ウェールズを感じる
――ウェールズから響く音楽1:ポピュラー・ミュージック――



■ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン(Bullet For My Valentine) 歌/英語
 炭鉱が失われた南部のヴァレイ(『丘陵地帯』(The Valleys))から、新たなるバンドの登場である。その名も、「私のヴァレンタインへの弾丸」。名が体を現すとはよく言ったものだ。その名から想像できるとおり、過激なバンドである。その音は“ド”が付くほどのド級へヴィ・メタル。その度合いは、同郷で同じく南部出身のフューネラル・フォー・ア・フレンドやロスト・プロフェッツを軽くしのぐ。だがこの音が、今の南部の音の一端を担う。果たして炭鉱閉鎖後の南部からは、あまたの音が出現した。その中でも、これまでにないほど超頑強な鋼魂をお楽しみあれ。

 ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインの母体は、マシュー・タック(Matthew "Matt" Tuck)(Vo & G)(1980年1月20日生まれ)、パッジ (Michael "Padge" Padget)(G & Vo)(1978年9月12日生まれ)、ムース・トーマス (Michael "Moose" Thomas)(Dr)(1980年6月4日生まれ)らが南ウェールズはブリッジエンド(Bridgend)で結成したJeff Killed Johnというバンドだ。このバンドはメタリカやニルヴァーナのカヴァーを中心に活動していた。彼らは2002年に2曲入りEP“You / Play with Me”をリリースするが、その録音前夜、ベーシストが脱退。代わりにジェイソン・ジェイムズ (Jason "Jay" James)(B & Vo)(1981年1月13日生まれ)が加入。更にバンドは、 ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインと改名。同時に音楽性も変え、「ハーモニーの美しいギターと天使のような大合唱」を持ったスラッシュ・メタルを目標に掲げる。

 へヴィ・メタル専門レーベルのロードランナーが、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインに興味を示すが、バンドはSony BMGと契約。そして5曲入りセルフ・タイトルのEP“Bullet For My Valentine”(2004年11月15日)でデビュー。この年には、ウェールズ音楽賞で最優秀新人賞を獲得している。翌2005年8月にはSummer Sonic 2005に出演。早くも来日公演を行っている。

 そしてイギリスで2005年10月に『ザ・ポイズン』(The Poison)(2005年)で待望のアルバム・デビュー。非常に頑強な“鋼”の音を全編で聴かせる。アメリカでは彼らのバンド名にあわせ、2006年2月14日のヴァレンタイン・デイにこのアルバムはリリースされた。ビルボードでは128位と振るわなかったが、インディーズ・アルバム部門では11位をつける。なおデビュー・アルバムがイギリスでリリースされた2005年には、イギリスのへヴィ・メタル専門誌Kerrang!は、最優秀新人賞を受賞している。

 2008年1月29日、『スクリーム・エイム・ファイア』(Scream Aim Fire)(2008年)をリリース。更にド級のスラッシュ・メタルを展開している。アメリカではリリースの最初の週だけで53,000枚の売り上げを記録。結果、全英5位、全米4位の好成績をマークしている。

 ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインは『スクリーム・エイム・ファイア』のリリースに伴い、アメリカおよびオーストラリアを単独公演で回る。また5月には来日公演も行っている。そしてその年の後半には、ヨーロッパをサポートバンドを従え、ツアーで回っている。

 3作目『フィーヴァー』(Fever)は2010年4月27日にリリース。この前夜、ロンドンでシークレット・ギグを行う。また同年9月には、来日公演も行っている。

 その後、一旦は次作の製作が報じられるが、ヴォーカルのマシュー・タックがサイドプロジェクト(アックスワウンド;AxeWound)に取り組んだこともあり、アルバム製作は伸びる。そしてマシュー・タック、ムース・トーマス、ジェイソン・ジェイムズがタイで作曲に取り組み、出来上がったマテリアルをウェールズに持ち帰る。

 そして2013年2月8日(11日)、4作目となる『テンパー・テンパー』(Temper Temper)がリリースされた。


註・・・ 「私のヴァレンタイン」とは、イギリスなどでヴァレンタイン・デイのカードに添えられる言葉。“Be my Valentine”「私のヴァレンタイン(=恋人)になってください」のように使われる。





[アルバム(選)]
The Poison (2005) (BMG / BVCQ-21064(82876-73586-2))
 緩やかで穏やかなオープニング(「イントロ」)に油断をしていると、突然弾ける、超ド級のへヴィ・メタルに打ちのめされる。その音は、スラッシュとスクリーム、そして、マイナーで美しいメロディを、80年代のへヴィ・メタルで彩ったようなもの。以後は、このド級のへヴィ・メタルが激しいツー・バスの連打とともに、続けざまに繰り広げられる。4曲目などで聴かれる、今となっては珍しいあざといまでのギター・ソロが、彼らの音の特徴のひとつでもある。しかし、それにしても、全編を彩るのは息苦しいまでの“鋼”の音である。彼らはまるで限界に挑戦するかのように、ひたすら“鋼”の世界を追求していく。非常にマスカリンな(男っぽい)アルバムだ。全英21位を記録。

Sream Aim Fire (2008) (BMG / 88697 23474 2)
 前作では「イントロ」があった。だがここでは、冒頭からツー・バスとスクリーム全開。ひたすら頑強な縦ノリのリズムで、マスカリンな“鋼”の世界を追求していく。その息苦しさは前作を遥かに凌駕する。7曲目“Take It Out On Me”のような美しいメロディにコーラス、そこにスクリームが絡む曲もあるが、基本はツー・バスの連打による“鋼”魂の追求である。その中で、随所で突如飛び出すメロディックなギター・ソロや、シングル・カットされた3曲目“Hearts Burst into Fire”の明るさが印象的。超ド級のへヴィ・メタルがお好きな方は、是非とも4曲目“Waking the Demon”をお試しあれ。私はこれに、ノック・アウトされた。全英5位、全米4位を記録。

Fever (2010) (BMG / 88697 80781 2)
 これまで以上に楽曲の完成度が高いアルバム。1曲目のメタリックなギターのリフとキャッチーなメロディで、一瞬にして聴くものの心を鷲づかみにする。続く2曲目のツー・バスの連打で、完全にノック・アウト。気づけばブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインの世界にどっぷりと浸かっていることになる。前作/前々作以上にバランスが良く、冒頭にも書いとおり、曲の完成度が高い。これまで縦ノリ一辺倒だったリズムに、幅が出てきているのも事実。彼らがデビュー当時に音楽の理想として掲げていた、“「ハーモニーの美しいギターと天使のような大合唱」を持ったスラッシュ・メタル”が音として具現化されているといえよう。全英チャートでは前作と同じ5位を記録ながら、全米では3位を記録。
 なおこのアルバムにはツアー・エディションなる盤も存在する。そこにはボーナス・トラックの他、DVDも付いてくる。

Temper Temper (2013) (RCS / 88765438622)
 血まみれの両手が、何かを求めるように差し出されるジャケットに、思わず身を引き締めてCDをプレイしたが、意外にも衝撃は差ほどでもなかった。これまでに彼らの激しいリズムを聴きすぎて、不感症になったのかもしれない。全体的にへヴィなリフと、親しみやすいメロディを重厚なリズムで包んだ作品に聴こえる。それもこれもプロデューサーがとった「レス・イズ・モア」(“Less is more”;「より少なく」が、「より多くのもの」をもたらす)というアプローチが上手く機能したからだ。彼らはこれまでのように過激なまでの速度で、様々な音をつぎ込むのではなく、音数を少なくすることで、より重厚感を出した。1曲目や8曲目など、特にそう感じる。アルバム全体として攻撃性は潜めたが、そうは言ってもスクリームや、往年を髣髴とさせるハイ・ノートのギター・ソロは健在だし、団子のごとく続く起伏のないハードなリズムも彼ららしい。逆にいうと5曲目など展開に応じてリズムにメリハリをつければ、かなりの佳曲になったとも思うが、そうしないところが彼ららしい。





[リンク]
 The Official Bullet For My Valentine Site ... オフィシャル英語サイト。
 
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ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2012-2013: Yoshifum! Nagata








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