ウェールズを感じる
――ウェールズの映画――




[表記上の注意]
◆日本語タイトル(日本で公開されたもののみ)/原題(公開年)
 監督: 脚本: 
 主演: 
 言語: 字幕: 
 ストーリー:
コメント:
総評:


※日本版以外のものはイギリス・ウェールズで発売されたものを掲げています。
Solomon and Gaenor (1999年)
 監督/脚本:Paul Morrison
 主演:Ioan Gruffudd、Nia Roberts

 言語:英語、ウェールズ語、ユダヤ語 字幕:英語

 ストーリー:1911年のウェールズ。ユダヤ人一家の長男ソロモンはリンネル(麻布)を売り歩く行商人だった。若く、ハンサムなソロモンは南部の炭鉱の村で家を一軒一軒を回り、リンネルを売り歩くうちに、若く、魅力的な女性ゲイノールと知り合う。ゲイノールに心を奪われたソロモンは、ユダヤ人であることを隠すために“サム”と名乗り、ゲイノールに接近。厳格なメソジストのゲイノールは最初、ソロモンを警戒する。だが二人が恋に落ちるのも時間の問題だった。逢瀬を重ね、互いに求めあう二人。いつしかゲイノールは妊娠する。一方、当時のウェールズは経済がひっ迫していた。そのため高所得者であるユダヤ人に対する偏見とねたみから、村の若者がソロモン一家が経営する商店を襲うという暴動に出る。このような騒ぎの中、二人は、ともに宗教的に厳格な家族によって引き離され・・・ 。


 コメント:“荒れ果てた”ウェールズの大地を舞台に、出逢ってはならない二人の恋の逢瀬が美しくも、痛ましい。南部『丘陵地帯』の文化の中心である炭鉱夫とメソジストが、彼らの悲劇の引き金になるのは、文化の負の側面を見た気がする。1999年アカデミー賞外国語映画部門ノミネート。Festroia - Troia International Film Festival 黄金のイルカ賞受賞。Verona Love Screens Film Festival 銀薔薇賞受賞。2001年BAFTA賞最優秀フィルム賞他3部門獲得。残念ながら日本版DVDは2010年6月現在、ない。
 総評:本当に痛ましい悲劇だ。お涙頂戴ではなく、リアリスティックに二人の恋の顛末を描く映像は、まさにウェールズの荒れ果てた丘の様相に合致している。
 


Y Chwarelwer (1935-年)
 監督/脚本:Syr Ifan ab Owen Edwards & John Ellis Wiiliams
 主演:Robert Jones、Mrs.R.A.Jones、W.D.Jones

 言語:ウェールズ語 字幕:英語

 ストーリー:舞台は鉄の産地として知られる、ブラナイ・フェスティニオグ。採掘場で働くトモス・ジョーンズの一家は、貧しいながらも将来への希望にあふれる一家だ。トモスは採掘場で石切り工として働き、妻は家庭を守る。長男のウィルは恋人との結婚の日を夢見ながら、父と同じ採掘場で働く。二男ロビンはサッカー・チームで活躍する一方、学業でも優秀。医者になることを夢見ている。一家では最も若い妹のネスタも優秀で、学力テストでウェールズで一番になると言われている。前途有望な一家5人だが、トモスは胸を患っていた。仕事仲間の忠告にも耳を貸さず、一家の家計を支えるために、また、ロビンとネスタを大学に送ってやるために仕事に従事する。だがそんなある日、トモスが倒れ・・・ 。


 コメント:1935年に制作された、ウェールズ語初の映画(トーキー)が現代技術により、DVDで蘇った。だがフィルムのうち、もっとも重要な最後のパートが長らく失われたままだった。だが一念発起した監督Ifor ap Glynは、失われていた部分を、かろうじて残っていた音声や人々の記憶を頼りに制作。全てをつなげ、さらに全体にデジタル・リマスターを施し、音楽をつけ、音声を録音し直すことで“完成版(Y Ffilm Gyflawn)”を作り上げた。本DVDにはその完成版の他、オリジナル(Wreiddiol)や、その修復作業を追ったドキュメンタリー・ビデオを収録。映画そのものは38分だが、全編を通してみると160分の大作になっている。
 総評:Ifor ap Glyn監督の執念と努力に拍手喝采! 監督が完成版を作り上げる過程で、失われたパートを再構築するために、ロケ地や似た俳優を探す模様を収録したドキュメンタリーは、ひとつの映画としてまとめれば(S4Cのテレビ番組として放映された)非常に面白い。映画そのものはトモス・ジョーンズの一家をドラマと、当時の生活をドキュメンタリー的に描いた採掘場や村の様子(学校やchapelなど)から成る。
 


◆ウェールズの山 / The Englishman who went up a hill but came down a mountain (95年)
 監督/脚本:クリストファー・マンガー
 主演:ヒュー・グラント、タラ・フィッツジェラルド、コーム・ミーニー

 言語:英語(一部ウェールズ語) 字幕:日本語、英語

 ストーリー:第1次世界大戦中の1917年のある日、2人のイングランド人測量技師が南ウェールズの小さな村を訪れる。彼らは新しい地図を作成するために、ウェールズの丘陵地帯を測量しているのだ。彼らの測量の結果、村の誇りでもある「山」が、山として地図に載せるためには6メートル低いことが判明。村人たちは、丘を山にすべく、宿兼パブの経営者モーガンを中心に結束する。あの手この手で、2人の測量技師の足を止め、その間に土を丘の頂に積み、6メートル標高をあげようと奮闘する村人たち。その姿に心を動かされた若い測量士(ヒュー・グラント)は、密かに彼らに協力する。しかし、後一息というところでウェールズ特有の冷たい雨が降り始める。タイム・リミットは後わずか。雨があがった翌日には、測量技師の2人は次の測量地へと行かねばならない。ようやく雨のあがったその日は、日曜日。この日に労働をすることはならん、と、村の教会牧師がモーガンと対立し・・・ 。


 コメント:実話をもとに描かれた、コミニカルで心暖まるストーリーだ。丘、雨、イングランド人とウェールズ人の対立、禁欲的なメソジストの牧師など、ストーリーとその背景はウェールズ文化に基づいて忠実に描かれている。ストーリーの緩やかなテンポが、何ともウェールズの田舎町のテンポにあっている。ラストに奏でられるのが、「ハーレフの男たち」のブラス・バンド編曲というのも、はまりすぎだ。
 総評:古き良き時代のウェールズを描いた傑作といっても、過言ではないだろう。
 


◆ツイン・タウン / Twin Town (97年;日本公開98年)
 監督:ケヴィン・アレン 脚本:ケヴィン・アレン&ポール・ダートン
 出演:リス・エヴァンス、リル・エヴァンス、ドリエン・トーマス、ダグレイ・スコット他

 言語:英語 字幕:日本語

 ストーリー:舞台は、スウォンジー。ディラン・トマスが「醜くも愛しい町」と呼んだ、南ウェールズの町。いつも一緒につるみ、悪さばかりするので、「双子」(ツインズ)と呼ばれる町の厄介者兄弟は、この町で退屈をもてあます。ドラッグの密売にまで手を染める汚職警官のテリーとグレヨを、手先に使う町の有力者ブリンと、ツインズはひょんなことから対立するハメに。対立は軽いジャブの応酬から、ついに放火・殺人にまで発展。この放火で父親を殺されたツインズは、はたしてどのような復讐をブリンにするのか・・・ 。


 コメント:「『トレインスポッティング』のスタッフが・・・ 」との謳い文句で、ツインズのハチャメチャぶりだけを強調する宣伝だったが、その実、かなりしっかりと南ウェールズの姿が描かれている。ウェールズ語がわからないウェールズ生まれの若者、歌好きが高じたカラオケ熱、ラグビー、寂れた町に鄙びた丘、そして男声合唱団と、現代南ウェールズの象徴が、至るところに鏤められているのだ。サウンドトラックも、現代ウェールズのポップスで占められている。
 総評:話の流れはともかく、現代ウェールズの一面を浮き彫りにした傑作である。『ウェールズの山』とは、表裏一体の関係にある。



◆ヒューマン・トラフィックHuman Traffic (99年;日本公開2000年)
 監督/脚本:ジャスティン・ケリガン
 主演:ジョン・ジム、ロレーヌ・ビキントン、ショーン・バークス他

 言語:英語 字幕:日本語

 ストーリー:舞台は、カーディフ。クラブ文化が盛んなこの港町で、若者の楽しみは週末のレイヴ・パーティのみ。彼らは平日には気乗りしない仕事で日銭を稼ぎ、週末の夜、その金を持参金に気の合う友人たちと揃ってクラブへと向う。主人公のジップは、ジーンズ・ショップで客にへつらうことでストレスがたまり、その一方で、売春で生計を立てる母親への、何ともやりきれない気持ちを持つ。ジップが恋焦がれる良家出身のルルは、その敬虔な家庭と、クラブ文化の狭間に悩む。モフはドラッグを売るが、決して自分はやらない。DJになることを夢見ながら、レコード店で働くクープは、毎日、仕事帰りに精神病院に入院している父を見舞う。そんな彼らが週末には浮世の憂さから解放され、パブで団結し、クラブに雪崩れ込む。誰もが自由を手に入れ、エクスタシーと愛が交差する週末の夜に、ジップとルルは結ばれるのか・・・ ?


 コメント:1999年トロント映画祭ディスカヴァリー賞他多くの賞を獲得。カーディフ生まれのクラバー、ジャスティン・ケリガン監督は、映画完成時で弱冠25歳。それだけに、リアル・タイムの若者文化を、スクリーンに生き生きと描き出した。ウェールズらしさよりも、若者の悩みや喜びが、イギリス特有のクラブ文化を通じて現れてくる。全編を通じて流れる、クラブ・ミュージックは、フェリー・コーステンの「アウト・オブ・ブルー」を筆頭に流石の選曲。中でもカーディフの夜明けを映したシーンでかかる、オービタルの「ベルファスト」は、映像とマッチしていて非常に美しい。余談ながら、本映画の日本公開直前に代々木公園で行われた、入場無料の野外レイヴ・パーティは、総勢4万人の人々を動員した。このイヴェントのクライマックスには、オービタルが出演した。
 総評:カーディフのクラブ文化を映像を通じて体験したいなら、迷わずこれ。




Hedd Wyn (92年)
 監督:ポール・ターナー 脚本:アラン・ルーイッド
 主演:ヒュー・ガーモン、ジュディス・ハンフレイス、スー・ロデリック

 言語:ウェールズ語 字幕:英語

 ストーリー:第一次世界大戦が勃発する前年の1913年、北ウェールズのプタリのアイステズヴォッド地方大会で、一人の若い羊飼いの詩人が選出される。彼の名はエリス・エヴァンス。またの名を、へッズ・ウィン(Hedd Wyn;白い平和を意味するウェールズ語)。ここからナショナル・アイステズヴォッドに出て、名声を勝取ることは、詩人としての世界的な成功を意味する。しかし、時は大戦へと加速していった。そして大戦のため、ナショナル・アイステズヴォッドが、最低1年は延期されることが決定。平和を愛するが故に軍隊に加わらないエリスだったが、かつての恋人からは「臆病者」と責められ、国の徴兵係りの要求から、家族のうち最低誰か1人が戦争に行かねばならなくなった時、エリスは兵隊に志願する。


 コメント:イギリスでの軍隊の場面をのぞけば、劇中全てでウェールズ語が使用される(英語字幕付き)。実在の詩人を描いたこの映画では、CGや余計な音楽を一切使われず、非常に静かな時が流れていく。しかし北ウェールズの緑美しい自然と、エリスの愛した月夜の風景、そして、時折挿入される詩の朗読が、映像と物語りを非常に豊かに彩る。詩的な言葉と評されるウェールズ語特有の響きが、何ものも代ることの出来ない、美しい音楽を奏でているのだ。アカデミーの最優秀外国語映画賞に輝いた。日本未公開だが、VHSビデオがアメリカで販売されている。
 総評:シリアスでありながら、ウェールズの美しい自然と、エリスを取り巻く優しい家族に、心が癒される作品だ。英語が読めるならば、是非ともご覧になっていただきたい。






ウェールズ?! カムリ!
文章:Yoshifum! Nagata
(c)&(p) 2004-2013: Yoshifum! Nagata








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