月に初のコンサートをロンドンで行い(この模様は『天使の歌声〜イン・コンサート』としてビデオ/DVDで発売された)、この年の11月にセルフ・タイトルのスタジオ・アルバムを早くもリリース。ブリット・アワードのクラシック部門で、このアルバムは年間最優秀アルバム賞を獲得した。

 2000年には、クリスマス・アルバム『ドリーム・ア・ドリーム』(2000年)をリリース。をアメリカのビルボード誌で、マドンナなどに交じって、年間女性歌手アルバム売上トップ・テンにも選ばれている。

 2001年11月、4枚目のスタジオ・アルバム『エンチャントメント』をリリース。息をつく暇もない彼女の行動だが、しかしながら、確実に成長を遂げているのがこのアルバムに収録された、大人びた歌声で証明された。15歳という年齢からか、少女の声と呼ぶには、大人びていて、かと言って大人の女性ほどしたたかではない。
 少女でもなく、大人の女性でもない。そのふたつの間を漂いながらも、どこか妖艶さも感じさせるまでに成長した彼女の声は、彼女自身の才能のみならず、デビュー後も毎日2時間のレッスンを欠かさなかったという努力の賜物だろう。その魅力が存分に堪能できるのは、日本盤のみに収録されたウェールズの伝承歌「トラ・ボ・ダウ」なのが残念といえば残念だ。ロードリ・ディヴィスによる編曲とハープのみの伴奏に載って歌う彼女の声は、アルバム全体の中で最も輝いている。レコード会社などの外野が彼女のウェールズ性を強調するものの、シャルロット自身はウェールズ性や民族魂を強調してこなかったが、ここではその血がなせるのか、ウェールズ民族ならではの歌となっている。

 このアルバムでは、また、オーケストラのみならず、アコースティック・ギターやシンセサイザーも惜しみなく使われている。それを聴くと、彼女の成長した声は予想以上にデジタル楽器との相性が良いのがわかる。これが、彼女の次のシーンへの転換点となるかもしれない。


シャルロット・チャーチ(2005年;上)






[アルバム(選)]
Voice of Angels (98) (Sony Records / SRCS 8899)
 1998年11月に本国イギリスで発売され、瞬く間に世を驚かせた1枚目。発売後たった6ヶ月で、全世界で200万枚の売上を記録した。ウェールズの国立オペラ楽団と合唱団を大胆にも従えた彼女は、12歳。瑞々しさが溢れんばかりのその声からは、時折、熟練の域に手が届きそうな声が見え隠れし、何とも不思議な世界を体験できる。確かに、本来ならば力強さを表現する「聖地エルサレム」では、彼女の声に違和感を感じずにはいられない。しかしながらそのような欠点を補っても余りあるほど、「主の祈り」や「詩篇第23番」に聴かれる、清流のような歌声には感嘆せずにいられない。ウェールズの伝承歌からは5曲収録。

Charlotte Church (99) (Sony Records / SRCS 2160)
 2枚目にして初のセルフ・タイトルのアルバム。全体に音が曇っており、そのため、透明感には欠ける。また1曲目のリズム・マシーンとシンセサイザーの導入は新たな試みながら、これが成功しているとは言い難い。幼さを残す彼女の声に、あっていないのだ。前作では等身大の彼女の声が聴かれたが、ここでは前作が売れたプレッシャーからか、どこか背伸びをしているような印象を受けなくもない。しかしながら、収録された全17曲はどれも聞き覚えのある曲ばかりで、聴き易い。ウェールズからは2曲とりあげている。ひとつは賛美歌として有名な「主よ、私を導きたまえ」。もうひとつは「ハーレフの男たち」。13歳の少女が歌う「ハーレフの男たち」は、力強い男性合唱団のものばかり聴いてきた耳には、ある種新鮮ですらある。ウェールズの自然を背景にした(合成)アルバム・ジャケットは、彼女のウェールズ性を現す上で重要な役割を果たしている。

Enchantment (2002) (Sony Records International/ SICP 18)
 スタジオ4枚目となるこのアルバムで聴かれる唱法は、確かにクラシックだ。しかし、この作品をクラシックとして聴く人はいないだろう。バックをオーケストラがメインに務めながら、随所にシンセサイザーなどのデジタル楽器が使われたアレンジがなされ、クラシックの作品とは一線を画している。そのため、ポップスのような印象を強く受ける。その際たるものはサティの「ジムノペディ」に歌詞をつけた、「フロム・マイ・ファースト・モーメント」であろう。ここにはサティ独特のアンニュイさはない。代りに彼女の健康的な声が、ただでさえ美しいメロディをポップに響かせる。この時、彼女は弱冠15歳。この年齢を考えると、この先末恐ろしい。日本盤のみ2曲ボーナス・トラック収録。そのうちの1曲は、クレジットこそないものの、ロードリ・ディヴィスが編曲/演奏を行ったもの。ディヴィスのきちんと音楽教育を受けた一面が覗かれる、珍しい曲だ。





[リンク]
 Charlotte Church ... 公式英語サイト。優しい色使いの美しいサイトだ。
 Charlotte Church.net ... ファンによる英語サイト。膨大な情報量を誇る。
 Just Charlotte ... ファンによる英語サイト。情報量がすごい。トップ・ページにシャルロット・チャーチに関するニュースのリンクが張られている。




ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2003-2010: Yoshifum! Nagata








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